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読書記録:経験済みなキミと、 経験ゼロなオレが、 お付き合いする話。その2 (ファンタジア文庫) 著 長岡 マキ子

【初めての恋は君がいい、好きを更新し続ける夏】


【あらすじ】

一学期の終わり、衝撃の速報が学校を駆け巡る。
陰キャ仲間の中でも、屈指の陰キャである加島龍斗と、学校で圧倒的な人気を誇る陽キャ、白河月愛が付き合いを始めたのだ。
仲間達は、その光景に眼を疑う。

信じられない、信じたくない、ウソだと言ってくれ。
しかし、そんな仲間達の祈りとは裏腹に、タイムラインは進んで、夏休みに突入する。
あの凸凹カップルにも、当然の如く、波乱が待ち受ける。
大胆な行動に出る龍斗や、月愛の予想通りな行動など。

凸凹カップルがそう上手くいかないよねぇという周囲の感慨をよそに、二人はこの夏に必ず繋がれると信じて、すれ違いを越えた、ひと夏のイベントへと繰り出していく。

あらすじ要約

期末考査を共に乗り越えた龍斗と月愛。待ちに待った夏休みで、海に花火に夏祭りと存分に謳歌する中、海愛との浮気疑惑が試練となる物語。


人と付き合う中で、大切な人から感情が重いと言われた事がある人もいるのではないだろうか?
人と接していて、他人の言動や話す内容を「重い」と感じてしまう、その心理には如何なる理由があるのか?
それは、人は自分とあまりにもかけ離れた、温度差のある事柄やエピソードを受け取った時に。
その落差と振れ幅と温度差を、重さとして認識してしまう。
そして、その落差は話していると、こっちが疲れてきてしまう。
しかし、目の前にいる人の本気で正しく理解したいと願えば。

感情の重さは悪ではなくなる。
自分の心の荷物を、少しだけ預けて、相手も抱えた荷物を自分に託してくれて。
そういう風に、関係の天秤がバランスよく均衡が保たれていれば、重さなんて気にならない。
関係が上手く行く秘訣は、「両重い」でありながらも、それ故に「両想い」である事ではないだろうか?

身体だけの関係だったり、心を通わせない交際は、
自分の抱える闇を人に見せるのが怖いからだろう。
でも、誰かと繋がりたいし、愛を欲しがりたいと相手の心のボーダーラインを越えてしまう事がある。
相手を理解する為には、踏み込まなければならないが、その先に必ず、自分の望んだ結果が待ち受けているとは限らない。

むしろ、踏み込みすぎて、人間関係が疎遠になってしまう事だって、十分にあり得る。
陰と陽の対極に位置する龍斗と月愛であったが、月愛の悪気のない積極的なアプローチは、恋愛未経験の龍斗には、些か刺激が強すぎる。
だから、この夏の物語では、彼らの駆け引きの一進一退が目まぐるしいまでに広がっていく。

めでたくカップルになったしても、毎日薔薇色で仲睦まじい訳では無い。
相手の何気ない一言で、思いのほか傷付き、疑心の眼差しを向ける自分に気付いて、自己嫌悪に陥る。
恋愛経験豊富な月愛と恋に初々しい龍斗。
龍斗は、初めての彼女との接し方に失敗ばかりして悩んでしまうし。
月愛も、初めてじゃない事に、少なからず負い目を感じてしまって、憧れの両親のような恋愛が出来ないのがもどかしい。

そんな二人は、海愛の策略により、思いがけないすれ違いが起こる。
海愛は、月愛に対して嫉妬や恨みなどを晴らす為の復讐の機会をずっと狙っていた。
ずっと、愛される子でいたかったのに、いつも、月愛に奪われてばかりだったから。
何か一つでも、月愛から奪い返してやりたい。
周回遅れの、龍斗への恋心と、月愛に対しての歪んだ反抗心が招いた執念。

それは、仕掛けられた用意周到な罠。
それは、海愛と龍斗が抱き合っている写真を、学校中に拡散する事。
そんな風に黒い噂が漂いながらも、月愛には確たる想いがあった。
本当の好きを捧げる相手は一人だけ。
本当は、月愛ももっと早くに龍斗に出会いたかった。
龍斗に初めてを捧げたかった。
長期休みを利用して、海へ遊びに行ったり、そこでのトラブルから初めてのお泊まり会を開催したり、さらには、月愛の曾祖母の家で二週間、一緒に過ごす中で、彼女はしみじみとそれを感じた。

自慢のネイルを貶すどころか褒めてくれた優しい彼と、好きを更新していく日々の中で。
月愛の水着姿が見れて、嬉し恥ずかしがりながらも、感極まる龍斗とは対照的に。
月愛は、今までの経験上、交際二ヶ月目でいつも破綻してしまうジンクスに、神経質に怯えていた。
デートも夏祭りも既に月愛は数多くの異性と経験している。

でも、龍斗と改めてするそれらの体験は、今まで感じた事のない、初めての気持ちを呼び起こす。
月愛は複雑な家庭環境で育った。
愛し合っていたはずの両親の唐突な離婚。
どんなに愛し合っていても、終わりは予期せぬタイミングで起こる。
だから、自分の恋愛感情に不安があった。
その不安を誤魔化す為に、沢山の異性と愛を求め合ったし。
自分を犠牲にする、度が過ぎる献身もした。
それらはひとえに、恋愛という物に自分なりの答えを見つけたかったからで。
しかし、どれだけ異性に自分の時間を捧げても、彼女が欲しがっていた愛も、心に空いた穴も塞がらなかった。

だが、龍斗は違った。
根暗で繊細で、とっつきにくい第一印象だったけど、月愛が今一番欲しがっている言葉を、適切にかけてくれる。
夏祭りの夜に今まで、溜め込んでいた感情が一気に溢れ出す。

「全部、龍斗と初めてを一緒に経験したかった」
その取り返せない後悔を吐き出して、慟哭する月愛の背中を優しく撫でてあげる龍斗。
たとえ、月愛が初めてじゃなくても、自分にこんなにも初めてをくれる月愛の事を、愛しくて心から感謝しているから。
それが嘘偽ざる、今の自分の率直な気持ちであると。

海愛の妨害によって、一旦は、疎遠になってしまった二人だったけれど。
誤解を丁寧に紐解いて、相手を理解する為に、自分の弱さをさらけ出して。
雨降って地固まるように、理不尽な試練は二人の愛の純度を強くした。
本当に大切なのは、見た目であったり、話術や経済力ばかりではない。
互いに対して、誠実であろうと努力する姿勢であり、相手を心から尊重出来るかのだと思う。
そういったスタンスを保つカップルの交際は実際に、末永く続いていく。

いくつもの経験をして、恋愛に対して万華鏡のような価値観を持つ月愛。
そして、恋愛がまったく未経験だからこそ、真っ白なキャンバスのように、如何様にも色を描き足していく事が出来る龍斗。

「自分がして欲しい事を、相手に惜しみなくしてあげる」
二人は異なる価値観の中で、ようやく、そんな恋愛の真理に辿り着けた。
いつだって初めては始められる。
好きな人と歩き出す景色は、新鮮で色鮮やかな輝きを放つから。

互いを信じた末に深まる絆は、夏空のように晴れ渡る中で、彼らはどんな初めてを経験するのだろうか?






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