読書感想:青春ブタ野郎はナイチンゲールの夢を見ない (電撃文庫) 著 鴨志田 一
【正義の味方になって誰かを助ける事で、自分の心を支えている】
咲太の過去を知る級友である郁実が正夢の都市伝説を利用して人助けをする事で、鍵をかけた過去が解き放たれる物語。
無償の献身をする正義の味方。
書いた事が正夢になる眉唾物の噂。
咲太の黒歴史に関わった郁実は困っている人の未来を救う事で変える。
一見、美談のように思えるが、それは郁実自身の過去の贖罪。
中学時代、咲太を救えなかった事をずっと後悔していた。
そんな真面目な心は強烈な負荷を感じていた。
どれだけ悔いても過去は戻らない。
咲太に何もしてあげることができなかったという無力感、絶望から来た贖罪。
恋愛感情から来るものでもあり、そして、その気持ちを大学生になった今も引きずり続ける郁実。
それでも、過去の事をを今でも引きずっている郁実が何者かになりたい自分を探しに、優しさと正義を見つけていく。
中学生は身体はもちろん精神も未熟ゆえ、自己の理解に及ばない事に対して軽蔑されてしまうことも少なくはない。
中学生時代の咲田はクラスメイトから軽蔑され続け、人一倍正義感の強い赤城はその空気に対して、敏感に反応して、無力感をずっと今日まで引きづり続けていた。
大学での再会は、不運でしかなかったかもしれない。
だけど、再会した事でずっと悔やむしかなかった郁実の中で止まっていた針が動き出し始める。
前に進むには、失敗した自分を許してあげる事。
悔やみ続ける事は立ち止まり続ける事と同義。
書き込んだ夢が正夢になる、と学生たちのSNSで話題の都市伝説『#夢見る』。
それを利用し「正義の味方」として人助けを続ける郁実。
なりたい自分と現実の自分のギャップに向き合う中で、傷付きながらも出した答え。
『正義の味方』がずっと抱えていたのは、教室で咲太を静かに拒絶した後悔。
過去はすぐには消えてくれない。
その後悔がポルターガイストとなって郁実を責め苛む。
大人に向かっても、優しさに近づいても、まっさらな気持ちで今更だと笑うのは難しい。
だからこそ、何気ない日々を積み上げていくのだ。いつか、きっと忘れていく事も出来ると信じて。
苦しむ人々の姿を見て、彼らのことを助けたいと思いたち、周りの反対を押し切って看護師になり、戦争で負傷した多くの人を救ったあのナイチンゲールのように。
心に負った傷をこれからの自分の人生の教訓として。
失敗して挫折した忌むべき記憶でさえも。