読書記録:神様の御用人 継いでゆく者 (メディアワークス文庫) 著 浅葉なつ
【神と人の心の架け橋となる、悠久の想いを次の世代に継いでいく】
先代御用人の敏益は、切実な願いを抱く久久紀若室葛根神と共に食べ歩きしたり、良彦の前に三条小鍛冶宗近命が現れたり、カフェでバイトを始めた穂乃香の優しい日常を切り取った物語。
諸行無常、あらゆるものは絶えず変化を繰り返す。
変わっていく事こそが自然の摂理。
その変化によって、それをあるがままに受け入れる心を養い、そこから自分はどうしていきたいのか考えるようになる。
変わる事は怖い事じゃない。
そうやって、時代と共に変わっていけば、新しい自分に出会えるし、過去に縋らなくても生きていける強さを手に出来る。
そして、大切な過去の思い出とは、そう易々と心の中から消えるものではない。
人の記憶に残る限り、思い出は永遠に朽ちる事なくそこに居続ける。
そうやって、記憶を錆びさせない為に、歴史の書物や神社仏閣が存在するのだろう。
それを見るたびに、過去に何があったのか、思い出せるように。
過去は今を生きる私達に様々な事を教えてくれる。
温故知新、成功も失敗も過去から学ぶ事が出来る。 そうやってトライアンドエラーをしぶとく繰り返す事で、国も社会も、はたまた世界でさえも良い方向へと動いていく。
今を生きる私達が諦めなければ。
自らの拠り所となる居場所も、時が移ろえば、変わっていく。
人々に愛された名店や老舗も、いつかは儚くも、廃れていく。
始まった瞬間に終わりが来る事が約束されている。
寂しい事かもしれないが、それが人の世の理。
祀られない神がこの世を去るように、抗えない結末である。
それでも、素敵な思い出を後世に継いでいく事が出来る。
想いはなくなるのではなく、次へと受け継がれていく。
神様も人間も動物も、一緒に生活していけば愛しさが込み上げてくる。
ペットであっても、時間を共にすれば家族と同じ。
そして、情をかけてもらった者は何かの形で返したいと自然に思えてくる。
実らせる者とそれを受け取る者。
その営みの中で交換し合う感謝と祈り。
どちらかが寄りかかるのではなく、お互いを支え合う神と人。
特別な力などなくても、神様の悩みを解決する事が出来る御用人。
彼らの行いはずっと、長い間、繋がれてきた。
神様界隈でも、大立て替えを阻止してみせた良彦は一躍、時の人としてもて囃される。
御用人の役目はこうして継がれていく。
敏益から良彦へ、良彦から東京都出身である桜士朗と狼の青藍へと。
けして、良彦達だけが御用人ではない。
全国各地に御用人は存在して、良彦達と同じようにその土地の神様の苦悩を解決している。
だからこそ、神様にこの国は見守ってもらえるのだから、彼らの存在はなんと心強いのだろう。
今回の番外編では、登場人物達の詳細なプロフィールや各巻での見せ場の振り返りなども行われ、著者が読者の素朴な質問に答える御用人Q&Aといった作品のガイドブック的な試みが行われる。
古い洋食屋「洋食ふじた」の跡継ぎ問題や、大昔に狐神からもらった小槌を返したい刀工神の願い、一大企業然としている稲荷の総本山の内部事情などが明かされる。
特に、ほっと一息をつくかのような温かいエピソードは、平安時代の有名な刀工「三条小鍛冶宗近命」からの依頼。
宗近と一緒に小狐丸を作った稲荷神を探す事になる良彦。
白と一緒に全国の稲荷を統率しているボスである宇迦之御魂大神に会いに行くものの、探し人には巡り会えず、塚猫とある交渉で命婦の御許に会った末に辿り着いた真実は、まだ、この世界にも人々と神々が交わす優しい営みがあるのだと信じさせてくれた。
神職になる為の100万円捻出に苦労する良彦と、お菓子を買う為の100円に思い悩む黄金。
悩みの大きさは違えど、人も神も同じように悩み、迷う。
国の命運が賭かった大立て替えをフィナーレへと導いた良彦達の日常はこれからも続いていく。
一方で新たな主役となる、桜士朗とその相棒である青藍が新たな御用を果たしていく、次の章が幕を開いていく。