読書記録:殺人鬼フジコの衝動 (徳間文庫) 著 真梨幸子
【操り人形の様に踊らされて、狂った生涯を演じ切る】
一家惨殺事件から生還した少女の人生が、次第に狂い始める事で、伝説の殺人鬼が誕生する物語。
子供の人格形成と周囲の環境の関係は切っても切り離せぬ。
虐待された子供が親になって己の子供を虐待する悪循環。
幸も不幸も受け取り方次第。
フジコは容姿が恵まれず、醜悪な家庭にあった。
悲惨な幼少期を過ぎ、大人になって彼女が手にした物。
夢や希望を持つからこそ、絶望は産まれる。
世の中を渡り歩く中で、罪の意識が欠如して。狂った様に人を殺して。
劣悪な家庭環境、子供らしい可愛さを微塵とも感じられない同級生。
どうしようもない状況下で育ったフジコはみんなから嫌われないように生きてきた。
周りの期待に応えようと、偽りの自分をマリオネットのように演じて。
それが彼女に身についた処世術だったが、後にその綻びが罪悪感を感じない冷徹な人間にしてしまう。
母親を反面教師にしようと必死に抵抗するも蛙の子は蛙という言葉通り、それ以上のモンスターに変貌してしまったフジコの末路。
あんなに嫌だった母親にどんどん酷似していく自分の生き方。
結局のところ、親と近い人生をなぞるように歩んでしまう。
自ら変えられる部分もあろうが、多くは遺伝するものだ。
貧しい環境で育ち、何の取り柄も無いが故に、「見栄」と「金」に執着し、結果的に彼女が忌避していた母親と似たような道を歩む事となる空虚感。
そんな負の連鎖の運命に絡み取られながら。
フジコにとっての幸福とは、己の欲望を満たす事で。
そんな飢え乾きった心理的過食症は、いくら満たしても、満足する事は出来ずにいて、これでは幸せになるのはほぼ不可能だろう。
自己肯定感が低く被害妄想が強い彼女にとって、一度リミッターが外れてしまうと、バレなきゃ悪い事にならないと、いとも簡単に息をするように殺人を犯していく。
人間の醜さ、グロテクスさがこれほどまでに赤裸々に描かれている。
フジコは、徹底的に幸せがどこにあるかを模索する中で、少しでも邪魔が入ろう物なら遮二無二なって相手を抹殺する。
躊躇もないし、行動の異常さを理解しない彼女の行動原理はやはり、叔母が思わず漏らしたように、母親のカルマなのか。
養育環境なのか。
それとも、善人から介入を受ける機会がたまたまなかったからなのか。
どうすれば、彼女のようなモンスターを産まずにすんだのか?
「私じゃないのに何で?」
「何で私ばっかり?」
「どうして私が?」
常に理不尽に対して、どうしよもない責任転嫁で逃れようとして。
自分を陥れようとする世界に牙を剥く。
しかし、そんな醜悪さを知ったとしても、闇は闇のまま、光は光のままに、それを共存させる事が出来るからこそ人間であり、未来があるのだろう。
光一色の世界なんて、闇一色より恐ろしい。
どんなに光輝いて見える人だって、心の底では闇を抱えている。
どうしよもない現実だが、虐待、いじめ、詐称、虚飾、貧困、犯罪、泥沼のスパイラルは確実に我々の目の届かない所で行われている。
人生は薔薇色のお菓子のようで。
着色料たっぷりの、甘い甘いお菓子。
舌まで薔薇色になってしまう。
でも、フジコは知っている。
その薔薇色は毒の色だ。
だから、毒の部分を上手にかわして、それとも毒の部分は誰かに譲って、美味しい所だけを利己的に味わう。
上手く喰い物にしていた筈が、いつしか喰い物にされている無限地獄。
その欲望に際限はなく、満たせば満たすほどにこぼれ落ちていく。
そんな彼女の生き様を眺めていると、ふと脳裏に浮かぶ。
貧乏は、環境や社会や制度が作り出す物ではない。
どんなに社会が寛容になって、貧乏をなくそうと努力しても無駄なのだ。
無計画でその日暮らしでだらしなく、調子に乗って変な所で散財するような人達は、お金がどんなにあっても結局は、破産する。
享楽的に生きるのでなく、少ない稼ぎでも堅実にコツコツと地に足ついて生きれるなら、いつか生活は向上する。
殺しても殺しても救われない、続いていく負の連鎖。
無自覚な残忍さと邪悪さは、容易に人を悪魔に変えてしまう。
法的な罪ではなくとも、私利私欲の為に人を軽視し言動の刃で人を傷つける事は誰にしも存在する行為であって、そんな小さな事が連鎖して大きくなり、残虐な事件に発展する。
そんな歪な現代に警鐘を鳴らす。
幸せに生きようと藻掻くほどに、気付けば不幸の谷底に落とされている。
どんどん深みに陥って破滅する彼女の生き様を反面教師にするしかない。
不幸な生い立ちにあっても、被害妄想を抱かず、周りと比べて、自分を高望みして、分不相応な環境に憧れるのでなく、置かれた場所で自分なりの生き甲斐を見出していく。
真面目に生きていれば、自分に対して誇りが生まれるし、そんな姿を誰かがきっと見ていてくれる。
不幸な生い立ちを覆し、幸せに至る道は恐らくそこにしかない。
本来の自分を誤魔化して、整形で飾り立てるフジコの姿は痛々しく、狂った人生は虚無感で満ち溢れていたのだ。
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