読書記録:男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!) Flag 5. じゃあ、まだ30になってないけどアタシにしとこ? (電撃文庫) 著 七菜なな
【自分にとっての将来像が見えた、心に刺さる棘を残して】
凛音との東京巡りにより、創作家としての将来像が見えた悠宇に、文化祭に向けてある試練が課せられる物語。
人の気持ちは時間と共に錆びる。
日葵と凛音の関係に甘えきった惰性が働いた事を思い知る悠宇。
もうどちらかを選ぶ辛い恋よりも、自分の将来に向けた夢を追いかけたい。
紅葉の働きによって東京のクリエイターの即売会に参加した事で、クリエイターとしての自覚や意識が芽生え始めた悠宇。
東京で新たな目標と、クリエイターとしての現在の位置を知る事が出来たからこそ、新たな夢に燃える悠宇。
文化祭で自作のフラワーアクセサリーショップを出して、お客さんと触れ合う場だったり、お店のコンセプトを考えたりする夢を抱き始める。
しかし、彼を悩ます種がいくつか潜んでいた。
それは、凛音との間にある秘密の逢瀬とその約束。日葵には決して言えない嘘と想い。
それが、彼の心を蝕んでいた。
だが、悠宇はその苦悩を誤魔化すように、より一層、夢を追いかけていく。
そんな夢を優先する悠宇の姿に、日葵と凛音の恋心に冷たい風が吹き抜ける。
東京での出来事を知らない日葵は、アプローチも空回りして、虚しく打ち沈む。
東京での出来事を知る凛音は、どれだけ頑張っても彼の一番になれない事を悟る。
関係性が明確に変わる中で齎される予想外の一枚の写真。
自らの嘘と罪に向き合う決意を固めた悠宇に立ち塞がる文化祭での販売問題。
過去に学校でアクセ販売をしてトラブルを起こしていたので、教員からショップを出すのを阻止されてしまう。
しかし、試練はまだ序の口に過ぎなかった。
過去の騒動の中で、「出資者」となった真木島が、出資者の権限を活かし、学園祭について三つの条件を出してきたのだ。
それは、現在微妙な距離感である三人が共に行動して、学園祭は凛音をモデルとして活動を重視すると言う物で。
更には学校側から出店の条件として、材料費を今までの約十分の一にしろ、という無理難題を押し付けられる。
理想と現実のギャップに焦燥感を募らせる悠宇。
自分が二の足を踏んでいる内に、東京にいる仲間達はどんどん活躍の場を広げて、成長を遂げている。
明確な将来のヴィジョンを叶える為に、自分には立ち止まっている暇はない。
その焦りが、周りを見えなくさせていく。
そもそも、自分は何の為に夢を追っていたのだろうか?
その命題を、視野狭窄に陥った自分自身に問いかける。
当初は悠宇と日葵が組んで、アクセサリーショップを開く為に、運命共同体を目指していく物だった。
しかし、二人が恋人同士になった事で、日葵は悠宇と過ごす今を恋人として楽しみたいと思うようになった。
一方で、悠宇はアクセ作りに魂を捧げて、良い作品を創り出したいと思っている。
花に水を与えるように、愛を与えすぎれば腐ってすまうし、愛を与えなさすぎれば、枯れ果ててしまう。
いつしか、二人の間に決定的な認知のズレが生まれてしまった。
高みをただ、ひたすらに目指す人の隣にいる事は、言い知れない苦しみが伴う。
情熱的な瞳に自分が写っていないような気がして。
本来は、夢を祝福するべきなのに、無力感と疎外感を覚えてしまう。
それを認めてしまうのは、あまりにも痛くて辛い。
それでも、隣に並び立つ覚悟を持てるだけの理由が、今の日葵にあるのだろうか?
だが、日葵にはそれに足りる理由がちゃんとあった。
彼がアクセ作りに向けている情熱を自分に向けさせたいという目標があった。
共犯者としては失格の感情であるが、恋する女の子としては当たり前の感情である。
彼らの取り巻く状況とはお構いなく、波乱と不穏が関係性を容赦なく揺らす中で、やってくる学園祭で何が起きてしまうのか?
そして、自分達の強みを封じられた商売は、果たして成功出来るのか?