読書感想:りゅうおうのおしごと! 16 (GA文庫) 著白鳥士郎
【産まれ持った欠落があるからこそ、天辺を目指す意味がある】
遂にあいは初タイトル戦で、女流名跡である釈迦堂里奈との熱い火蓋が切り落とされる物語。
皆の想いを背負い必ずタイトルを獲得すると宣言したあい。
その行く末に立ち塞がるは、不動の女王。
新時代の戦法を使いこなすあいに対して、歴史を積み重ねた古き戦法でいなす里奈。
彼女の欠落と同じように弟子である歩夢も障害を抱えていた。
その欠落があるからこそ、将棋の才が秀でている。しかし、過去の因縁に縛られる里奈の重荷をあいは断ち切る。
狷介な師匠持ち、棋界の傍流で、何より女性棋士という困難さを一身に背負った里奈。彼女を色物扱いせず真に理解するのは弟子のほか清滝・山刀伐など僅か。
それは彼らも我が道を歩み続ける「魂」の持ち主だからだ。
そして「魂の相似」はその連鎖を生む。
女流名跡戦最終局であいが辿り着いた境地がそれだ。
八一や清滝さらにその先代から引き継いだ技。
何よりも将棋の頂きを極めんとする心が、己の中に息づいていることに、彼女は八一に改めて気づかされる。
天衣の指す未来の将棋の形にこの物語の全てを持っていかれたような感覚は八一の心情その物なのかもしれない。
ただ、それでも釈迦堂と歩夢の絆にぐっと込み上げるものがあったことも確かだ。
「雲外蒼天」
雲を突き抜けた先には真っ青な空が広がっている。しかし、雲を抜けた先にははるかに険しい道が続いていて、タイトルを取ることがゴールではない。
さらにその先の頂きを見据えて、彼らはひた走る。
それぞれの決意、それぞれの過去、ぞれぞれの気持、それぞれの成長は盤上で交差する、本当に熱い真剣勝負。
一人の少女は自分の殻を破る、より輝く明日の全盛期に歩みを進める。
一人の少女は翼を広げて、雲外蒼天に辿り着く。
一人の少年は鎧を纏う、本物の騎士として姫様の伴侶となる。
そしてもう一人の少女は人智を超える禁忌の力を手に入れる。
それぞれが、自分の目指す一歩先に未来へと漕ぎ出す。
かつて好きだった人の言葉を胸に刻みながら新しい未来へと踏み出した里奈の背中はひたすらに力強くて、凛々しく美しかった。
将棋の世界は清らかなばかりではなく、特に女性には苦しい環境も多かったけれど、変わりゆく事、この時代にあいたちが将棋を続けられる事は、ひとえに過去の先人達が未知の道を切り拓いてくれたからだろう。
しかし、そんな先人達が築いた歴史すらも越えて、あい達新世代は、新たなる将棋界のスタンダードとなる戦法を創り出して行く。