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読書記録:アンデッドガール・マーダーファルス 3 (講談社タイガ) 著 青崎 有吾

【夜明け前の怪物は豹変する、群れに潜む狼を看破せよ】


【あらすじ】

村人が次々喰い殺され、闇夜の中で、何者かに少女が拐われた。
犯人は人か、それとも狼なのか。
怪物事件専門の不死探偵が、真相解明に乗り出す。

フォッグが所持していた黒ダイヤの導きに従って、ドイツへ向かったが輪堂鴉夜達が遭遇したのは、人の手では成し遂げられない怪事件。
その村の崖下には人狼の里が存在するという伝承があった。
夜宴やロイズも参戦してきて、場は混乱深まる中で、捜査を進めた先で。
到達した人狼村で怪物達が衝突して、 探偵「鳥籠使い」の謎解きの真髄が炸裂していく。

あらすじ要約

南ドイツの僻地の里に潜む人狼を炙り出す為に鴉夜達と夜宴とロイズが三つ巴を繰り広げる物語。


狭いコミュニティでは、昔からのしきたりや権威ある者に従う事が正義だと肯定される。
弱者や力を持たない者は盲目的にその教えを守るしかない。
それが自らが、この先も生き延びる術であるから。
しかし、弱者にも反骨精神があり、面従腹背を心に抱えつつ。
力を持たない、沢山の群れの羊の、取るに足らない一匹を装いながら。
いつか、強者に牙を立ててやろうと密かに決意する。
傲慢な強者は自らの力に心酔して、まんまと騙されている事にさえ気付かないのである。

鴉夜をつけ狙うモリアーティの真の目的。
世界中の怪物のモデリングとなる標本を集めて、最強の合成獣を創り出す事。
その次の標的となる獲物は人狼。
現場となるのは、対立する人里、ホイレンドルフと人狼の里ヴォルフィンヘーレという村。
村民殺人事件と少女誘拐が相次ぐ村里で。
互いの村人同士が恨みつらみを募らせて、責任の所在を水掛け論する、不毛な争いの中で。
どうにもこの事件の裏には、きな臭い陰謀の意図が感じられる。
それを察する鴉夜。
巧妙に偽装された謎と狡猾な嘘によって、善良な羊達の群れに潜んでいる人狼を、鴉夜達は看破していく。
それを阻む、人狼を目的の為に手に入れたい夜宴。
ダイヤを取り戻すという大義名分のもとに怪物撲滅を目論むロイズ保健機構。
絶体絶命のピンチに幾度と晒されようと、飄々と笑劇のように立ち回る鴉夜達。
鳥籠探偵達はそれぞれの役割を果たして、チームで連携しながら、真相を暴いていく。
謎に対する考察は、鴉夜。
戦闘面で八面六臂の活躍を見せる津軽の不屈。
そして、被害者達の心のケアを静句の情が癒す。
霧に包まれた牙の森で、真相を解明した先で知る、ローザとユッテ、母と子の哀しくて切ない物語。
月下の元での推理は、残酷で容赦のない真実を炙り出す。

閉鎖的な村のコミュニティ。
人民の村と人狼の村が隣接する奇妙な関係性。
謎をより複雑にするように場をかき回す少女達。
何故か一箇所で次々と惨殺される村人。
決まって雨の深夜に、しかも四ヶ月周期で繰り返される犯行の規則性。
この法則に何か意味があるのか、犯行現場を調査する鴉夜達。
その殺害現場は、はめ殺しの窓が密閉された部屋。
亡くなった遺体をすり替える巧妙なトリック。
そして、発見する人間村と人狼村を繋ぐ地下洞窟の存在。
それを早々と見抜いていた鴉夜は、なぜもっと早く種明かしをしなかったのか。
いくつもの真相を覆い隠すノイズが、この事件には存在する。
しかし、考察を詰めていけば、重要な手がかりは一つしかない。
そのロジックを的確に示していく鴉夜。
雨の日に犯行が行われたのは、人狼の嗅覚を鈍らせる為であり。
四ヶ月の犯行の周期は、少女達の入れ替わりを気付かせない為のカモフラージュであった。
その動機は、人にも人狼にも裏切られたノラが、両者を対決させて、溜まった鬱憤をガス抜きさせようとした企み。
二つの村が争い合って同士討ちする事を望んでいた。
四歳にして友達を裏切らないと生き残れなかったルイーゼ。
そして、生まれる前から迫害されて四歳で裏切られて、母親も殺されたユッテ。
不憫なルイーゼの最期の無念をどうしても晴らしてやりたかった。
だからこそ、一年半もかけて、互いに入れ替わって、大人達を騙し続ける計画を思いついた。

鴉夜はその想いを汲み取って、敢えて真相解明を遅らせた。
津軽もあっけらかんと宣った。
人と怪物が共存して生きていく道など、あり得ないと。
お互いがお互いを理解出来ないと忌み嫌って、どちらかが滅びるまで争い合うしかないのだと。
殺害されたのは人間の少女だけであり、人狼の少女達は優生思想を肯定する、人狼の村の掟から逃げ延びたかったからだと。
人狼の村で行われる巫女の生贄の儀式に抗いたかったから。
それを誰も間違った事ではないと、平然と受け入れる大人達。
閉鎖的な村の大人達が行う女性や子供に対する、蔑視と虐待と呼ぶべき行為の被害者となる、ルイーゼと共犯の少女達の小さな反抗。
これは復讐ではない。
虐げられてきた自分達にとっての正義の行いである。

そんな残酷な真実に、自分達「鳥籠探偵」だからこそ、成せるやり方で救済を少女達に提示した鴉夜達。
大人達の眼を掻い潜って、閉鎖的な村から脱出した先で、ノラが出会った怪盗ルパン。
そして、ルパン陣営に新たに加わった人狼。
彼との出会いによって、鴉夜達の次の舞台はロンドンへと場所を移す。
そもそもが、この旅の目的は鴉夜の奪われた身体のパーツを全て取り戻す為である。
ロンドンでは恐らく、鴉夜の失った胴体を取り戻す戦いと謎が待っている。

善悪は立場によって容易に変わる事を教訓にした鴉夜達は、フレシキブルに強敵達を出し抜けるのだろうか?








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