読書記録:恋は双子で割り切れない5 (電撃文庫) 著 高村資本
【関係性を変えたとしても、君が好きだから想いを告げる】
横浜でのデート。かつて琉実と付き合ってた頃の思い出が色濃く残る地で、己の誕生日を節目として、純が双子に想いを打ち明ける物語。
近しい間柄の人に特別な感情を抱いてしまった時、
人は様々な葛藤を抱く。
想いを告げて気まずくなりたくないし、かと言って悶々と自分の中で抱え続けるのは息が詰まる。
そうやって、関係性を悩める事自体が、幸せな贅沢なのかもしれないが。
本当にその人を想うのなら、ちゃんとその想いに区切りをつける為に、一度打ち明けるべきなのである。
純と過ごした甘酸っぱい思い出を噛み締める琉実。
純とデートすると、何をしていても、心が弾んで楽しい気持ちにさせてくれる。
まさに自分の人生の幸せの絶頂とも言える。
双子だからこそ、ずっと我慢してきた想いを誰よりも、那織に理解して欲しかった。
二人は幸せのピークに身を置きながらも、けして互いの姉妹の存在を忘れる事はなかった。
自分も幸せになりたいけど、姉妹にも幸せになって欲しい。
家族同然で過ごしてきた三人だからこそ、色恋沙汰に発展するのは難しく、居心地の良い関係性を壊してまでも。
この想いを打ち明ける価値があるのか?
三人のそれぞれの視点から、その命題に対する自分なりの答えを導き出していく。
互いが互いに大して自分の気持ちも分かって欲しいという切実な想いが、全てを呑み込むように燃え広がっていく。
純の誕生日の前に立ち尽くして、語られるのはあの日の琉実の、那織の想い。
三人で歩んできた毎日が、ほんの些細な一つの告白によって、どうしよもなく壊れてしまったあの日の出来事。
本当はめでたい日にも関わらず、那織の傷ついた顔が、どうしても浮んでくる。
傍から見れば、琉実が純と那織の面倒を見て、那織が二人を振り回すいつもの日常に変わりはなかったが。
純はこの平穏な日々を変える事を心に定めていた。
合宿という名目で繰り出す、海沿いの町。
いつもの面々に、琉実と柚姫も加えながら、遅刻トラブルにも見舞われて、海で童心のようにはしゃぎ回って。
そんな楽しい時間の中で、琉実はどうしても疎外感を感じていた。
純と那織と一緒にいても、どうしても「二人と一人」という温度差を感じざぜるを得なかった。
純を奪い合うライバルであっても、琉実と那織は互いの事を何よりも想い合う姉妹であるから。
独占欲や、嫉妬心もあるし、負けたくない相手だと常々に思っている。
それでも、唯一の大切な家族だから、想いを蔑ろにするような不誠実な真似は出来ない。
だから、純にはちゃんと選んで欲しい。
妥協して選んだ答えではなくて、自分でなきゃ駄目だという確証が欲しかった。
そこに至るまでの感情やプロセスを聞かせて欲しかった。
そう思ってしまう自分は、面倒臭くて、愛が重くて、一筋縄ではいかない厄介さも秘めていて。
それを分かった上で、純には自分を選んで欲しい。
誤魔化さずに、ちゃんと気持ちを伝えて欲しい。
関係の均衡がグラグラと崩れ去った今だからこそ、もういい加減、前に進みたかった。
その純の答えに傷付けられたとしても、今の停滞したもどかしい関係を変えられるのならば、構いはしない。
三人でいつでも、どこでも、ずっと一緒にいたからこそ。
純の出した答えによって、三人はそれぞれの道を歩んでいく。
小さな勇気を振り絞って、誘い出した彼らに馴染み深い公園で。
那織に対して、今の率直な気持ちをありのままに告白する。
その一世一代の告白を聞いて、那織はしばらくの間、黙り込んだ。
その告白に明確な答えを返さなかった。
それは、自分が望んでいる答えではなかったから。
純と那織の二人きりの時間が流れる中で、もう一度告げる、彼女への想い。
確かに、琉実と付き合った方が上手くいくのかもしれない。
ただ、上手くいくと、そう考えている時点で、何か違うとも感じていた。
その場には琉実もいた、残酷な仕打ちを彼女に与えてしまった。
とても申し訳なくも感じながらも、純と契を交わしても、琉実の傍から離れるつもりはない。
たとえ、それを琉実が拒絶したとしても、彼女をずっと心の中に仕舞い込む。
それが、自分が考え抜いた先で、辿り着いた答え。
ただ、答えを出しても、人生も恋も終わらなかった。
再び、二人と一人になっても、道は続いていき、縁はどこまでも根深く身体に染み付く。
一朝一夕で解決する葛藤ではなかったけれど、三人が共に、これからも生きていく為には、不可欠な悩みであったからこそ。
傷付けて、傷付いて、割り切れない想いをずっと、抱えながらも。
ちゃんと、抱え続けた想いに白黒をつけて良かった。
結果として、一組のカップルが生まれて、一人の少女の恋は敗れ去った。
こうして、ヒロインレースは幕を閉じたが、三人の関係はまだ終わらない。
エンドロールはまだちょっと先にある。
答えを出した、ここからこそ、新しい季節を迎えるにあたって。
彼らはどのような関係性を構築していくようになるのか。