読書記録:虚ろなるレガリア2 龍と蒼く深い海の間で (電撃文庫) 著 三雲 岳斗
【進退窮まる蒼き海上で、この誓いを遂げる為に】
民間ギルドを統治する横浜要塞に訪れたヤヒロ達を待ち受ける沼の龍の巫女、丹奈と不死者、久樹との邂逅により、ギベアー社が日本再独立の為に彩葉を担ぎ上げる物語。
かつての大殺戮によって無法地帯となった日本。
それを狙い澄ます外国の軍隊に侵略される。
そんな絶対絶命の状況下で、日本の象徴として彩葉を利用する破滅的願望。
しかし、兵士が闘うのはそこに守りたい人がいるから。
国の為に闘うのなら、守るに値する国を創らなければならない。
護衛艦に避難していた日本人が海賊行為を行うなど言語道断で。
日本人生存者による亡命政府、日本独立評議会の計画に巻き込まれていく中で。
龍の巫女の力を使い、外国勢力から日本の領土を取り戻そうとする評議会。
しかし、その手段は苛烈を極めて、人道を無視した行いが平然とされる。
僅か千人にも満たぬ日本人は、生きる中で一体何を為そうとするのか?
現状、日本人の中にしか存在しない龍の巫女、そして、その刃となって、盾にもなる不死者。
世界を文字通り変えるほどの大きな力を持つ者達は、一体、何を考えて、何を為そうとするのか?
そもそも、八尋は妹である珠依を殺そうとしている。
それは復讐の為に。
それ以外と敵対する必要がないのだが、その前提条件が崩れ去る。
民間軍事会社の支配する横浜要塞を訪れた八尋と彩葉の元へと訪れる。
出会いの主の名は丹奈と久樹。
欧州重力子機構で物理的な観点から龍を研究する、「沼の竜」の巫女と不死者のコンビである。
八尋に興味があると嘯いて、接近してくる丹奈に八尋が振り回されて。
その様子を見て、彩葉は何処か面白くない。
今まで殺すべき対象であった珠依以外の巫女と不死者に出会い、八尋は新たな視点を得ていく。
しかし、そんな中で。
世界的に有名な映像作家、マリユスから彩葉へ企業案件が持ち込まれたのをきっかけとして。
二人は新たな巫女と不死者と出逢う。
新たな出会いの主の名は知流花と天羽。
旧自衛隊の護衛艦、「ひかた」を領土として活動する亡命政府を統べる、山の龍の巫女と不死者。
軍人も民間人も一体となって努力して運用する彼等の在り方を見つめて。
その裏で、何かの黒い思惑が蠕動しているのをひしひしと感じる。
妙な感覚に襲われる二人の目の前、不死者の特性を生かした恐るべき計画は晒されて。
亡命政府の恐るべき作戦も公表されて。
それを許容できず、天羽と戦う事となる八尋。
しかし、その戦局は更なる別の龍の巫女と不死者の乱入を受け崩されて。
暴走する山の龍を前に珠依までも現れる。
二転三転する戦況の中、敵であった久樹や丹奈とも協力し、懸命に抗っていく。
国を国たらしめるものは何なのか?
一国が壊滅して、信ずる物が曖昧模糊になる中で、それぞれの正義がぶつかり合い、勝者が真の正義となる厳しい世界で。
答えも正解も最早なくて、自分の信念を尽く、揺さぶられてしまう。
誰が味方で、誰が敵なのか?
新たなる不死者と新たなる龍の巫女の登場により、各陣営の思惑は更に混沌とした物になる。
それぞれがそれぞれの信念の元、行動を起こしていく。
そんな中、今巻では消滅した日本を再興しようと画策する不死者、天羽を軸に物語が展開されて、人間、魍獣、不死者に加えて新たな勢力が登場する。
取り戻したい物があるからこそ戦い続ける彼女達に立ちはだかる絶望の数々。
救いたいけど、己の未熟さ故に救えないもどかしい葛藤がわだかまる。
その果てに待つのは切ない景色。
加護の危うさが一因となり招いた、救えなかったという結末。
容赦無い現実を突きつけられても、まだ抗う術が残されていると、その僅かな希望をより集める。
価値観を揺さぶられながらも、譲れなかった信念。
沼の龍の陣営にも、山の龍の陣営にも、確かに彼女達の心を満たす想いがある。
それは彩葉にはない想い。
持ち合わせぬからこそ空虚、しかし、だからこそ純粋。
その想いは危うくも、どこか揺るがずに。
切ない別れと遺された想いを受け取り、再び前へと進む。
しかし、彩葉も、八尋もまだ知らない。
彼らを取り巻く世界は、どこにも油断できない均衡で成り立っている事を。
果たして八尋と彩葉は、今度はどんな敵と戦って、どんな世界を見ていくことになるのだろうか?
確実に終わりに向かって進む世界で、交わした誓いを守り抜けるのだろうか?