読書感想:灰原くんの強くて青春ニューゲーム 3 (HJ文庫) 著 雨宮和希
【立ち塞がるは親の存在、自分の本気の夢をどう伝えよう?】
企画した旅行に陽花里が参加すべく、最高の夏を目指す物語。
親の教育方針は、それぞれの家庭の環境による。
心配する愛情が、子供を縛る楔となる。
普段から制約が多い父親にうんざりし、家出してしまった陽花里。
せっかく夏希達が企画した旅行も、親に反対された事が原因で。
夏希の元に泣きつく彼女の想いも汲みつつ、どうやって陽花里の親に納得して貰うか、そのアプローチに頭を悩ます。
人生をやり直している夏希だからこそ出来る現実的なプラン。
いつも笑顔で明るく、完璧な振る舞いをしている陽花里の悩みにとって、それは、かなり刺さる物となった。
大人でも子供でもない高校生という多感な時期に漠然としながらも将来の夢を掲げて。
どうやったら親に理解を得られるのか試行錯誤して。
タイムリープで手に入れた経験だからこそ、それを生かして彼女の悩みに寄り添いながら前進させていく。
しかし、一周目とは違う選択肢を取り続けているが故に、一周目ではあり得ない筈の人間関係を築き、気が付けば想い人である陽花里、と近づくよりも早く、何故か詩の心を掴んでしまって。
何もタイムリープしても無敵ではない。
未来を観測するスキルもないし、未来にどんな影響を及ぼすかも考える前に行動してしまう。
それは夏希の良さであり、同時に危うい点ともいえる。
では、今まで一歩引いた位置にいた陽花里は果たして、動かないのであろうか。
学生にとっては憂鬱な期末テスト、そこを越えれば夢の時間である夏休み。
解放された彼らは今しかない時間を楽しむように。美織とその友人である芹香も仲間に加え大所帯での泊りがけの旅行を企画する中。
陽花里の事を昔から知る唯乃の危惧は的中してしまう。
時代錯誤の石頭な陽花里の父親が課した制限により、彼女だけが旅行に不参加となってしまったのである。
夏希にとっても一周目の人生である意味因縁のある相手。
しかし、その言い分は、厳しいけれど間違ってはいないものがあるのも確かであり。
どうすればいい、と悩んでもそもそも他人の家の問題に口出しするわけにもいかず。
悩む中、唯乃は夏希へ彼女がいる場所を教え。
そこへ向かった夏希は、今まで知らなかった彼女の一面に触れていく事となる。
今まで親の操り人形だった彼女が抱く、小説家になりたいと言う夢。
親からの自立を含めて、自分の人生を生きていい権利が彼女にもある。
糸が切れた人形には人間になる権利がある。
ならば、今こそ、その確執を断ち切るべきで。
その為に、必要な道筋を共に考え、再び反抗心を目覚めさせた陽花里を見守り。
彼の見守る前、陽花里は今まで言えなかった本心を炸裂させ、堅物な父親から譲歩を引き出して見せる。
世の中の物事とは、いつも自分の思い通りに行く事ばかりでない。
白を黒と言わなければ物事が進まなかったり、灰色の妥協した答えを出さなければならない時もある。
しかし、自分の譲れぬポイントだけはしっかりと相手に伝える事が大切で。
陽花里も問題なく参加できるようになった旅行、それは夏希がいたからこそ掴めた、一周目の人生ではつかめなかった確かな結果。
だからこそ、陽花里の中に芽生えた思いは必然であったのだろう。
それは彼にとっては何よりも嬉しい物。だが今は、彼の心に波紋を齎す物。
そう、この時から確かに彼は三角関係の中心地に立たされた。
二人の想いは、痛いほどに分かっている。
自分が優柔不断なのも分かっている。
だが、それでも、確かに選ばなければ前に進めない関係性へと発展してしまった。
旅行を通じて詩や陽花里と距離が更に縮まった中で、芹香とバンドを組むことになった文化祭は一体どうなるのか?