![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/174489335/rectangle_large_type_2_8e482ae34a000864665837a26be777b6.jpeg?width=1200)
読書記録:天才少女、桜小路シエルは異世界が描けない (電撃文庫) 著 春日みかげ
【連なる星々のように、どこに居ようが理解して繋がっている】
【あらすじ】
天才少女と新人編集者は異世界を回遊する。
桜小路シエルは自称天才漫画家家である。
服はいつも同じの格言入りのTシャツ。
極度の感染恐怖症であるゆえに引きこもりで、超偏食家。
得意な話題は一方的にマシンガントークするが、人と目は合わせられない。
そんな、様々な地雷を抱えたシエルと担当編集で従兄のレナに、あるミッションが課せられる。
それは、期限内に異世界ファンタジーの原稿を準備する事。
不可能なら、二人とも解雇される。
体験したものでなければ、絶対に描けないと言い放つシエルに、頭を抱えるレナ。
追い込まれた二人は突然、異世界へと導かれた。
風雲児であるシエルは、奴隷商人を懲らしめたり、エルフと友達になったり、さらには魔王城にまで取材に行くとまで言い出していく。
天才漫画家の少女の従兄弟の青年が担当となり、転移した異世界で取材する物語。
何かを一から創り出すには、想像を絶する労力とエネルギーが必要になる。
創作活動に於いても、天才と称される人でも、日々の弛まぬ努力と、物事に対する知的好奇心のアンテナを張り巡らせた上で成り立つ。
ただ、どれだけ光り輝いたとしても、それを傍で見守ってくれる存在がいなければ、虚しいだけである。
天才であっても、誰かに認めて欲しいという、当たり前の承認欲求を抱えている。
普通の人が歩みような人生のレールから外れた生き方をするのは、この現代ではなかなかに生き辛い。
何かの没頭から目を覚ました時、違いが浮き彫りとなると、ふと我に返るのだ。
自分はこんな生き方で良いのだろうかと。
しかし、そんな天才という鎧の、内側に潜む本当の自分を、なんの色眼鏡もかけず、あっけらかんと付き合ってくれる人がいると、とても気が楽になる。
ましてや、体験したものしか描けないという漫画家の業に面倒見よく気にかけてくれる編集者は、孤高な生き方での、かけがえのない安らぎである。
北斗七星のミザールのすぐ傍にアルコルという暗い星がある。
輝きは違えど、連なる星々のように星座を探せばいつも一緒に見つかる。
天才ゆえに独特の感性を持つシエルは、日本では生き辛い。
IQ160と常人とは一線を画す思考回路を持つ、典型的なサヴァン症候群。
歴史モノに造形が深く、他に一切、興味を示さないシエルは、いわゆる発達障害である。
人と上手く関わる事が苦手な彼女を学生時代まで陰ながらずっと支え続けたレナ。
そんな彼女の話に唯一付き合えるレナは、彼女にとっての理解者である。
大学卒業後に、ブラック出版社に入社して、社畜街道をまっしぐらにひた走るレナ。
意地の悪い編集長に、他の編集者達が苦手意識を持つ、歴史的神話や古代文明を題材にした物語を執筆し続ける「くぅぱぁ丼」先生を担当させられる。
そして、期せずして運命の歯車が噛み合う。
漫画家と編集者として再び相まみえた彼らは、編集長が出してきたムチャぶりに応える為に、異世界へ通じるアイテムを使う。
それは、シエルが海外旅行のお土産で買った謎の鏡。
それを通じて、彼と共に使命として異世界に転移したシエル。
二人はドタバタと初めて訪れる、異世界を新米冒険者として、思う存分に満喫していく。
漫画家は実際に経験した物しか描けない。
魔物も魔族も冒険者もいる、割とオーソドックスな異世界。
辿り着いた異世界に対して、日本史や世界史の知識を網羅するシエルは、メタ的な視点で違和感について次々とツッコミを入れていく。
異世界ギルドの矛盾点を突いたかと思えば、エルフの定義を社会制度に当てはめたり、魔王軍を近代化させる、自らの理想とする歴史をファンタジーに入りこませる。
脆弱な設定の世界観に対して、容赦なく切り込みを入れるし、歴史的考察さえも綯い交ぜていく。
さらには、強大な魔物を封印したり、奴隷市場のシステムを壊してやったり、魔導士見習いエルフのスモールと親睦を深めたりする。
眼に見える世界は今までの常識が通じない世界。
しかし、現代で非常識と揶揄されていたシエルにとっては、まさに拠り所となる場所であった。
そして、新鮮で面白いネタの宝庫であった。
そうやって、異世界に深くのめり込みながら、その体験を血肉として現代漫画の執筆に活かす。
異世界の環境と見た事もない人種達に戸惑いながらも、レナの必死の説明と仲介が功を奏して、徐々に異世界の住民達に理解され始め、エルフのスモールや魔王に突撃取材をして、どんどんと構成のプロットが仕上がっていく。
前述した星々のように、他人からなかなか理解を得られないシエルにとって、レナの存在は想像できないくらい、大切でなくてはならないものである。
どちらの星が欠けてしまえば、それは星座として成り立たない。
孤独に光輝いたとしても、連なるものがなければ、見上げる者は意味を見出さない。
いくら天才と言えど、この世界で理解者が居なければ孤独の海に溺れてしまう。
自分の信じるものを肯定してくれる人がいる。
だからこそ、天才はさらに常人では及びもつかないような才能や発想を開花させていく。
過去に一度は、離してしまった手と手を繋ぎ合わせて、二人は時間と次元を飛び越えて、アイディアを練り直した。
そうやって互いを支え合って、二人三脚しながら創り上げた渾身の作品。
そこから生まれた物語は現代人に受け入れられるのか。