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読者記録:魔王城、空き部屋あります! (電撃文庫) 著 仁木克人

【どんなはぐれ者でも受け入れよう、この世界で生き抜く為に】


【あらすじ】

魔王と勇者の最終決戦中、奥義の激突で起きた時空の歪みが二人もろとも魔王城を呑み込んだ。
飛ばされたのは遥か彼方、現代東京・豊洲のど真ん中であった。

元の世界に戻ろうとする魔王と勇者。
しかし空気中に魔力が無い豊洲では、隣町に引っ越しすらできない。
謎の建築物の出現に怒る、地主の孫・結亜に即時撤去を迫られた魔王は、魔王城を9階建てマンションとして経営する事を提案する。
一ヶ月で満室にすると大口を叩いてみせる。

『当マンションにお住いの人間共よ! どうして家賃が未納なのだ!!』

怪しげな物件に集まった住民は、魔王も頭を抱える変人ばかり。居場所を求める住民の豊かな暮らしの為に、魔王がマンション管理に奮闘していく。

あらすじ要約


登場人物紹介1
登場人物紹介2

魔王と勇者の最終決戦の末、時空が歪み魔王城ごと豊洲に転移する事で、自らの城をマンションとして経営し始める物語。


人は自活する為に、一度は一人暮らしを経験しておいた方が良いと、世論の調査でも明らかになっている。
今まで、親にしてもらっていた事を、全て自分の力でこなさなければならない。
ひたすらに毎日、毎日。
生活という物を成り立たせるには、地味な努力を継続しなければならない。
初めて、生活の衣食住を自分でこなせるようになって気が付く、親のありがたさ。
そして、賃貸を契約する上でも、考えなければならない条件がある。
ライフラインへの利便性、騒音問題、部屋の構造、住民のモラル。
そして、自分で支払い続けられる能力があるのか。
一番、要となってくるのは、その賃貸の管理人がどれだけ包容力があって、理解があるのかだと思う。

剣と魔法と奇跡の力が世界を支配する、ロッケンハイム。
最強の盾と矛がぶつかり合う凄まじい力により、時空を越えたバルバトスとシグナ。
類まれなる交渉術を武器とするバルバトスと、聖剣の祝福を受けているが、脳筋で直情的なシグナ。
お互いの矜持がぶつかり、子供の喧嘩のような不毛のやり取りを繰り広げる。
転移した土地を管理する京子と結亜の剣幕に押され、逆転の発想で城を入居地とした。
先にこの世界に転生していた死霊術士の幼女、ネフィリーの助言を受け入れながら。
90戸ある魔王城を一ヶ月で満室にする契約を交わしたバルバトス。
準備を整えるだけでも四苦八苦して、さらに自由気ままな住人達の言動に振り回される。
まずそもそもこの魔王城、肝心の電気が通っていない。
あと埃が絶えず散らばっていて、衛生環境的にも最悪であり。
悪いお手本のような、年季が入ったオンボロ物件であった。
これでは、新しい入居者が募ってこないと、魔法の力を駆使して、諸々の諸事情を解決し、外面はマンションとしての体裁を整えたが、面談の末に入居してきたのは魔王さえも頭を悩ませる変人達。
皆それぞれがマイペースであり、我が道を往く人達ばかり。

実力が伴わない夢追い人のラッパーのザヴァ―や、部屋を片付けられない芸術家の浮世。
炎上常習者のゲーム実況配信者のノゼルや、動物が好き過ぎる進一と博恵夫婦。
家賃以外にも、何かと出費してしまう入居者が揃ってしまい、運営する為の家賃回収もままならない。魔王は頭を抱えながら、各部屋の住人と家賃回収の交渉に出向いたり、金策の為に臨時的なバザーを開催してみたりする。

そもそもが、絶対的悪の象徴である魔王なのに、現代社会ではどうしよもない異端者である事を突き付けられて。
人間の理解出来ない行動に苛立って、時に強引な手段を行使してやろうと企てるが。
気の強い女子高生の結亜に窘められ、そのプライドはことごとく萎れて、気が付けば、漆黒のマントを脱ぎ捨て。
割烹着を身につけて、マンションの管理人として、新たな仕事に邁進していく。
向いていない職業に思えるが、魔王は本来、人間よりよっぽど多種多様で本能的な手下をまとめているので、コミュニケーション能力が優れているし。
手練手管の諌め方も熟知している。
クレームが絶えないマンション経営は、案外、彼の天職であった。
元の世界に戻る方法は、住民の悩みに親身になって相談に乗りながら考える。

「頑張っている者を、無碍にはできない」
そのポリシーは異世界に来たとしても変わらなかった。
人に敵対するはずの魔王が、人の幸せな生活を守る為に悪戦苦闘していくさまは、心に温かさを感じるし、ユーモラスな面白さがある。
ドタバタと賑やかで退屈しない生活を繰り広げていく中で。
厳粛な顔つきだったバルバトスの表情は柔和な物になっていく。
一方で、この世界で居場所を獲得していく魔王を間近で見せられていた、勇者シグナは自分の存在意義を失いかけていた。

地鎮祭を行わなかった事で、その土地神である龍神の顰蹙を買って、住民達に災いが降りかかる。
そして、肝心な時に人々を救うはずの勇者がポンコツで役に立たない。
宿敵だった魔王がマンション管理人に変わり果てた事で、魔王打倒が宿願であった勇者はすっかり腑抜けてしまう。
見失う自らの意義、変化していく状況に戸惑う心。
しかし、共に力を合わせて、土地神に抗った先で気付く自らの根源。
それは、魔族だろうが、人類だろうが、関係はなかった。
大切なのは、誰かを守りたいと思った自らの気持ちが何処から湧いてくるのか、突き詰めて考える事。
それこそが、この世界で自分達が生きる意味。

入居者の為に、身を削って働く魔王の姿は、人々の心にも、信頼という絆を呼び起こしてくる。
普通から逸脱した、はぐれ者にも、ちゃんと居場所はある。
魔王が元の世界に戻る為に、住民達も手を貸してくれる先で、彼は愛しき故郷に帰る事が出来るのか。

第二の故郷となるこの住居で、魔王はアットホームな生活を守り抜けるのだろうか?







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