読書記録:わたしの幸せな結婚 三 (富士見L文庫) 著 顎木 あくみ
【たとえ、断絶した溝があろうと愛しの人と結ばれる為に】
自分達の関係を認めて貰う為、清霞の両親が住まう屋敷へ挨拶に行く美世。そこで、義母の茉由から有無を言わせぬ拒絶を受ける事で、自分の存在価値を考える物語。
たとえ、どれだけ確執があって、仲が悪い親子であっても。
きちんと向き合える機会があるなら幸運な事だ。
血を分けた家族であるからこそ、思い入れや愛情もあって。
それが反転して憎しみに変わる事もある。
それでも、自分の人生を自身で責任を持って生きていく為には。
何処かで向き合わなければならない。
何処かで、その壁を越えなければならない。
その道程は、苦痛も哀切も伴うが、新しいパートナーと共に新たな人生を生きていく為には。
どうしても必要な通過儀礼である。
美世の生い立ちを知って、清霞は自らの義両親に向き合う決意をする。
清霞と美世の縁談を持ち込んだ張本人である清霞の父親の正清に久堂家に招かれた2人。
今まで壮絶な生い立ちを送ってきたせいで、傷だらけになってしまった美世を守れるのは自分しかいないと。
しかし、期待とは裏腹に母親の毒のある拒絶を受けて憤激する。
母親は、美世の見た目や家柄を容赦なく虐げる。
当人である美世は、そんな怒り心頭な清霞をなだめて、見守っていて欲しいと懇願する。
清霞の妻になる為に、言葉だけではなく、覚悟と行動で示して。
忍耐強く承認して貰う為の歩み寄りをする。
清霞の母親である芙由と父親である正清と、息子である清霞の関係性を紐解いていく。
清霞は重い口を開いて語ってくれた。
幼少期の頃に父親に面倒をあまり見て貰えず。
それ故に、距離感がどうしてもあり。
旦那を尻に敷いたように、実家の実権を握った母親は、自分に対して高飛車な態度を示してくると。
何故、茉由は清霞との関係を認めてくれないのか?
それを深く考察して、自分自身を顧みて気付けた事。
それは、美世自身の自己肯定力の弱さにあった。
特殊な産まれが原因で、散々といびられてきた美世。
周囲に傷つけられる事に慣れてしまって。
いつしか、自分で自分を貶める事で、精神の安定を図っていた。
「こんなに傷つけられるのは、自分に価値がないから」だと。
義母の茉由は、したたかにそんな美世の脆弱さを見抜いていた。
可愛い一人息子の婚約者がこんなにウジウジした人間では気に入らないと。
不幸を武器にして生きて欲しくないと。
だからこそ、敢えて無理難題を引っ掛けて、美世に試練を与える事で。
清霞に相応しい、ちょっとやそっとでは、へこたれない芯の強い人間になって欲しかった。
婚約相手の美世に女中見習いをさせるという、強烈な洗礼も受けさせた。
その想いを、美世は汲み取って、自分に出来る事を模索し始める。
旦那様の隣に居て、恥ずかしくない自分で居る為に、何が出来るのだろうか?
そんな時、久堂家別邸付近の村で、人に異形を憑依させる事件が発生する。
異能と宗教的洗脳によって、人が鬼に変わっていたのだ。
清霞の力に少しでもなりたくて、覚えたての異能を使ってみせた。
異能に意識を乗っ取られた人を救うべく、夢に入ろうとした直前に。
薄刃新が堯人の予言を聞き届けて、助けに入ってくれて、何とか事なきを得る。
その全面的に婚約者をバックアップして、支えようとしている姿を見て。
義母はようやく認めてくれて、美世に大切なリボンを譲ってくれた。
美世は、断絶した家族の溝に、健気な愛という心を注ぎ込み、埋めてみせたのだ。
そして、清霞は、正式に美世に求婚を申し込み。
甘いプロポーズをしてくれた。
誓いのキスをしてくれた。
春には結婚すると約束もしてくれた。
この契約を必ず、夢物語で終わらせはしない。
清霞は美世を強く抱き締めながら、己に戒めるように誓う。
夫婦になるのだから、どちらかが完璧である必要はない。
出来ない事は、補い合って生きていけば良い。
それが夫婦になるという意味であるから。
清霞は美世に出会えたからこそ、少しは両親と向き合ってみようと思えたのだし。
美世は清霞に出会えたからこそ、何事も愚直に諦めない心を知る事が出来た。
そんな幸福な一つの結末を迎える中で。
事件の裏で糸を引いていたのは、異能心教の長【うすいなおし】
それは、薄刃家一族に血縁のある者。
薄刃の分家である「甘水直」
彼は美世の母親、薄刃澄美の婚約者候補であり、特別な感情を抱いて、彼女を慕っていた。
そんな複雑な心境を抱えた彼が、帝都で異能心教を率いたテロを発生させる。
甘水は、異能者による国家転覆を企てていた。
果たして、家族の絆を揺るがして、美世を「我が娘」と語る影は、一体何者なのか?
美世と清霞は、無事に春を迎えて、幸せな結婚を果たす事が叶うのか?
過去の因縁がもたらす困難を、純朴で一途な心を重ね合わせ、二人で乗り切って欲しいのだ。
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