アラジンの「ホールニューワールド」をイタリア語版で読んでみる:Aladdin/Il mondo è mio
いろんな言語バージョンで歌詞をチェックできると、その分だけいろんな表現でロマンスを摂取できるのでお得だとは思いませんか?
英語と同じくらいの気軽さで、イタリア語にも触れていただけたらいいのにというキモチからこつこつ書いている翻訳ブログなのですが、前回に引き続きディズニー映画の『アラジン』から、今回は大人気楽曲「ホールニューワールド」の歌詞を読んでみたいと思います。
イタリア語版「ホールニューワールド」
「Il mondo è mio」を和訳してみる
(Aladdin)
Ora vieni con me
さあ、ぼくと来て
verso un mondo d’incanto
魔法の世界の方へ
Principessa, è tanto
お姫さま、だってさ
che il tuo cuore aspetta un sì
きみの心は「はい」を待ってるよ
英語版や日本語版は「I can show you the world/見せてあげよう輝く世界」と歌い始めるところを、イタリア語版のアラジンは「Vieni/来て」と命令法で始めます。命令法って聞くと偉そうな態度を取られているようでイラっとしちゃうかも知れませんが、ここは日本語とイタリア語の違いです。日本語でも親しいお客さんにお茶菓子を出して「食べて!」って言いますよね。これと同じニュアンスで、誘ったり勧めたりするときや、指示を出したりするときにも命令法は使います。なので、ここではフレンドリーな響きになっているわけですね。
Quello che scoprirai
きみが見つけることになるのは
è davvero importante
本当に大切なことなんだ
Il tappeto volante
空飛ぶ絨毯が
ci accompagna proprio lì.
きみをそこまで連れて行ってくれる
日本語版では魔法の絨毯って表現されることが多いようですが、イタリア語版では Il tappeto volante/イルタッペートヴォランテ 、つまり空飛ぶ絨毯と呼ばれているようです。英語のカーペットにあたる単語 tappeto/タッペート が入っているので、わりと覚えやすいと思います。
Il mondo è tuo
世界はきみのものだ
Con quelle stelle puoi giocar
きみはこの星々で遊べるんだよ
Nessuno ti dirà che non si fà
きみに「そんなことするもんじゃない」なんて言う人はいない
È un mondo tuo per sempre
世界は永遠にきみのものだ
このパートからアニメ版と実写版とで、歌詞の違いが出てきます。
アニメ版では英語でnobodyにあたるnessunoという不定代名詞を主語に置いて「誰もきみにそんなことをする人はいないだなんて言わない/Nessuno ti dirà che non si fà)」としていますが、実写版では非人称のLoroを主語にして「(不特定多数の一般の人々は)きみに『ダメだ』だとか『許されないことだ』だなんて言ったりしない」Non ti diranno no o non si può」となっています。ここ、非人称の使い方を復習するのにいいですね。また「許されないことだ」と訳してみた non si può については、最初に「~できる」という意味で習うことが多い potere という単語の別の使い方、許可や認可に関して「(許されているという意味で)~してもいい=~できる」とする意味で訳してみました。不特定多数の人が一般常識でジャスミンを押さえつけたりしない場所ですもんね、アラジンが連れ出してくれた星の空って。
(Jasmine)
Il mondo è mio
世界はわたしのもの
È sorprendente accanto a te
あなたの傍は驚くべき場所だわ
Se salgo fin lassù
もしあの高みまで昇って
Poi guardo in giù
そして下を見たら
Che dolce sensazione nasce in me
どんな甘い感覚が私たちのなかに生まれるかしら
(Aladdin)
C’è una sensazione dolce in te
甘い感覚があるのさ
ここでジャスミンが歌う「Il mondo è mio(イルモンドエミオ)/世界はわたしのもの」が、イタリア語版ホールニューワールドのタイトルになっています。
ちょいちょいアニメ版と実写版の歌詞の違いはあるのですが、ここではアラジンがジャスミンを追いかけて歌う「C’è una sensazione dolce」に、実写版ではさらに「in noi」が追加され、ジャスミンの歌詞と続けて読むと「私たちのなかにどんな甘い感覚が生まれるのかしら?」「甘い感覚ならぼくらのなかにあるよ」くらいの流れになることにだけ言及しておきます。
(Jasmine)
Ogni cosa che ho
私が持てるすべてのもの
Anche quella più bella
そのなかで最も美しいものも
No, non vale la stella che fra poco toccherò
いいえ、もうすぐ触れる星ほどの価値はないわ
ここ超好き~!
最後の一行に出てくる valere という動詞は「金銭的に価値がある」っていう意味もあるんですが、他にも「~と同じ価値がある」だとか「きわめて貴重で重要である」っていう風にも訳せる単語でして、個人的になんかこうジャスミンのクローゼットにギラギラしてる金銀財宝の気配を感じさせつつ、また砂漠の夜空に冷たくまたたく星の輝きの硬質さといいますか、手で触れられそうな圧倒的存在感が伝わってくるようで、すごく好きです~!
ちなみに valere はいろんな意味で使える便利な動詞ですので、たとえば「このフリーパスは24時間有効です」の「有効」みたいにも使えます。
あとは最後の「もう少しで触れることのできるだろう星/la stella che fra poco toccherò」っていう表現の未来形が、まだ星に届かないけど、ぐんぐん上昇している感じがしてめっちゃ好きです。
このパートすごく好き。
(Jasmine) Il mondo è mio
世界はわたしのもの
(Aladdin) Apri gli occhi e vedrai
目をあけて、見えるだろう
(Jasmine) Fra mille diamanti correrò
千のダイヤモンドのあいだを走るの
(Aladdin) La tua notte più bella
きみの最も美しい夜だよ
(Jasmine) Con un po’ di follia e di magia
ほんの少しの熱狂と魔法で
Fra le comete volerò
流れ星のあいだを飛ぶの
ここはアニメ版と実写版の違いが多かったです。
たとえばジャスミンの「千のダイヤモンドのあいだを走るの」は、実写版だと「あなたの傍にいるのって夢みたい/E sembra un sogno accanto a te」ですし、最後の「流れ星のあいだを飛ぶの」は「流れ星たちはあなたのために輝くわ/Le stelle comete brillano per te」になっています。
ジャスミンを空に連れ出した「少しの狂気と少しの魔法」のうち、狂気と訳した follia(フォッリア) は、精神の錯乱という意味でも使われるんですが、この場合はいい子ちゃんとして生きてきた常軌を逸するための起爆剤みたいな、閃くような情熱の火花をイメージしていただけたらいいと思います。
(Aladdin) Il mondo è tuo
世界はきみのものさ
(Jasmine) Un corpo celeste sarò
わたしの身体は空の色になるわ
(Aladdin) La nostra favola sarà
ぼくたちのおとぎ話になるだろうね
(Jasmine) Ma se questo è un bel sogno
でも、もしこれが美しい夢だったら
(insieme) Non tornerò mai più, mai più laggiù
もう戻らない、もう下には戻らない
È un mondo che appartiene a noi
この世界はぼくたちのもの
ふつうイタリア語で celeste(チェレステ) というと空色のことです。日本人は薄い青色のことを水の色っていうところを、イタリア人は空の色だと感じているわけですね。なんですが、夜空を飛んでいるジャスミンが水色になるのはちょっと変ですし、ここは「空の」や「天の」といった意味合いの形容詞として、空を飛ぶうちに夜風の色に同化していくイメージを持った方がいいんじゃないかなって思います。
また、ここはアニメ版と実写版の歌詞が中3行がまるごと一致していなかったので、実写版の方も訳しておこうと思います。
※実写版
(Aladdin) Il mondo è tuo
世界はきみのものさ
(Jasmine) È più bello che mai
空前の美しさだわ
(Aladdin) Con te io volerò più su
きみともっと高いところへ飛んでいこう
(Jasmine) Sin dal primo istante
最初の瞬間から
(insieme) Non tornerò mai più, mai più laggiù
もう戻らない、もう下には戻らない
È un mondo che appartiene a noi
この世界はぼくたちのもの
ちなみにアラジンとジャスミンがハモるところの表記にある (insieme) という表記は「いっしょに」という意味で、日常会話でもよく使います。たとえば「いっしょにお昼ごはんにしよう!/ Pranziamo insieme!」とか。
最後の「世界はぼくたちのもの」はもっと上手く訳せないかと悩んだのですが、ちょっと思いつきませんでした。この appartenere という動詞は、英語でいうところの belong にあたる語で、辞書で引くと「~のものである、管理下にある、所有物である」や「~に所属する、一員である《a》」などと説明があります。ちょっと堅苦しいですよね。テイラー・スウィフトの曲に「You Belong With Me」というのがありますが、これも直訳すると「あなたは私に属している」なんですけど、あまりにもかわいくない。もっと温かい感じの、運命的で、柔らかい感じの一体感を表現できるような言葉を見つけられたらなぁと思うので、宿題にしておこうと思います。日本語をもっと読まなくちゃ。
(Aladdin) Soltanto a noi
ぼくたちのもの
(Jasmine) Per me e per te
わたしのため、あなたのため
(Aladdin) Ci aiuterà
ぼくたちを救ってくれるだろう
(Jasmine) Non svanirà
消えてなくなったりしないわ
(Aladdin) Solo per noi
ぼくたちのためだけの
(Jasmine)Solo per noi
わたしたちのためだけの
(insieme) Per te e per me
きみのため、わたしのための
ここのパートの冒頭にある soltanto a noi は、先のパートで登場した appartenere に続いているやつです。世界というものについて、もう一度「ただぼくたちだけに(属している)」ってくり返してるわけですね。
覚えておくといいかなって思う単語を拾ってみれば、注目すべきは aiutare と svanire でしょうか。両方とも未来形の三人称単数のカタチをとっています。
前者の aiutare は「助ける」という意味で、ここでは世界を主語、ぼくたちを目的語にして使われています。日本人になじみのあるところでは、ジブリの映画『紅の豚』に登場する空賊マンマユート団は、イタリア語で「ママ、助けて!」を意味する Mamma, aiuto! をもじって名付けられてますよね。何かあったとき「助けて!」と叫べると心強いので、ぜひイタリアに行く前には「アユート!」と唱えて練習してみてください。
後者の svanire はそんなに使いませんが、英語でいうところの vanish です。覚えていると「希望は失われた……」とか言えるようになります。ちなみに村上春樹の短編作品『象の消滅』は、英語版だと『The Elephant Vanishes』と表記されるそうですが、イタリア語版だと『L'elefannte scomparso(姿を消した像)』になります。ここで使われている scomparire は英語の disappear なので、もうちょっと視覚情報寄りのニュアンスになるんですかね。
ホールニューワールド突入直前
アラジンの名台詞「僕を信じろ」をイタリア語で
ついでなので、たぶん最もキャ~ッとなるシーンのひとつであろう、ジャスミンを夜間飛行に誘うアラジンの名台詞「僕を信じろ」のイタリア語版もご紹介させていただきます。
«Ti fidi di me?»
きみはぼくのことを信じるかい?
ここは英語の Do you trust me? をそのまんまって感じですね。
使われている単語は fidarisi という再帰動詞です。自動詞や他動詞の fidare もあるのでちょっと厄介なんですが、私たちが普通に使う「信頼する」はだいたい再帰動詞の fidarsi di ... でことが足りるので、再帰動詞を先に覚えておいた方がいいんじゃないかなって思います。
あとは「(人を)頼りにする」っていう意味でも使うのですが、この場合はやっぱり人柄に対する信頼の話かなって思うので「きみ、ぼくのことを信じる?」くらいの訳がいいんじゃないかな。
それに対するジャスミンの第一声は「Come?」です。英語じゃないので、発音はコーメ?で、意味は日本語版と同じようなニュアンスで「なんですって?」に当たります。
イタリア語のディズニー楽曲、
ほかにも聞きたい?
じゃあ disneymusicitVEVO がオススメです!
イタリア語もえぇやんと感じてくださったディズニー好きの皆さまにおすすめなのが、YouTubeのアカウントdisneymusicitVEVO(チャンネル登録者数 18.7万人)。
あの曲もこの曲もイタリア語バージョンでお楽しみいただけます。
ほかにもイタリア語の曲が充実していて嬉しいのはSpotify。
こちらでもディズニーの曲がイタリア語で楽しめます。
なんだかめっちゃ流行した「レリゴー」で有名な『アナと雪の女王』だと、戴冠式の準備中に歌う「Oggi, per la Prima Volta/生まれてはじめて」がお気に入りです。
音楽配信サービスのSpotifyも、イタリア語楽曲はなかなか充実しております。声優さんの声の聴き比べも楽しいなって思っているんですが、とくにイタリア語版『ヘラクレス』のメグは、ディズニーのヒロインには珍しく酸いも甘いも嚙み分けたシブい感じがあって大好きです。ヘラクレスへの柔らかな想いをなんとか否定しようともがく「恋してるなんて言えない/Ti vada o no」はかっこいいので超オススメ。
これからもボチボチとイタリア語に関するあれそれをご紹介していくつもりですので、お気に召したらまた遊びにいらしてくださいね。
とにかく「すてきだな」って思っていただけたら、私は大満足です。