読書記録:冴えない僕が君の部屋でシている事をクラスメイトは誰も知らない2 (角川スニーカー文庫) 著 ヤマモトタケシ
【心は未熟ゆえに割り切れず、想いは歯止めが効かない】
クラスの問題を解決したからこそ、麻里花にアプローチを受ける佑希を見た柚実が暴走し始める物語。
相手と身体だけの関係に依存する。
心が伴わなくても、感じる気持ちよさは同じであり、その快感を以てして、いつしか相手の心が自身に傾くように仕向ける。
しかし、その行為はどこか自分を虚しくさせるものである。
相手と本当の意味で繋がれない悲しさがある。
表立って胸を張り、その関係を誇る事が出来ない後ろめたさもある。
そして、身体だけの関係はいつしか飽きてしまう。
それを薄々に察しているから、ますます性へと依存して、自分自身が疎かになっていく。
負のスパイラルに陥っている渦中は、当人にはどうしても分からない。
自分自身を大切にしなければ、人から魅力的に見えない事を、若くて思春期真っ只中である若者はなかなか気付けない。
佑希とのセフレの関係が唯一、柚実にとっての心の拠り所だった。
そんな自分達の関係に入り込んで来た不穏分子となる麻里花。
前巻で麻里花の行動から始まったクラスの問題を、佑希は我が身を顧みずに解決に導いた事で、麻里花の恋心の引金は決定的に動いてしまった。
些細な佑希の日常に事あるごとに入り込んでくる麻里花の動きを見て、不安に駆られる柚実。
身体だけの自分と違って、想いで深く繋がろうとする麻里花を見て、人知れず焦りに蝕まれる柚実。
空気のようだった自分を形のあるものにしてくれた佑希を失う事は、彼女にとって耐え難い苦痛であった。
愛なんてなくても良いと割り切っていた心が、いつしか本物の愛を求めるようになる。
互いに佑希への譲れない想いが交差して、事あるごとに彼を賭けて対決を挑むが。
放任主義の家庭の問題を過去に持つ柚実は、不安定なほどに未成熟な心の持ち主だった。
姉である伶奈も、家に寄り付かず、母親も仕事を理由に柚実を放ったらかし。
相手に愛されるには、相手に何かメリットがある事をしなければならない。
相手に興味関心を持ってもらう為には、相手が望む自分でいなければならない。
彼女は強迫観念のように、自らの生き方を他者へと依存する形で、歪めてしまった。
彼女の心はどれだけ愛で満たされても、底に僅かな穴が空いたバケツのように、受け取った愛がすり抜けていくのである。
彼女にとって、他者からの愛は自らが生きる源。
それが、ことごとくこぼれ落ちていくのだから、欲求不満にもなる。
大学生の姉が帰ってきた事で、いつも通りの秘め事を、佑希と出来なくなってしまい、その焦りはますます顕著になり、柚実の未熟な心をかき乱した。
そんな妹を見て、何か思惑を企てて彼らの関係に居座る伶奈。
妹の切実な恋が成就する事を願いながら、それに肩入れする事はなく、三人の危うい関係が破綻しないように、大人としての配慮した素振りを見せる。
停滞していた佑希達の関係が否が応でも動き出す。
そんな伶奈に感化されて、柚実は身体へのアプローチ、麻里花は心へのアプローチを極端なほどに強くする。
柚実は自分を磨く為にバイトを始めたり、麻里花は佑希を体育祭実行委員に引き込んで、急速に関係を深めようとする。
純粋な関係を保てない事に負い目を感じた柚実は、麻里花に対して、佑希とセフレの関係である事を打ち明けて、マウントを取ろうとする。
だが、そんな事をしても、虚しくなるだけである。
それで佑希の心が手に入る訳でもなければ、麻里花が彼への恋慕を諦めてくれる訳でもない。
セフレという関係は人に誇れるようなものではなく、自分に得になるような行為でもない。
しかし、どうにかして、今自分が抱えている心の空白を埋めたかった。
その告白によって、右往左往していた彼らの関係はようやく同じスタートラインに立つ事になる。
散々と混乱して、揺れ惑って、両立する事が出来ずに、持て余した想い。
悩みながら迎えた補習を遂げて、柚実の誕生日を祝った先で、伶奈が語る柚実の心情の不安定さの事情を伺い知った佑希。
それから、伶奈はこれは三人で解決しなければならない問題だとも言った。
その彼女の見解によって歪んでいた彼らの関係が少しずつ軌道修正していく。
そして、久方ぶりにする佑希との秘め事によって、今までずっと、もどかしく自分の中で抱えた重荷を下ろす事が出来た柚実。
それから、どっちつかずの立場を貫いていた間男であった佑希は、その中途半端な態度が、如何に彼女達に対して不誠実であったのかを自覚した。
始まりからして、不純であり、フェアなものではなかった。
対等な関係になる為には、勇気を出して、今の現状をありのままにさらけ出すしかない。
その柚実の踏み出した一歩と、現状を受け入れた麻里花、自らの至らなさを自覚した佑希。
それぞれの心情の変化によって、ようやく純真な三角関係のラブコメが始まった。
受け身であった彼女達の想いに報いる、最善の策を模索し始める佑希。
しかし、彼女達の心を傷つけずに進む方法など、無理難題に近い。
それでも、気を配って慎重に、薄い氷で出来た綱を渡るかのように、繊細な彼女達を思いながら、立ち止まる事も後戻りも出来ずに、ひたすら自分達の関係を健全な方向へと進めていく。