
読書記録:浮気していた彼女を振った後、学園一の美少女にお持ち帰りされました (角川スニーカー文庫) 著 マキダノリヤ
【裏切られた傷を、一途な彼女とやり直す好機を逃すな】
【あらすじ】
人生初めての彼女である莉愛の浮気現場を見てしまった新世は失意のままに、「別れよう」とメッセージを送って全てを終わらせた。
人間不信のままに、誘われた合コンは元から出来レースだったらしい。
胸の中がモヤモヤして、そっと席を外すと、新世を追ってきた学園一の美少女・双葉怜奈に突然、キスされる。
「あなたがいるから私は合コンに参加したのよ」
衝撃的な告白を受けるままに、流されるように彼女の家にお持ち帰りされてしまう。
積極的に引っばってくれる彼女は、二人きりになると不器用な弱さを見せていく。
人生初の彼女に浮気された少年が、新たな合コンで、学園一の美少女に猛アタックを受ける物語。
誰かと愛情を育む中で、いつまでも初々しい気持ちを新鮮に保っていられるカップルはほんのごく一握り。
その一握りをおしどり夫婦と指すのだろうが、相手と恋愛して、その心を手に入れてしまうと、だんだんと相手への期待値が下がっていく。
それはミステリアスだった相手の素性を知る事で、神聖的であった相手が、自分と同じような平凡な人間である事に気が付くからかもしれない。
しかも、仲を深めるほどに、良いところではなく悪いところも目につく。
それが世間で言われる蛙化現象なのかもしれないが。
現実の恋愛なんてものは、ドラマや映画やアニメのようにドラマチックで素敵なものではない。
あれらは、あくまでフィクションであり、美化されたものであり、それを現実世界で求めようとするからこそ、認識の齟齬が生まれる。
どんなに深い関係を築いて、相手を理解した気になっても、唐突に裏切られる事や、パートナーが不貞を繰り返す事は日常的によくある事。
それだけ、今の現代社会は病んでしまっている。
曖昧だったものが、調べればはっきりと分かってしまうし。
その情報の真偽も自分で判断するしかない。
愛だとか絆だとか友情だとか、目に見えないものがどんどんと空虚なものになり、目にはっきりと映るものだけに価値が置かれる。
寂しい世の中になってしまったが、どんなに時が移ろいでも、人は愛を求めている。
いつまでも、人の心は不変ではない。
いつ、どのように揺れ動くのか、計り知る事は誰にも、出来ない。
かといって、自分勝手な理由で裏切れば、後々の関係に禍根を残す。
新世の彼女、莉愛は本当に良く出来た彼女だった。
いつも優しくて誰よりも己を愛してくれた彼女は、容姿と言動が、過ごす時間と共に明らかに変わってしまった。
何を聞いても暖簾に腕押し、適当に遊んで時間を潰すだけのような関係。
初恋は勢いのままに、人生の喜びを教えてくれたが、いつしか彼女との間にあった熱は冷めきって、先が見えるようなつまらないものになった。
親友の翔の妹であるそらと散歩していた際に、偶然に知らない男と楽しげに話している莉愛の表情を見て、その虚しさは確信へと変わってしまう。
もう、莉愛とは付き合えないと一方的に別れを告げて、自らの心の中に貝のように閉じこもる。
それは、莉愛と新世を別れさせる為に仕組まれた黒幕の罠であったが。
それが当初は分かるはずがない新世は、莉愛の事をとても軽蔑してしまった。
何故、莉愛は自分を裏切ったのか、何か自分にも落ち度があったのだろうか?
新世は胸に手を当てて、それをゆっくりと考えてみたが、考えるほどに答えが見いだせず、恋愛そのものを空虚なものだと感じてしまった。
彼女の浮気は、ずっと積み重ねていた信頼を、あっという間に、脆くも崩した。
投げやりの心境の中で、翔に誘われた出来レースのような合コンで出会った怜奈。
颯爽と想いを告げて、二の句も継げないほど瞬く間に、新世の唇を自ら唇で塞いでみせた。
新世は新たな彼女である怜奈と共に、一夜を共に過ごす。
怜奈の留まる事を知らない愛情の猛アプローチは、人を信じられなくて、恋愛に臆病になっていた新世の心を立ち直らせていく。
こちらが躊躇する暇もないような、グイグイと実直な想いを伝えてくれる、裏表がない安心出来るやり取り。
彼女の恋愛方法は俗に言うアサーティブコミュニケーション。
相手の意見を尊重した上で、自分のしたい事を包み隠さず、伝えていく。
それは、莉愛との間になかった、心と心を通わせた人間らしい会話。
裏切られて傷付いた心は、新しい恋と慈しみによって、愛し愛される事で癒やしていくしかない。
元々、莉愛と付き合っている新世に惹かれていた怜奈。
彼女と別れたばかりの新世は絶望の境地であったが、怜奈にとってはまたとないチャンスであった。
傷心の彼に付け入るようで、多少は罪悪感もあったが、どうしても新世と付き合いたかった。
綿密に編み込んだ愛で、彼の心を絡め取りたかった。
彼と付き合う為なら、自分の他の全てを切り捨てるようなしたたかさと覚悟があった。
新世の事だけをずっと目を凝らして観察していたので、彼の心が今、何を欲しているか、手に取るように分かる。
それを的確に寸分の狂いもなく、ただひたすらに注ぎ込む。
新世がまだ莉愛の事を引きずって、恋愛にトラウマがあるのならば、学校内で元カノである莉愛を呼び出して、正面からぶつかっていく。
気まずいから、向き合わない選択は、これからのお互いの為にも良くない。
それを理路整然と二人に伝えて、彼女が見守る中で、長らく音信を途絶えていた新世と莉愛は、面と向かって、今回の問題について対話をする。
そして、話す中で別れの原因となった浮気は実は誤解であった事が分かる。
しかし、嘘偽ざる本音で話していた新世に対して、後ろ暗い隠し事をしていた莉愛の真実が判明する。
誤解は解けたが、昔のような信頼を結べなくなった二人は、改めてちゃんと別れる事になる。
結果的に身近に潜んでいた黒幕の思惑通りに、二人は別離したが、その黒幕さえも出し抜いて、漁夫の利を掻っ攫うかのような怜奈の登場によって、黒幕の計画は破談に終わる。
莉愛との破局は自然なものではなかったのかもしれない。
しかし、今度こそは間違えたくない。
恋愛に対して、まだ失望したくはない。
怜奈と交わす想いは、肩ひじの張らない本物だと思えるから。
一つの恋が幕を閉じて、新世は怜奈と共に歩く、新しい恋への道を選んでいく。
現実の人間の醜さを直視してしまうと怖いかもしれない。
しかし、それを反面教師として、自分は誠実に他人と付き合おうと踏み出す事は出来る。