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読書記録:経験済みなキミと、 経験ゼロなオレが、 お付き合いする話。その3 (ファンタジア文庫) 著 長岡マキ子

【魅力的になる君に釣り合える人間になる為に必要な事】 


【あらすじ】

「もう、記念日はいいや。リュートと一緒にいられる毎日が、あたしにとっては特別な記念日だって気がついたから」

恋人と付き合って、二ヶ月で別れる壁を乗り越えた先で、月愛はまた、走り始めた。
無垢な少女が、どんどん大人になって、魅力的になっていく。
そんな月愛に置いていかれないように、龍斗ともまた、自分の気持ちを新たにするのであった。
激動の夏休みが終わり、待っていたのは愛しくも退屈な日常。
ではなく、もっともっと刺激的な二学期だった。
走り出す月愛と、その手をしっかり握り止める龍斗。
凸凹カップルとその仲間達による恋模様は、出会いと別れの節目を迎える。

あらすじ要約 
登場人物紹介

激動の夏休みを終えて、刺激的な二学期が始まり、文化祭に体育祭と様々な恋の花が芽吹く物語。


相手と並び立ちたいから、相手のペースに合わせて、少し自分で無理をしてみる経験は、若いうちは多いのではないかと思う。
そうやって、共に駆け抜ける日々は、息切れしてしまって、少し疲れてしまうけれど。
そうやって、少し自分に無理を強いて、頑張れてしまうのも、学生時代ならではであり。
その有り余る体力と熱量を、先の将来よりも、目の前の今に全力でぶつけられる事こそが。
一度きりしかない青春を、自分の色で染め上げていると言える。

眩しい夏の中で、月愛と共に走り抜けた龍斗。
彼女と過ごす日々は様々な事を教えてくれた。
人を信じる事。
過去を受け入れる事。
人を愛するという事。
経験豊富な彼女に追い付く為に、今の自分に何が足りないか自問自答して。
そうやって足掻く軌跡を間近で見た、海愛、笑流、朱璃、柊吾達にも恋の刺激が、良い意味で影響を及ぼしていく。

心が安定して加速していく月愛に追いつこうと、予備校に通う事になった龍斗は、彼女である月愛の妹の海愛が同じ予備校に通っている事実に気付く。
そこで海愛に変なちょっかいをかけられない為に浪人生の関家柊吾先輩の力を借りる事になる。
しかし、運命のイタズラか、何故か海愛と行動する羽目となってしまった龍斗だったが、月愛が海愛の家にやって来た事で。
一緒にいる所を見られてしまって、変な誤解を生んでしまい、月愛との関係がギスギスし始めてしまう。
また、さらには谷北さんから「月愛がパパ活してるかもしれない」と打ち明けられた龍斗。
月愛がパパ活なんてしているはずがないと信じていた龍斗だったが、実際に男とは会っていた月愛。
その人物は、龍斗が予備校で仲良くなった友人であり、笑琉の元彼である関家先輩だった。
ちょっとした想いの掛け違いですれ違っていく二人。 

そんなすれ違いは悲しすぎるから、強制的に犬猿の間柄である海愛と同じ時間を過ごして、仲睦まじく活動して誤解を解く為に、文化祭実行委員に龍斗と一緒になる月愛。

海愛とほつれてしまった関係を修復する為に友達計画を遂行したり。
笑流は喧嘩した彼氏の関谷先輩と和解して元鞘に収まったり。
オタク友達のイッチーが、決死の覚悟で想い人の谷北さんに告白したり。
仲間達とサバゲーを楽しみながら、興じる一幕もあった。
そんな激動の日々の中でも、月愛は再び海愛と仲良くなりたいと願い、それを協力する龍斗の勇姿が今巻のハイライトであった。
海愛に寄り添っていく中で、同じ姉妹でも月愛とこんなにも価値観が違うのか。
そして、龍斗は自分と海愛の性格が似ている事に気が付く。
距離を置かれてしまうと、自然に湧き上がる不安と苛立ち。
自分に自信がないからこそ、相手に依存してしまう葛藤。 

体育祭で龍斗に見せた開けっぴろげな表情が示すように、月愛の裏表のなさは読者をも魅了する。
しかし、このまま上手く行く筈がない、という予感もひしひしと感じていた。
最大の障壁となる困難は、やはり家庭の事情から別居する妹の海愛との関係。
龍斗を含めて友達になりたい、と口に出して行動もするが、いざ彼が海愛と一緒にいると許せない自分がいる。
そんなアンビバレンツな感情は、海愛も姉に対して持っている。
彼らはまだまだ子供であり、大人のように上手に割り切れる処世術を持ち合わせていない。

そして、月愛がなぜギャルとしての人生を選んだのかが、彼女の内面に深く潜り込む事で見えてくる。
複雑な家庭環境から、早熟せざるを得なかった幼少期。
けれど、どうしたら早く大人になれるのか、月愛には分からなかった。
だから、手っ取り早く、異性や世間に対峙した時に、大人として扱われるように、「ギャル」という鎧を身に纏った。
それは、まるでスポーツカーのような生き方。
頭を空っぽにして、少しでも早く子供時代を駆け抜けたかった。
しかし、生き急ぐように大人の真似事をして、経験を積んでも、心は子供のままだった。
だからこそ、派手な見た目な割に、純粋無垢な心を持つ、今の月愛が出来上がった。

今までの月愛は、相手に合わせて愛想笑いをする癖がついてしまっていた。
だから、相手と趣味が合わないと、こんなにも不安になってしまう。
でも、その不安は、相手に本気で向き合っている事の裏返しでもある。
そうやって、自分に正直に付き合って行けば変わる気持ちもあるはずだし、一途な想いはちゃんと報われる。
報われなくても、想い続ける姿こそが、尊くて美して、これからの自分の人生の財産になる。
変に焦ってしまった想いと答えでは、相手を警戒させて、ちゃんと心に届かない。
龍斗は経験で一歩、先を行く月愛に並びたいと努力を始めるのに対して、月愛は彼の愛を信じ切れず不安になってしまっていた。
彼らは愛に対して、どこまでも真面目であるからこそ、不器用に振る舞う事しか出来ないのであろう。
誰もが恋に本気であり、だからこそ、面倒臭い事で思い悩む、その遠回りこそが青春の醍醐味なのだから。

そうして迎えた、一世一代の文化祭で。
見事に成就する恋と、打ち破られて叶わなかった恋が、パッと咲いては散り消える中で。
そんな友人達の刹那の恋を眺めて、気付けた大切な事。
自分達に残された青春の時間はあまりにも短い。
あっという間に過ぎ去って、嫌でも大人になっていく。
大人になれば、こんなにも仲間や恋人と真摯に向き合う余裕なんてなくなる。
だから、学生のうちに、心残りはなるべく解消させておいた方が良い。
その為の、絶好の機会と環境の真っ只中に、自分達は今いるのだから。

様々な誤解と事件を経て、月愛と龍斗は無事に仲直りする事が出来た。
絆をさらに強めたのも束の間、月愛がいない間に海愛とフォークダンスの練習と称して、踊りに誘われたその手を振り払えない自分に気付いて、また苦悩する龍斗。

やはり、心のどこかで海愛に対する想いの残り火が燃え続けているのか?
想いを必死に押し留めながらも、滴り落ちる不穏は、確かに龍斗の心を揺り動かす。
そんな葛藤とはよそに、巡りやって来る冬。
そこから、すれ違ってばかりいた月愛と海愛の和解の架け橋となれるのか。

それぞれが、想い人の為に不断の努力を続ける中で、青春はどんな彩りを帯びるのだろうか?





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