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読書記録:冴えない僕が君の部屋でシている事をクラスメイトは誰も知らない3 (角川スニーカー文庫) 著 ヤマモトタケシ 

【彼女達の想いにちゃんと報いよう、後悔の無い決断をしよう】


【あらすじ】

遠山佑希と高井柚実のセフレ関係を打ち明けられたは、はあるがままに、受け入れた。
その上で、恋のライバル宣言をした。
柚実と図書館デート、麻里花とオープンキャンパスと、不誠実に彼女達の間を行き来する佑希。
後ろめたい気持ちを抱えながら、夏休みを終える。

佑希は、この不安定な関係は長続きしない事を分かりながらも、はっきりとした答えが出せずにいた。そんな状況を歯がゆく感じた柚実の姉である伶奈のはからいで、突発的に沖縄へ旅行する事になった3人。
二人の気持ちに誠実に向きあうと決めた佑希は最終日に3人だけで無人島に泊まる事を決める。
真っ暗な彼らしかいない深夜の無人島で、これからについて語らい合っていく。上原麻里花

あらすじ要約

登場人物紹介

柚実と麻里花を優柔不断にキープする佑希は、伶奈の勧誘で沖縄の無人島で、答えを決断する物語。


どちらにも良い顔をしようとするからこそ、その狭間で板挟みになる。
正解などないのだから、時にバッサリと竹を割ったように決める事も肝要だ。
しかし、人は思い悩み、迷ってしまう。
取捨選択する以外に他の選択肢がないのか、考えこんでしまう。
その状態を、世間は優柔不断だと叱りつけるだろうが、どちらを選ぶ上でのメリット、デメリットを考え上でも、両方が今の自分を保つ中でどうしても大切で失いたくない。
大人になれば、考えるのが面倒でスパッと決断できるのだろう。
しかし、思春期の子供と大人の境界線を揺蕩う青年にとっては、自らの欲望と相手の気持ちへの配慮を割り切る事が出来ない。
それは、もはや好きとか嫌いの次元を越えてしまっている。


誰に対しても優しいのは、誠実なようでいて、実は不誠実だ。
柚実と図書館で逢瀬を重ねて、不意に心体共に密着したかと思えば、麻里花と大学見学に出かけて、公共の場に関わらず、いちゃいちゃと自分達の世界にに入り込む。
気心知れた彼女達とのその時間は、あまりにも楽しい。
一緒にいるだけでときめくように嬉しい。
しかし、心の中に渦巻くのは罪悪感。

優柔不断で胸を張って、周囲に関係を誇る事が出来ない故に。
伶奈に連れ立って計画を決める沖縄旅行。
その資金稼ぎを始めるべく、柚実のバイト先で麻里花も誘って、バイトする事となる。
居心地が悪いが、スタッフ達とも仲良くなる中で、恋敵である達也から、ある言葉を突きつけられる。どちらかを選ぶ、それは決定権のある者のエゴでしかない事。
どちらとも大切にしたい、しかしそれは、二人を天秤にかけている事と同じ。
このまま、どちらとも選ばなければ、心をすり減らしたのちに破滅する。
しかし、どちらかを選んだとて、それは自らのエゴによる取捨選択にすぎない。
どの道を選んでも、待つのは修羅場のような地獄でしかない。
自分達が陥っている問題は、想像以上に業が深い事を思い知らされる。

日本は一夫多妻制は容認されないので、女性を二股する男性は世の中から、蛇蝎の如く嫌われる。
しかし、世間が許さないからではなく、佑希は、彼女達の笑顔と好意に甘え続けている自分自身が許せなかった。
その贖罪の機会を伶奈の気遣いを貰って、三人だけのペンションで、辿り着いた無人島で下した一つの決断。
この関係に答えを出すのは難しい。

柚実と麻里花、どちらを選ぶのか。
それともどちらも選ばないのか。
自らの心の底を、独りになって見つめ直した時、行き着いた気持ちは、やはり、彼女達の事が心の底から好きだという事。
好きという気持ちは確かであるけれど、不器用だからその感情の落とし所が分からないし、その気持ちを二人に上手に伝える術も持ち合わせてない。
しかし、ちゃんと終わらせなければならない。
でなければ、彼女達をこれからも傷付けて、自身が苦しみ続けるだろうから。

自分なりに未熟ながらも、出した結論。
十分に納得出来るような答えではないが、自分で必死に考えて導き出した答え。
この選択は苦い結末へと駆け上がっていくが、それでもきっとこれが、自分達がそれぞれに幸せに至る為の、健全な選択なのだろうから。
過去があるから、歪でも今の関係が成り立つし、未来へ向けて、この関係を出来る限り正しい方向へと維持していく。
どちらもやはり好きだからこそ、誰に謗られようと、この関係を守っていきたい。
恐らく、この先へと明るい未来へと続く階段は、途中で踏み外して、破滅していくだろう。

しかし、それまでは取れる選択肢を無限にあるはずだ。
失敗したって構わない、彼女達の痛みや傷は自分が全て、引き受けいれる。
彼女達が互いを傷つけ合わないように、自分が緩衝材となって、愚痴も嫉みも全て受け入れる。
望んだのは、甘くて美しい共依存という名の檻。

それに囚われるのは世間が言う幸せの形からかけ離れているけれど、自分達は満たされる。
自分達はそれで十分で、ならばそれで良いじゃないか。
佑希は、これから三人が積み重ねていく、酸いも甘いも含まれた未来が見据えたかった。
その答えを三人の中で分かち合って、呪われたような運命を共に委ねていく。
他人が傍からみれば歪で、狂っていて、気持ちが悪いかもしれないが、この結論が一番、今の自分達の中で落ち着く。

他人から誇れるような関係ではないが、開き直って、取り戻したぬるま湯に浸かるような優しい心地よさ。
地獄が訪れるまでは、少しでもその甘さに酔いしれよう。

そんな覚悟を彼らは共有した事で、心を覆っていた闇は、ようやく晴れ渡ったのだ。










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