
読書記録:やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。結 (2) (ガガガ文庫) 著 渡航
【受け取った想いはちゃんと返そう、紛いものは消え去るから】
【あらすじ】
これは、もしかしたらあり得たかもしれない、由比ヶ浜結衣のもう一つの物語。
年が明けて、新しい事に挑戦する決意をした結衣。
新たに書き始めた日記にでさえ、本当の気持ちを綴る事は難しい。
自分の事なのに、なんだか気持ちを素直に出せなくて。
大切な人の気持ちが知りたいのに、自分には嘘をついてしまっている。
けれど、これ以上、好きな人と会話と距離が近づけば、今の曖昧な感情は自分の心が許さないのだろう。
だから、うだうだと相手の気持ちを自分の中で考えるのではなく、とりあえず今の気持ちを正直に伝えて行く。
年明けに隼人と遭遇して、要らない誤解を生んでしまった結衣達の紛いものの噂を消す為に、八幡が奔走して行く物語。
アナザーストーリー、つまりは番外編は本編を補完するオマケ的な立ち位置であるが。
ファンにとって、そのもう一つの物語からそれぞれの推しのキャラクターの意外な一面を深堀りする事が出来るし、通常のストーリー展開とは異なる分岐点を辿る事で、新たな可能性を楽しむ事が出来る。
青春ものや恋愛ものでは、登場人物達の関係性が少しでも変化すると、そこからまたもう一つの物語を空想する事も出来る。
読まなくても、本筋から外れる事はないが、その可能性が示す、新しい物語はまた次の考察の余地を残すからこそ、ファンには堪らないものである。
噂話の厄介な所は、その真偽を明らかにせず、ただただ、自分達の憶測だけで、悪意ある誤解や面白がる風潮が生まれる事だ。
人の噂も七十五日とはまさに金言だろうが、当事者はそれが終わるまで沈黙を貫いて、鎮火するのを待つしかないのか?
学校のシンボルのような人気者である葉山隼人が、隠れて女生徒達と付き合っている。
年明けに初詣に出かけた八幡、結衣、雪乃、葉山達をこっそりと影で見ていた者が流した、よこしまな噂。
社会の縮図のような学校で、自分達マジョリティが正義であると思い込んだ生徒達の凱歌の元で、小さな世界はサンドバッグを求め続ける。
正しい事をするのは気持ちがよい、間違った奴は叩かるべき落ち度があるのだから、存分に叩いていい。
過度に正義を主張する行為は、本人達でさえ気付かない抑圧された憎しみのカモフラージュである。
そういった無意識下の大義名分が生む、悪意という名の石の集中投下。
スキャンダルは、人気者であればあるほど面白がれる。
そうやって必要以上に囃し立てて、祭りのように盛り上がる、自称善良な一般市民。
それは常日頃から、自分達が真面目に我慢してルールに従っているのに、そのルールから外れて得している人が許せないから。
また、単純に日頃のストレスを憂さ晴らしする機会を、人々は淡々と狙っている。
にこやかに黒い笑みを浮かびながら、鋭い言葉を刺し続ける。
悪意がない悪意こそが一番恐ろしい。
これが現代社会のトレンドになりつつあるのだから、どうかしている。
不健全でどこか病的な楽しみでしかない。
その渦中に晒され続けた人気者である隼人達。
本人が釈明しても、それは言い訳にしか映らない。
真実を言葉に出来ない歯がゆさを抱えたまま、じっと耐え忍ぶ彼らの現状。
噂を肯定も否定もしない隼人に、業を煮やした三浦優美子が奉仕部に解決を依頼してくる。
奉仕部として、その噂の収束を依頼された八幡。
その孤軍奮闘をサポートしてくれる平塚先生と一色いろはのアドバイスを参考にしながら。
この歪でどこか気持ちが悪い状況を、第三者が覆してやらないと収まらないと覚悟を決める。
隼人達の正直な今の気持ちに耳を傾けた八幡。
そこで何故、噂話に沈黙を貫くのか知っていく。
その想いをちゃんと受け取った上で、八幡は行動を示していく。
あらぬ噂を流して傷つける事を楽しんでいる生徒達に分からせてやる為に、学校のイベントのマラソン大会で、普段の陰キャな彼らしくない、無茶な行動に打って出る。
運動部のエースである隼人と無茶な駆け引きのレース展開を繰り広げる。
慣れない激しい競争に、青色吐息であるし、不快な汗も飛び散る。
その食らいついてくる、彼らしくない姿勢に、沈黙を貫いていた隼人も応えていく。
堪りかねた本心がようやく吐き出された。
そんな彼らの不器用すぎる足掻きは、言外のメッセージとして噂を楽しむ生徒達に伝わる。
「自分達は安全圏で陰口をコソコソ囁くのは、カッコ悪いよ」と。
迂遠で不器用なやり方だとしても、八幡が見せた作戦は、根も葉もない噂に終止符を打つ。
彼の青春とは実に面倒臭くて、ただ親しい者を守りたいだけなのに、あれやこれや言い訳をこねくり回さないと助けられない。
自らを犠牲にして、こうして八幡にまた一つ黒歴史が刻まれた。
マラソン大会をそうやってボロボロになって走り抜いた八幡を結衣が仄かな想いも込めながら、労って治療してあげる。
本編では紛いものとされた自分の想いも、このifの世界でなら、本物になれる。
言葉や行動の節々から溢れ出る、八幡への愛。
ここから、結衣ルートへと突入していく。
自分の為に好きな人がこんなに頑張ってくれれば、もう自分の気持ちに嘘はつけない。