読書記録:世界で一番『可愛い』雨宮さん、二番目は俺。(GCN文庫) 著 編乃肌
【ダイヤの原石のような君と可愛さを磨いて光って行こう】
女装した姿が世界で一番可愛いモデルである光輝が、己以上に可愛いと思える地味めな同級生·雫を熱烈にプロデュースし始める物語。
昨今は、男だから、こうしなさいや、女だからこうしなさいという前時代的な考え方はダサくて古臭い。
男でもメイクをして良いし、女でもスキンヘッドにしても良い。
見た目は、その人だけが好きなように自由に変えられる権利がある。
根本的な性別の問題を抱えながらでも、大切なのはその人に似合うのか、似合わないのか?
そして、その人に相応しいかどうかは、その人の立ち振舞いや、仕草、それらを形成する絶対的自信から生まれる。
自分に適性があるからやるのではない。
自分がやりたいからやってみる。
似合う服ではなく、着たい服を選ぶ。
それに見合った自分に変わる。
周りの評価に晒されながらも、自分が信じたい物を貫く。
人からどう言われて、どう思われたとしても、自分に対して信念とポリシーを持っていれば。
特別に虚勢を張らなくても、自然体の姿が魅力的に映る物である。
ただ、自分に対する信念とポリシーを日々の弛まぬ努力によってにしか生まれない。
そうやって、日々を研鑽しながら足掻く者だけが、ジェンダーレスや多様性を主張出来るのだと思う。
そして、今の自分を少しでも変えてやろうと、ちょっとした事でも行動を移す事。
それこそが、自分自身を褒めてあげられる、自己肯定感に変わるのだろう。
やはり、何もしない自分を自身で愛する事は出来ない。
自分自身を愛するには、苦手を克服して、自分の長所を出来る限り伸ばしていく事。
自分を愛せるようになれば、人から愛されるようになるから。
女性向け大手ファンションブランド「Candy in the Candy」を立ち上げた従姉妹に頭が上がらず、モデルを探す彼女のお願いを断れずに女装する事になった光輝。
普段はうだつの上がらない男子高校生でも、お洒落な服を身にまとい、素敵なメイクを施せば、世界一可愛い美少女に生まれ変わる。
今どき女子ファッションブランドで絶対的地位を築いたhikariこと光輝。
出る杭は打たれると言われるが、圧倒的に個性を突き抜けてしまえば、逆にバッシングされにくい。
自分に対して並外れた自信を持った彼が、前髪に隠された宝石のような煌めきを持つ雫と出逢う。
せっかく、天性の素材を持っているのに、その活かし方を知らない彼女。
野暮ったくて、ダサい私服しか持っていない。
分厚い眼鏡にもっさりした髪型。
美的センスも壊滅的。
せっかく、可愛らしい顔をしているのに、その長すぎる前髪が魅力を覆い隠してしまっている。
彼女は丁寧に磨いていけば、目の覚めるような輝きを必ず放つ筈だと。
光輝の審美眼が敏感に反応した。
女装した自分が世界で一番可愛いと自負していた光輝でさえも、それを越えるくらいのポテンシャルを持っている事に気が付いた。
現役モデルである自分の立場や人脈をフル活用して。
美的感覚は、普段のあらゆる言葉、行動、性格によって養われるからこそ。
メイクや身だしなみから始めて、生活習慣、適度な運動や十分な睡眠といった基礎的な美意識改善の指導や。
上品な所作や愛らしい仕草、料理や手芸などのスキルなど、教養のある素敵な一人の女性として仕立て上げていく。
周りに流されず、美意識を強く保ち続けるという事は、周りから見れば理解され難い物でもある。
地味に辛い事を毎日、毎日ひたすらに繰り返していく。
普通の人は真似しようと思えない。
あまりにも途方がなくて面倒だから。
だからこそ、美意識を保ち続ける人に対して、羨望が内在した嫉妬の眼を向けてくる。
美意識を高め続けるのは、ある種、自分に酔っている状態でもあり。
ひとたび、正気に戻ってしまえば負けである。
人より飛び抜けた自分で在る為には、何処かでリミッターを外さなければならない。
常軌を逸した狂った自分でいる事を、自己洗脳しなければならない。
その独特の思想を持つ光輝に、愛されながら磨き続けた果てに、雫は花がほころぶような超絶美少女へと変貌する。
パッとしない蛹から、見目麗しい蝶へと生まれ変わる。
雫の素朴で飾らない笑顔を見て、今まで一番可愛い自分が二番になる事を、自然に納得出来た光輝。
美しさは嘘を付けない。
美に携わるからこそ、嘘を付かない。
そこに、純然たる存在する物を否定出来ない。
だからこそ、もっと自分に自信を持って欲しいと彼女の背中を力強く押す。
自信がついた雫は、廃部寸前の写真部の部員である雷架に被写体となって欲しいと依頼されて。
恋バナ同盟を結ぶ事になる。
恋に対して、トラウマを持っていた雫でも、光輝が向けてくれる優しさにどうしても惹かれていた。
尊敬もあり、リスペクトもしていた。
でも、それ以上に、好きだという気持ちが溢れ出してきた。
だからこそ、彼の期待に応えたい。
むしろ、彼の予想を上回るような成長を遂げたい。
どんどん、拡大していく自分の世界。
でもその根底に常にあるのは、変わりたいという強い想い。
その動機は、変わった先で想いを告げたい人がいるから。
そうやって、率先して自分から変わりたいと思えた事に対して、雫は衝撃もあった。
それでも、光輝にプロデュースされて、どんどん可愛いが自分の身体に浸透してきて。
周囲からの評価も変わってきている事を実感していた。
そして、次の夢が仄かに彼女の心の中に浮かび上がる。
光輝ことhikariの隣に並び立って、「Candy in the Candy」の二枚看板として活躍してみたい。
そうやって、才能を開花させた暁には、今の気持ちを光輝に告白してみたい。
女子は恋を食べる事で美しくなり、愛という名の太陽で、芯の真っ直ぐした可憐な乙女へと花を咲かせていく。
好きな人の為に、いつまでも美しく在りたい。
想い人の為に、可愛い自分でいたい。
見られても恥ずかしくない自分でいたい。
そのまっさらな想いの為に、自分を磨き続ける世界で一番素敵な恋を抱き締めて。
そうやって、健気に踏み出す歩みを止めない、雫のいじらしい想いに、いつか、光輝は気が付く事が出来るのか。