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読書記録:悪いコのススメ2 (MF文庫J) 著 鳴海雪華

【悪に染まるのも簡単でない、それでも復讐の連鎖は終わらない】


【あらすじ】

文化祭でのテロをやり遂げた蓮と胡桃。
しかし、腐った現実は簡単には変わらない、たった数日で、最悪な進学校は元の姿に戻ってしまう。

悪辣な夏季講習を破壊するため、夏休みに二人は再びテロを計画する。
しかし、二人の犯行を何故か知っている学年トップの優等生の七々扇奈々によって、二人だけの世界は壊れ始める。
仲間になりたいと候補する七々扇が、大規模なテロを起こす表明をして、二人だけの世界を壊されないように、さらに大きなテロを企てる胡桃たち。

二つのテロが交差する中で、夏目蓮は学校が秘めていた新たな真実を垣間見ていく。

あらすじ要約


テロを成し遂げた蓮と胡桃の野望。変化の無い学校で秀才の奈々が接触して来る物語。


自分達の敵として、明確に映る者達は、一括りに全員敵であると認識してしまいがちである。
ましてや、敵が強大であればあるほど、それを必要以上に蔑視して、それに抗う気力を自分の中で奮い立たせる必要がある。
しかし、仲間と思っていた味方に欺かれるほど、チームの中で打撃になるものはない。
敵をこちら側に引き込む事が出来れば、その内情と全体像を把握する事が出来て、戦略を立てやすくなる。
そういう意味では、敵だと思い込む相手達をよく観察して、そこに少しでもわだかまりや綻びを見つけたらなら、すかさず奪い取れるような、知略に長けた仲間を見つける事は、大きなパワーゲームに抗う術の中でも、必要不可欠な要素である。

私立西豪高校という小さな絶望に取り囲まれた箱庭で、反逆を開始した蓮と胡桃。
抗うのは、彼らにとって世界そのものである。
それを壊すにはいささか力不足である事は否めない。
二人だけの力では、行き詰まった感覚があった。
だからこそ、新たな力を持つ者を求める。
しかし、この統制された学校では自分達のように明確に抗っている者を見つけるのは至難極まる。
少しでも抗っている姿を見せ続ければ、それに賛同してくれる仲間が現れると信じて行動していく。

明らかに確信犯なのに、理不尽な夏期講習を開催して、悪びれもなく、体裁を取り繕う大人達。
前回のテロも、喉元過ぎれば熱さを忘れるように、教師達が運営する学校全体のシステムを変えるには至らなかった。
大した意味などないのに、休みを潰して執り行われる講習。
休みに休めないとは、休暇の意味が形骸化している。
生徒にとって大切なのは、成績と勉学と受験という価値観を刷り込み、成績至上主義が蔓延する学校で。
他の生徒達は、大人の指導を盲目的に信じ切っている。
その境遇が当たり前であれば、疑う事すら出来やしない。
子供を舐め切った大人達に唾を吐く為の、背徳行為に勤しむ蓮達。
二人の価値観は褒められたものではないが、それでも、周りがあまりにも歪すぎるから、自分達はまだ純粋で正常であるという意識がある。

禁じられた爛れた関係と仄暗い感情で、我道をひた走る。
この世界の法律で大人達を裁きたいわけではない。
ただ、下らない事で矯正しようとする大人達に、ちょっとした嫌がらせをして、その潔白を少しでも黒く汚して、自己表現したいだけ。
正義ヅラしてあくどい事を悪びれもせずやっている大人達に、溜まった怒りをぶつけたいだけ。
厳格なようで子供の現状をちっとも見ようとしない大人。
それに反抗しながらも、とるに足らない復讐でしか憂さ晴らしができない自分達。

その言いしれない停滞感の中で、忍び寄ってきた学年一位をキープする秀才である奈々。
彼女は仮説と執念で、学校で巻き起こるテロの犯行を蓮達が行っている事を突き止めた。
しかし、それを教師達に告げ口する事なく、自分も仲間に入れてほしいと名乗り出る。
彼女の思惑は、はっきりとは分からないけれど、彼女が条件として提示したテロによって見定める事を決める。

新たな頭脳を持つ奈々に手のひらの上で転がされながらも、大人を利用する為の内通者も出来た。
自分を陥れた学校と生徒会を強く憎んでいた。
蓮達の行き着く先は、社会的な幸福は待っていない。
伴う行動について回るリスクが大きくなっていく。
この行いには必ず天罰が付きまとうが、それでもこの学校改革は成さなければならない。
休みに休めない、夏期講習の闇を暴いた果てに、新たな知見を持つ奈々は新任教師との接触を計り、その教師が持っていた一冊の手帳から、教師達も一枚岩ではない事が分かっていく。

この勢い任せで始まった復讐は簡単には終わらせない。
目には目を歯には歯を、やられたなら、やり返す。
腐った大人達に食らいつく、反逆の牙。
今回の大規模なテロによって浮かび上がった、悪辣な学校に深く根付いた腐った根を切るべき証明と、大人達の間で燻っていた関係が持ち出された。
生徒だけが苦しんでいるのではなく、教師側も苦悩を抱えている大人がいる事が分かった。
自分達を取り仕切る大人達を一括りに見てはいけなかった。

教師の中でまだ人格者である大隈先生を、こちら側に引き込む。
演じていた大人の仮面を脱ぎ捨てて、教師側の情報を流してくれる強力な助っ人。
新たに加わった学校に不満を持つ者達と、怒りを共有して、復讐の輪を少しずつ広げていく。
頭脳派である奈々を味方に加えて、力をつけた蓮達は、共に因縁の存在である生徒会に、次の狙いを定めていく。
背きながら、手にした新たな力を黒く染めて、より悪へと踏み込んだ、自分達なりの冴えたやり方。

確かな復讐に燃える者達を引き連れて、成し遂げる悪が、この腐った学校の根を断ち切れるのだろうか?





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