読書記録:青春ブタ野郎はマイスチューデントの夢を見ない (電撃文庫) 著 鴨志田 一
【千里眼のように相手の事が分かるからこそ、生まれた悩み】
咲太の新たな教え子、沙良を担当に受け持つ物語。
透子によってプレゼントされた思春期症候群。
幾多の生徒にそれは伝播され、受け取った一人が沙良だった。
しかし、本人は治る事を望まない。
咲太はその深層心理を迫っていく。
沙良は人の好意を受け取る事に慣れている。
恵まれた容姿、コミュニケーション能力のおかげでずっと皆から好かれ続けてきた。
沙良にとって好意とは人に与えられる物であり、自分から発信する物でない。
優しい人になると決意した咲太にとって、彼女の心の障害は難しい物で。
それでも答えを導いていく。
彼女ある種、傲慢な心の中を覗き見れば、深い意味で人と繋がれない孤独があった。
本当に人を好きになるという事はどういう事か?
それは、相手に見返りを求めず、自分から与え続ける事に喜びと幸福を感じる事。
それが分かっても、そう簡単には自分の生き方を変えれないジレンマ。
しかし、価値観の物差しは入れ替える事が出来る。
思春期症候群で、他人の心を見透かし、それを踏まえた上で行動する。
相手の心が分かれば、その望んでいる自分を演じてやれば、いくらでも自分が優位に立つ事が出来る。
そんな観測出来る安心感で、自分の心を守ってきた沙良。
彼女は幼少期から多くの物を持っていた。
羨望や賞賛、嫉妬といった「空気」を当てられ続けた中で。
彼女の価値観は育まれていった。
だからこそ、空気を読む事が人よりも長けている。
しかし、それ故に自分の本当の気持ちが分からなくなってしまって。
人の想いを知ってしまう事の罪深さ。
人の気持ちを知りたいと思ってしまう欲求。
そんな揺らぐ心に散々と葛藤しながら。
心をズルして覗き見る自分に対して、咲太と麻衣は不器用だけれど本物の絆を結んでいる。
不器用ゆえにぶつかって、すれ違って、喧嘩する事もあるけれど、相手に忖度する事なく、自分の本当の想いを伝えられている。
そんな二人を垣間見て、沙良はどうしよもなく羨ましく思ってしまった。
心から欲しいものを気負いなく口に出来る彼らの関係性に憧れてしまった。
そう感じてしまった自分の気持ちは偽れない。
本当に欲しい物を知ってしまえば、もう裏切れない。
咲太に本心を引きずりだされて、自分の本当の気持ちを思い知らされて、沙良は便利な思春期症候群に頼るのを辞める事を決意する。
人の心を勝手に覗き見るような不誠実な行いはもう辞める。
咲太の散々と苦労した行動がちゃんと結実を迎える。
ようやく教え子の問題が解決して、肩の荷が降りて、後顧の憂いなくクリスマスを麻衣と存分に謳歌しようとした矢先で。
麻衣の身に起こる不吉な予兆。
まだ、神様は麻衣と咲太が穏やかに幸せに結ばれる事を許してはくれないのか。
沙良の千里眼の問題を上回る程の深刻な試練が咲太な前に立ち塞がる。
それでも、自分の幸せとは、好きになった相手が自分の事を好きになってくれる事だと信じて。
彼女の幸せの邪魔になる物は全て自分が背負ってみせる。
今まで麻衣と共に積み重ねて、歩んできた足跡を振り返って。
ターニングポイントとなる試練に全力で向き合って行くのだ。
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