読書記録:男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 6. じゃあ、今のままのアタシじゃダメなの? (電撃文庫) 著 七菜 なな
【恋は秘せれば花となり。告げれば毒となる】
恋人の酸いも甘いも味わった二人。日葵の決意と悠宇の思惑をおいて、運命の文化祭が幕開ける物語。
己よりもアクセ作りの夢を優先する悠宇に疑問を持つ日葵。
本当に自分は悠宇が好きなのか?
そもそも、好きとはそんなに美しい物なのか?
美しい花を咲かせる為には間引きする事と同じ様に、節目で取捨選択するのは必要な事だ。
互いの幸せを望むからこそ、すれ違う二人は。
他者からの助言に散々と迷い、文化祭の模擬店は最悪な結果となる。
雲雀に突き付けられた自分が抱えていた矛盾。
恋人同士、という立場を選んだからこその矛盾。
それは自分の強みを殺してしまう物である。
恋人は親友にはなれない、夢と恋は二律背反である。
恋人同士としての想いを求めれば、パートナーとしての想いが邪魔をする。
それでも上手くやってみせると自分に言い聞かせるが。
自分の心に嘘をついて誤魔化しても意味がない。
自分の今の行いが本当に正しい物なのか、という想いに揺れ出した悠宇の裏で。
兄達に対抗心を燃やした日葵は販売会をプロデュースする事を宣言する。
漠然とした不安が残る中で、正念場となる本番は訪れる。
ここまででも波乱、だが本当の波乱はここから始まる。
販売会当日押しかけてきてスタッフに収まった、日葵を「you」であると勘違いする芽依。
更には求める方向性の違いにより、悠宇のアクセサリーの強みが失われてしまう。
ちぐはぐな状況は加速し、彼の心をチクチクと苛んでいく。
自分の目指すべき到達点はここだったのか、道を見失いかける中で。
悠宇の心を救いあげたのは日葵、ではなく凜音であった。
本来ならば日葵の役目であるはずの役目を担って、陣頭指揮をして、更には悠宇の心を立ち直らせる。
それはまさに、日葵が理想として掲げた「運命共同体」のように。
嫌でも実感する、気付かされる。
悠宇は、自分がいつの間にか、踏み間違えていた事に。
見えなくなる、何もかも。
夢だと思っていた物がまやかしだと気付かされて。
「恋人同士」を選んだからこその間違いを突き付けて、凜音は本気で宣言する。
日葵が空けた椅子を自分が貰っていく事を。
彼らはとことん不器用だ。
言葉を一方的に投げるのも、言葉を受け取るだけで返さないのも、それは会話となり得ない。
相手を理解する為には、傷付いてでも、コミュニケーションを取る事なのに。
相手の気持ちを勝手に決めつけて、勝手に解釈して、思い悩む。
恋人とビジネスパートナーである事を両立しようとした。
難しい二つの事を、どちらも出来ると思えるのは、思春期を過ごす彼らとしては正しいあり方なのかもしれない。
とはいえ、いくら信念を持って臨んでも、外的要因によって、ブレてしまうのも悔しいが理解しなければならない。
そんな揺れ動く想いを抱えた彼ら。
恋人として文化祭に挑む日葵と悠宇。
運命共同体でいられるのか、恋人だけで良いのかと悩む二人。
ここにきて芽依の登場でその難しさを、まざまざと実感する事となる。
「恋愛は全ての関係をぶっ壊す毒」である事を体現するかような行動を続けてきたが、ようやく自分の間違いを悟っていく。
悠宇と日葵は、アクセショップを黒字で終わらせるという目標を当初は、目論んでいた。
日葵は悠宇のショップのコンセプトを考えたり、会場のプロデュースをしてみたり、力の限り尽くしてみるが、悠宇の中にはどこか違和感が残ってしまう結果となる。
はっきりと言ってしまえば、日葵には空間のデザイン力やコンセプトを考える力、いわゆる「0を1にする能力」が備わっていなかった。
よって、いくらプロデュースに尽力を尽くしても、アクセサリーが思うように売れない。
雲雀が日葵に言っていたように、日葵はアクセサリーのモデルをする方が適材適所であった。
雲雀はさらに、お店の経営は凛音の方が向いているとも言ってのけた。
しかし、その言葉を受けても、悠宇は日葵のコンセプトに違和感を感じても一旦は信じてみたり。
空間のデザイン力が日葵より高い芽依のアイディアを一回は却下してみたりした。
自分に尽くしてくれる日葵に気を遣ってしまっていたのだ。
悠宇と日葵は、恋とアクセクリエイターのどちらも両立するのは無理なのではないかと感じ始める。
しかも、その後に追い打ちをかけるかのような展開が待っていた。
なかなか売れないアクセサリーが、スーパー完璧人間である雲雀の活躍で急速に売れていく。
それは、けして自分達の力による物ではない。
雲雀の手腕によって、押し寄せるお客さんを大量に捌いて行くような事態になって、悠宇は自分の力のなさを嫌でも思い知らされる。
そして、自分の心に沸いた違和感の正体を突き止める。
悠宇が本当にやりたかったアクセサリーショップは、ローコスト、ロープライス品を大量に捌くような物では無かった。
じっくり丁寧に、一つひとつのアクセサリーを制作して行き、そのアクセサリーを本当に求めているお客さんと向き合って、その成果を買って行ってもらうスタイルを求めていたと理解する。
だからこそ、雲雀のやり方には違和感があった。
恋と夢は両立できないと言う雲雀、恋人は親友にはなれないと言う咲良。
そんな兄姉達の声に対抗心を燃やした日葵が考案した販売会。
それでいいのかと違和感を拭えない悠宇の前に現れた、「you」の一番弟子の中学生、城山の突き刺さる指摘。
関係が変わった事で目指す物が迷走しかけている二人がぶち当たった壁。
その壁は今の彼らにとっては、あまりにも険しい。
そして、悠宇の隣を奪うと宣言した凜音の言葉を聞いて、日葵は自身はどうしたいのか考え始める。
プライベートで恋人でも、仕事上の相棒になるのは全く違う別物という至極真っ当な意見にも、悠宇に盲目な日葵の心には届かなかった。
そして、その結果が招く、当然の帰結である失敗。
何事でも一番になりたいという気持ちも分かるだけに辛い物がある。
雲雀や咲良も高校生に容赦なく選択を強いる厳しさがあるが、それはひとえにライバルとして認めている証の裏返しでもあるのだろう。
だからこそ、その結果から思い知った。
恋は夢を殺す毒であり、夢は恋を退ける毒である事。
夢を選ぶのか、それともパートナーを選ぶのか。
分かっているようで、分かっていなかった矛盾が突き付けられて。
日葵は力不足がこれでもかと示される中で、凜音が対照的に成果を残していく。
二兎を追う者は一兎も得ず。
だからこそ、夢か恋か。
今のままの自分では、まだ足りない。
選ぶのならば、片方は捨てて行く覚悟を持たなければならない。
恋は告げなければ、自分の中で輝き続けるが、それは自分を慰めるまやかしに過ぎない。
気がつかない間に犯していた間違いを指摘された日葵は、どう対処していくのか。
そして、この失敗を受け止めて、悠宇は自分の理想とするアクセサリー作りを体現していけるのか。
意図せず、かなりすれ違ってしまった二人は、これからどうやって、関係を紡いで行くのか。