夏と恋は人生の重要事項:Arrogante/Irama
露骨にだってなっちゃうよ
恋してるんだから
朝っぱらから急上昇していく気温、青い空、眩しい太陽。
8月末日に公開するなら、もっと夏を惜しむようなセンチメンタルな曲がよかったのかも知れませんが、まぁいいじゃないですか。暑い時期はまだまだ続きそうですし、夏はまた来ますし。
今回ご紹介するIrama(イラーマ)さんの「Arrogante(アロガンテ)」は、いい感じに夏を盛り上げてやるぜ…と制作されたものなのだとか。
こういったイケイケの夏は、今年は一回休みといったところでしょうか。毎年、バカンスのために働いているイタリアの方々のメンタルが心配になります。いちおう「海に行ってきたよ~!」という暑中見舞いも届いてはいるのですが、それもそれで心配です。
なかなかチャラいですね。
夏になるとイタリア人の多くは都市部を脱出して、夏の保養地に向かいます。みんながみんなクラブで踊り狂うわけじゃないんですが、海辺や公園にDJブースが出現するのも珍しくないので、日本よりはダンス文化も一般的なんじゃないかな。音に身を任せるのって、素直に楽しいですよ。
では歌いだしから見てみましょう。
Sono stato troppo crudo
Come un taglio con il sale
オレって露骨だったな、塩の塗られた傷口みたいに
Ma la voglia che ho di prenderti
E di farti mia non mi fa ragionare
でもきみを捉まえて自分のものにしたいっていう願いが、
オレを冷静にさせないんだ
E mi hai detto, "Con me hai chiuso"
Sono stanco di aspettare
きみはオレに「おしまいだよ」っていったよな、
オレは待つのに疲れたよ
Ma se la bocca è fatta per tradire, il cuore per restare
でも口が裏切り上手なだけで、心が残っているんなら
主人公が自分に対して使ってる crudo(クルード) っていう単語なんですが、これは食べ物関連の基本単語としてお知り合いになることが多い形容詞ですね。生ハムのことをプロシュット・クルードって呼ぶのを聞いたことがある人も多いと思うんですが、あのクルードです。要するに「生」ですね。お刺身は生魚なんで pesce crudo(ペーシェ・クルード) で通じます。
なんですけど、他にも「露骨な」とか「剥き出しの」とかいう意味でも使います。あとはその露骨さが生々しいと、不快さを与えるような意味にも通じるので、この場合は好意を文化的に柔らかく伝えることができないほど「生」だった、自分の痛々しい必死さを表してるんじゃないですかね。
最後の《la bocca è fatta per tradire》のところ、きれいな日本語にならなくって忸怩たる思いなんですが、ここに使われている essere fatto/a per ... っていうのは「(主語)は~に向いている」くらいの表現で、直訳すると「口が裏切りに向いている」になります。
E sono un arrogante
E non mi importa se non sei più dalla mia parte
Non è importante
オレって偉そうだよな
どうでもいいんだよ、きみがもうオレの一部じゃなくても
どうでもい
E sono un arrogante
Tutte le volte che eri qui e ti ho messo da parte
Non è importante
オレって偉そうだよな
きみがここにいる度に、あっちにやってたのに
どうでもいいんだ
本当に偉そうだな、
せいぜい後悔するがよいわ。
ここで「偉そう」って訳した arrogante(アッロガンテ) は、辞書で引くと「尊大な」って出るんですけど、私が「尊大な」なんて単語を見かけたのは中島敦の『山月記』に出てきた〈尊大な羞恥心〉くらいなものなので、若者っぽく「偉そう」にしました。不定冠詞をつけて〈un arrogante〉になってるので、もうちょっと忠実にいくと「オレは尊大な人間だ」かな。
イタリア語を1年以上やってて〈Non è importante/重要なことじゃない⇒どうでもいい〉を聞いたことないやつはモグリでしょ。めっちゃ便利な頻出フレーズなので、まだご存知じゃなかった皆さんはここで覚えて、今すぐモグリを脱しましょう。ようこそ、いい加減さこそが強さのイタリア・ワールドへ。
列車が遅れた?――どうでもいい、先に行ってるからな。
担当者がいない?――どうでもいい、話の分かるやつを出せ。
宿題が終わらなかった?――どうでもいい、今ここで考えて答えて。
Balla lentamente, oh, eoh
Senza dire niente, oh, eoh
ゆっくり踊ってよ
なにも言わないで
Con la faccia al sole
La tua pelle che sa di sale, oh, eoh
太陽に向けた顔
きみの肌は塩の香り
Fallo lentamente, oh, eoh
ゆっくりやってよ
Come fossimo io il giorno, tu la notte
Tu viso pulito, il mio pieno di botte
まるでオレは昼間できみは夜みたい
きみの顔はきれいなのに、オレのはアザだらけ
Io e te
オレときみと
夏ですね!
コンラファッチャアルソーレ ラトゥアペッレケサディサーレ のところの音がとても好きなので、布教用にカタカナにしておきます。
どうしようかなって思ったのが「きれい」ってことにした pulito なんですが、これも生活レベルの頻出単語ですね。だいたいは「清潔な」って意味でお掃除関係で覚えるんじゃないかな。これ掃除機のかけてあるお部屋だったり、洗ってあるシーツだったりに使うこともできるんですけど、もっと抽象的に「けがれのない」みたいなお上品さを表すときにも使います。
要するにここの「きれい」は美醜の問題じゃないやつです。
Come un cabaret
Sembri un cabaret e tu
Sembra quasi che non vuoi scherzare
まるでキャバレーみたい
きみはキャバレーっぽいよね
きみはおふざけは欲しくないらしい
Io sopra di te, uh
Tu sopra di me, tu
Calma, calma
オレがきみの上になって
きみがオレの上になって
おちついておちついて
あいにくキャバレーという場所と縁がないので、キャバレーっぽいというのが褒め言葉なのか否かは分からないのですが、口説いてるんだから褒めてるんでしょう。おふざけ抜きで落ち着きなく上に下にってなってってアダルティですね。照れちゃいそう。
Ehi, come Monnalisa, ma con la mia camicia
ねぇ、モナリザみたいだ、でもオレのシャツを着てる
Mi ricordo la tua amica, sembra una calamita
きみの友だちを覚えてるよ、磁石みたいな子だよね
Ora allaccia la cintura che entriamo nella mia vita
Ti riporto a casa dopo che ti ho servita
さてベルトを締めて、オレの人生に入って行こう
きみの御用聞きが終わったら、きみを家に連れて帰るよ
Dai vieni più vicino, si muove quel bacino
La mano tra i capelli, sì, ancora ancora
さぁもっと近くに寄ってよ、腰が動いてるね
手は髪のなかに、そう、もっともっと
Dai vieni più vicino, sul collo tuo respiro
La mano tra i capelli, ma l'altra dove va
さぁもっと近くに寄ってよ、首筋にきみのため息が
片手は髪のなかに、じゃあもう一方はどこへ
E lo so, la bocca è per tradire, ma il cuore no, yo yo
オレは分かってるよ、口は裏切るものだけど、でも心は違う
2行目に出てくる「磁石みたいな」っていう表現は、まるで吸い寄せられちゃいそうなくらい魅力的なっていう比喩として、辞書にも載っています。
英語でいう「サービスする」にあたる単語 servire の訳をどうしようかなって思ったのですが、ここでは「御用聞きをしたら」にしておきました。よく「仕える」や「奉仕する」だとか、あとは「食事を提供する」みたいな訳で使うと思いますが、意中の相手にハイハイっと二つ返事をしてゴキゲンを取るとなると適切とは思えなかったので、大げさに古風な表現を持ってきてみました。チャーミングだといいんですが。
あとは「腰」とした bacino なんですが、これはタライとか洗面器とか、あとはため池とか、水を溜めるものを表現する語でもあるんですが、ここはダンスフロアなので「骨盤」という意味を選択しています。まぁこれ以外はないでしょう。ダンスで勝手に動くタライは怪奇現象ですもんね。
で、ここからサビのくり返しなのですが、そのなかにポツンと投げ入れられた、この2行ですわ。
これです。
Ma l'hai capito pure te?
でもさ、きみも分かったでしょ?
Questo è importante
これって大事なことなんだよ
呟くみたいにして歌ってるところなんですが、この一言が聞きたくって、惚れた腫れたのすったもんだをしてるところあります。
重要事項なんですわ。
イタリアのポップスター
IRAMA(イラーマ)
今回ご紹介した「Arrogante」を歌っているのは、イタリアの人気ポップス歌手の IRAMA(イラーマ) さんです。
とくにアーティストの詳細情報をチェックする方でもないので、この項目のためにちょっと調べたんですけど、どうも un cantautore って書いてあったので、作詞も自分でしていらっしゃるご様子。
日本に紅白歌合戦があるみたいに、イタリアにもサンレモ音楽祭っていう歌謡曲の祭典があって、みんなテレビ中継で見るんですけど、ここからスターダムに駆け上がったアーティストさんなのだそうです。
私は「Arrogante」の方が好きなのですが、こっちの「Nera」の方が人気なのかな。こちらも日焼けの似合うラブソングなので、夏っぽくってオススメです。よくSpotifyのランキングでも見かけます。
イタリア語、癖になってきましたか?
肩の力を抜いてというか、肩に力を入れるまでもなく、ただなんとなく好きだからイタリア語で歌を聞いてみるっていう同好の士を増やしたく、こうしてコツコツと紹介記事を書き始めた次第ですので、よろしければSpotifyやYouTubeなどで、芋づる式にいろいろ聴いてみちゃってくださいね!
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