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(読書雑感)帝国の崩壊


連続講座を基にした書籍で14章あります。

歴史上で帝国と呼ばれる国々は、領土拡張を目標にし、相手側を征服していく事で生きているので、かならず周辺国と戦争していきます。よって基本は強い軍隊を持つことが必須なのですが、問題となるのは勝利して征服した民族や宗教の扱い方です。

アレキサンダー大王はアケメネス朝ペルシアを征服して大帝国を築き上げますが、実際は既に完成されていた帝国をそのまま吞み込んだ形です。アケメネス朝ペルシアは征服した土地の自治や宗教をなどを認めており、アレキサンダー大王も同様に統治します。帝国とはいいながらも宗教や民族ではなく、徴税と土地の安堵といった制度としての帝国であり、緩やかな統治だったと言えるのではないでしょうか。その上、華やかなペルシアの伝統儀式を取り込んで、当時では辺境であったマケドニアの王からアジアの王となりました。

この帝国の崩壊は明快で、アレキサンダー大王の死そのものが、ほぼ即時に帝国の崩壊に結び付きました。余りに早く領土を拡大した帝国は、その崩壊も早いのです。半面、徐々に領土を拡大しながら国家のスケールに応じて制度を変化させてきた帝国は、長い時間をかけながら崩壊していくものだと感じました。

ここではオスマン帝国を挙げます。

アナトリア半島のトルコ系ムスリムの君侯国から出発したオスマンは、半島の統一までに約1世紀かけています。その後、ビザンツ帝国を倒しコンスタンティノープル占領するまでにも、1世紀ほどかかりました。

帝国化していく中でオスマン帝国は様々な制度を考案します。単純な専制国家から、皇帝の下に宰相を置くシステムに、領土が大きくなると複数の宰相とそれを束ねる大宰相を置くようになります。その他にも軍事法官や財務長官、行政長官など国内体制を組織化していきます。

宗教面でもムスリムの国でありながらキリスト教も税金を払えば信仰を認めています。また、キリスト教徒の子弟の中から選抜した帝国直属の軍団(イエニチェリ)を編成しました。これは無理やり徴兵されるというよりも、帝国の軍事エリートとして出世する機会を得た事になるのです。民族や宗教による差別よりも、能力重視・実利志向の人材登用を行い、当時としては進歩的な制度を進めて国力は増し、周囲を征服していきます。

ただ皇帝の継承についてはかなりシビアでした。相続した皇帝以外の『兄弟殺し』が何世代にも渡って繰り返されてきたのです。これも帝国を維持するための制度としては機能しており、オスマン帝国は後継者争いによる国家の分裂を防いできました。

2度までもウィーンを包囲するまでヨーロッパを震撼させたオスマン帝国です。もちろん600年以上続く帝国ですから、対外戦争以外に国内でも様々な危機がありました。皇帝の突然の死や帝国膨張期における大宰相の突然の処刑などの出来事と共に、大きな流れとしては権力の分布に濃淡が生じます。単純な皇帝専制でなく、後宮(ハーレム)の影響力、強大な近衛兵として徴兵したイエニチェリの権力増大、宰相の座を占める一族の台頭など、しかしながら帝国は存続します。

オスマン帝国の衰退と崩壊については大きく2点があげられています。1つはヨーロッパ産業革命による科学技術の発展・軍事力変革の波に乗り遅れた事。帝国初期は西方では対騎馬民族への火器兵器で圧倒、全体的には攻城戦で優秀な歩兵軍団(イエニチェリ)、という制度が時代の中でいつしか遅れていったと言われています。この辺りは中国・清の時代末期とも重なる部分があります。(産業革命を経た英国が持参した機械類に清の皇帝は興味を示さず、開国せずに朝貢体制を継続します)

もう1つはオスマン帝国が占領した現地の制度・民族をある程度存続したまま統治するタイプの帝国であった事です。ヨーロッパを中心に国民国家という思想が生まれてくる中で、言葉や宗教などが異なる地域においてナショナリズムが台頭してきます。その頃、科学技術発展の波に遅れたオスマン帝国の軍隊はヨーロッパ列強に対して相対的に弱く、敗戦を重ね領土を失っていくのです。

最終的には局地的な戦争として始まった第一次世界大戦で敗北します。ただ敗北による国家崩壊・分割の土俵際でムスタファ・ケマル・アタテュルクが祖国解放戦争を指導し、アナトリア半島とイスタンブールを保持する事に成功します。1299年を建国とし1922年帝政廃止まで数えると、オスマン帝国は623年にも及ぶ大帝国でした。

本では冒頭のアレキサンダー大王の他に、ローマ帝国における共和制→帝政→軍事国家という変遷と崩壊、モンゴル帝国では相続による国家分裂していく様子など他にも様々な事例が記載されています。古代から近現代まで網羅しているので、ここから各国の歴史を訪ねていくのも面白いと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。







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