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読書記録:俺にだけ冷たい友利さんに裏アカ知ってると言ったら? (角川スニーカー文庫) 著 あさのハジメ
【誰にだって他人には見せない裏の顔がある、それを知ったなら】
【あらすじ】
ひねくれた副委員長・鍵坂君孝の隣の席にいる友利梓は文武両道、クラス委員で人望の厚い『みんなの友だち』だ。
ただ、君孝には毒舌全開で悪態をついてくる。
「そんなだから友だちできないんだよ、ぼっちくん」
「うるさい八方ビッチ」
君孝にだけ毒舌全開で口喧嘩ばかり、だと思っていたのだが。
《はぁ、裏アカでならKくんに好きなだけ好きって言えるのに》
偶然見つけた彼女の裏アカのツイートは、驚くべき物だった。
君孝への愛のあるデレツイートばかりを知って。
表面上はツンツンしている梓のデレデレの内心を把握してしまった君孝は。
戸惑いながらも、その状況を徐々に楽しむようになっていく。
《本人に伝えたらどんな顔するんだろ?》
「いや、もう知ってる!」
会話しながらブラインドツイートする梓にツッコミを入れながら。
気づかれてないと思って、いつも余裕たっぷりな彼女とのギャップにときめきながら。
悪口の応酬を経て、友達思いの彼女の素顔を垣間見ていく。
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八方美人の少女の裏アカでの素顔を知った少年は、もどかしい距離を繋いでいく物語。
昨今では、インターネットに自分の意志で何かを投稿するという事は。
好意的に見られる事もあれば、反感を買って炎上を招く危険性もある。
誰かを傷付ける事も出来れば、誰かを救う事も出来てしまう。
世間でいうところの「デジタルタトゥー」となり、ネット上に半永久的に生涯、残り続けてしまうから。
だからこそ、何かをインターネットに残すという事は、それなりの覚悟を持たなければならない。
SNSで、どこに居ても、安易に誰とでも繋がるツールを、誰でも持ててしまう時代だからこそ。
その意味を軽視すれば、牙を剥かれてしまう。
その繋がりがもたらすファクターを、意識して大切にしていかなければならない。
自分に壁を設けず、誰とでも打ち解ける事をモットーに掲げて。
皆の友達というスタンスを貫く梓。
一方で、学院では誰とも繋がりを作らないと目標を掲げて、学年一位という秀才の立ち位置を築く君孝。
正反対な立ち位置の二人は出会えば口喧嘩ばかり。
そのじゃれあいと言うには、少し毒が強すぎる応酬を経て。
期せずして彼女の裏の顔を知る君孝。
盛大に自分に対してデレる彼女の内心に気付いてしまえば。
もう、今までの関係のようにはいかない。
その本心を知って、自分に対しての辛辣な態度も天邪鬼だと知った。
自分に毒づいてくる姿こそが、梓の本当の自分の素顔。
しかし、そうやって噛みついてくるのも、有り余る好意の裏返し。
実際に、彼女の裏アカでは、君孝への好きが溢れている。
目の前で相手と会話しながら、ポケットに入れたスマホをタッチタイピングして。
リアルタイムでデレツイートを垂れ流すという梓の人間離れした技巧は。
優等生であるからこそ、意外に思えて、そのギャップに笑いがこみ上げてくる。
つまりは、梓のその態度は、自分の気持ちに素直になりきれない未熟さが招いた物である。
素直になれないからこそ、誤魔化すように毒舌を放ってしまって、その後で自己嫌悪に陥ってしまったり。
またある時は、君孝の何の気なしの台詞を曲解してしまって、失恋の予感に打ち震えてしまったり。
そんな具合に、一喜一憂しながらも基本的には口喧嘩の良き相棒として。
梓の幼馴染である風見千冬までをも、巻き込みながら騒がしい日常を繰り広げていく。
表では、喧嘩ばかりしている二人でも、君孝はその裏アカウントを知ったおかげで。
梓に対する優位なスタンスを手に入れる事が出来た。
仲良くやっている級友達も、彼女の裏の顔を知らない。
自分だけが、八方美人な彼女の本当の素顔を知っている。
だからこそ、どんなに口さのない言葉を吐かれても、可愛く思えてしまう。
彼女に裏アカウントを自分が知っている事は、最後まで隠し通す君孝。
自分だけが、まるで梓の心の声が聞こえるような状況に。
そのアドバンテージを易々と手放してたまるかと必死に守り抜く。
相手の気持ちが透けて見えるような状況は現実だとありえない。
皆が表面上は周りと上手く取り繕いながら、影で本当の気持ちを吐き出せる場所を求めている。
飾らない本心を吐露する理由や、散々と気持ちを吐き出す裏アカをクローズにしない理由も、人それぞれである。
それでも、特に色恋沙汰だと、人は盲目になる。
恋をしている不器用で純粋な自分にどこか酔ってしまい。
誰かにこの姿を見ていて欲しいという、承認欲求が生まれてくる。
誰かに見つかる可能性がある場所で発言するという事は。
誰かに見つけて欲しい事に他ならない。
だからこそ、梓のような天の邪鬼な行動を取ってしまうのも、現代人にはありがちな行動とも言える。
ツンツンした梓の外の顔と、内に秘めたデレデレした本心を把握しても。
自分から一歩目を踏み出せない君孝には、自分のちっぽけなプライドを守るという理由があった。
しかし、君孝のどこか余裕ぶった態度に、徐々に違和感を持ち始めた梓は。
「裏アカが、バレているかもしれない」
そんな風に思い始める。
そこから、互いの本心を見抜くような、探り合いの駆け引きの応酬が始まっていく。
二人とも、本質的な性格が優しすぎた。
秘密を知っていても、それを盾に相手に言う事を聞かせようとしたり。
自分の毒を相手にぶつける事で、やり場のないストレスを解消しようとはしなかった。
傍から見れば、いつも口喧嘩ばかりで険悪な君孝と梓であったが。
根底には互いに対する信頼と好意があった。
どんな言葉を投げかけても、絶対に受け止めて貰えるという、謎の安心感があった。
そこから、梓が君孝を好きになった理由や、君孝が孤高を貫くに至った過去が語られていく。
どうして、彼女は素直になれないのか?
何故、君孝を好きになったのか?
それは、ある試験の日、君孝が見せた些細な行動による物。
悪天候で不安の中で、ふとした優しさで授けてくれたお守り。
そのお守りは、今もずっと、梓の不安な心を握り締めて温めてくれている。
そう、君孝自身が、梓に対して秘密のアドバンテージを抱えている事と同じように。
梓自身も、級友達から遠巻きにされる君孝の本当の素顔を知っていた。
君孝自身が抱え持った過去。
それは、超エリートな医者の家系の産まれであるが故に抱え持った家庭問題。
二人は互いに揺れる事情を抱えていた。
そうやって、相手を求めながらも。
素直に繋がれない、一進一退を繰り返して。
人知れず、クラスの問題で千冬の陥った窮状を救う為に。
梓は我が身を顧みず、危険地帯へと飛び込む。
そこで彼女は思い知る。
皆の友達として振る舞っていたけれど。
誰とも深く繋がっていなかった事を。
そんな絶望的な状況に陥った梓に、手を差し伸べた君孝。
自分の大切な友達に手を出させはしない。
仮面を被らずにあるがままに振る舞える梓との関係性は。
君孝自身も、得がたくかけがえのない物であった。
それを脅かす物はどんな物であろうと容赦はしない。
自らの圧倒的な力で場を制圧して見せて。
梓が築いてきた、「皆の友達」という上辺だけの関係でも。
確かに積み重ねた成果があると示して、彼女の絶望した心を救っていく。
元々は、過去から縁があった君孝と梓であったが。
その出来事がきっかけに、決定的に無理解であった、今の関係性に変化を生じさせる、理解という名の亀裂が走っていく。
表側ではまだ不十分な関係だとしても。
携帯の画面越しで繋がってしまった心。
その伝わった心を抱え持って、二人は互いを信じる心を養っていく。
もどかしく、密やかな関係であった二人が。
変わらない現状を、少しでも変えようと決意した先で。
その勇気と共に踏み出した一歩が、恋路の結実としてちゃんと結ばれるに至るのか。
そして、いつかちゃんと正面から、梓の裏アカウントを知っていると告げる事は出来るのか。