読書記録:魔王軍最強のオレ、婚活して美少女勇者を嫁に貰う 1 可愛い妻と一緒なら世界を手にするのも余裕です (HJ文庫) 著 空埜一樹
【欺く為の偽りの愛情がいつしか、熱を帯びた本物となる】
惨敗の魔王が光の勇者と婚約する物語。
魔王と勇者。
水と油の様な本来交わる筈の無い二人。
しかし、一線を画すのは、魔王は世界を征服するつもりは無く、勇者も世界を救うつもりが無いという事実。
そう、彼らは敵同士ながらも、恋仲にある関係で。リィドとレナは結ばれたいと想う一方で、周囲の軋轢が邪魔してくる。
世界を欺く為に訪れた結婚相談所で運命的な再会を果たした二人は、世界の命運など些末な事で。
彼らが幸福に結ばれる為に超えるべき難題を超えていく。
婚活は、あくまでも通過点に過ぎず、その先にある二人だけのささやかだけど大きな未来へ歩みだすきっかけに過ぎない。
魔王とその軍勢がやってきて、世界に現れた「光の勇者」に撃退されるという歴史を、それこそ限りなく繰り返してきた世界で。
今代の魔王であるアスティアに最初に支配された街の生まれであり、人間でありながら魔王に見出され四天王トップへと上り詰めた青年、リィドはそこはかとなく空虚を感じていた。
そんなある日、アスティアに呼び出され聞かされたのは、魔王にあるまじき彼女の本音。
良い意味で魔王らしくない、融和を是とする争いを好まぬ彼女は、長く拮抗が続く戦いに飽きていた。
さっさと楽隠居するために必要なのは光の勇者を無力化する事。
覚醒前の勇者を捕らえるべく、「ドレイン」の力を持つリィドは人間の領地に派遣されたのである。
更にここで運命は、あっという間に転がり出していく。
拠点となる家が家族向けであった為に結婚相談所に行ってみれば、まるで運命的に合致したというかのようにマッチングした相手。
それは昔の幼なじみであり初恋の相手であるレナであり。今は冒険者で糊口をしのぐ彼女に連れ出され目撃したのは、彼女こそが勇者であると言う証拠だった。
アスティアに指示を仰ぎ、命じられたのはそのまま結婚してしまえと言う指示。
リィドの「ドレイン」の力で覚醒を遅らせる事で時間を稼ぐと言う方向性でいく為、そのまま結婚する事となるがその会話をレナに聞かれた事で。
リィドの正体がバレてしまい。
しかし、レナもまた、平和に幸せになりたいと言う思いを抱いているという事が判明し、二人の利害関係は一致する。
であるならば、二人の間に愛はないのか、というとそうでもなく。
実は二人は共に初恋の感情を未だに持っており、故にこの状況は渡りに船で好都合な条件であったのだ。
2人で共に家事をしたり、夫婦らしさを考えてみたり。
更には、リィドのドレインを行うためという名目で密着してみたり。
更には噂ともなっている宝石を探す為に、四天王の同僚であるクロエの案内の元に冒険を繰り広げたり。
無論、それだけではない。
魔王の意図を組めず、魔王に叛逆した者達の魔の手が迫る。
その暴虐を止めようとして、レナの魔力が暴走してしまう。
相手の身を案じて逃避する事を希うが。
逃げてと言われて、逃げる事を選ぶような軟弱者ではない。
そんな選択は、己の魂が許さない。
ならば何をすべきか、決まっている。
全てを助けて生き延びる、ただそれだけ。
難しいようでシンプルな答えを頼りに、その心の吼えるままにレナを助け、吸い取った力で生み出した極大の魔術で決着をつけていく。
始まりは偽りだったのかもしれないが、互いに共に過ごす日々が、確かな絆を育てていた。
偽装結婚を建前に探り探りイチャイチャする二人の初心さと糖度満点のやりとりは初々しさが残る甘酸っぱい物で。
両片思いな筈のにすれ違う様のじれったさも格別でその不器用さも尊い。
困難を乗り越えた先に広がる晴れ舞台で。
二人の門出と世界平和はどうなるのか。
各種族の確執がなくなり、わだかまりが消えて融和を果たした世界を掌中にする。