祖母は昔から金色の大きな両手鍋いっぱいに手羽先を甘辛醤油で煮る。私が生まれる前のほんとうの大昔から。煮手羽の日は他のおかずはない。汁物だってない。用意されるのは白いご飯だけだ。しかし濃すぎるほどの味付けにはそれが正解と言える。私は祖母の煮手羽を食べるプロフェッショナルなので箸は使わない。左手で軟骨部分をつまみ、軽く咥える。引き抜くとするするっと肉がほどける。つまんで引き抜きご飯をかきこむ。つまんで引き抜きご飯をかきこむ。黙々と繰り返す。大皿に盛られた煮手羽はあっという間にな
家具が好きだ。太々しくどっしりした色合いのアンティークなもの。焼き菓子の装飾のようなひねりを柱に彫り込んであったり、ブナやフジなどの植物と相談しながら形取ったり。簡単な作りの古い飾り棚でも一枚板が使用されていたり。それだけで趣がある。最近流行りの青や黄色の高い彩度で一面を塗る北欧のものも良い。装飾を最小限に抑え、簡素さを美しさに変換している。「物」はどれも美しい。 そういったものを見たくて、SNSでインテリアを紹介するアカウントをフォローしている。気軽に定期的に、好きなも
家の窓際で風に撫でられて1日を過ごしていた。北向きのその部屋は陽の当たりが悪く、晴れの日でも薄暗い。光とは呼べないような柔らかいグレーの明るさを感じながら、連続したスクエア柄の少し埃っぽいレースカーテンが揺れているのを眺める。私の家は古い平家の一軒家で、この部屋も畳だ。トタン壁の小さな工場が並ぶこの田舎町にぴったりな、インテリアに無頓着な極めて庶民的な家だ。ただ、何故か私はこの場所に洋画のような美しさを感じ、排他的な居場所を見つけている。彼らがこの家に来たのはそういうものが
年季の入ったリビングテーブルに、おかずがこんもりした大皿を並べる。今日の献立は、菜の花と豚肉の柚子胡椒塩胡椒炒め、ねぎがたっぷり入った卯の花、豆腐入りのひじき煮、生野菜サラダ、合わせのお味噌汁、それに昨日の残り物が2品。私好みのラインナップだ。弟がひじき煮を山盛り取り皿にのせて、どんどん口へ運ぶ。「豆腐がいい仕事をしている。」と、「うまっ、うまっ。」と鳥のように鳴きながら。 その豆腐は、下茹でをして、水を切って、きつね色に炒めてある。塩で茹でると、浸透圧で水が抜けるのだ。
伸縮棒ネットの口を広げると15、6個の栗がごろごろと転がり落ちた。恰幅がよいスモーキーな赤茶色。まさに栗色だなぁ、と静かに思う。 半袖のTシャツにさまざまなカーディガンを着て緩やかに下がっていく気温に対抗していたが、今日は箪笥の奥からトレーナーを引っ張り出した。クリーム色の袖から今度は私が腕を出す。埃っぽさにひとつの秋を感じながら産直へ向かった。久しぶりの店内はどっさりと秋が敷き詰められている。私と、土地で繋がる人々が用意した野菜や果物には、スーパーのそれらとは違いどこか
自分のためのアルバムです。 花はいいですね。 花 2023.10.07. フジバカマ 2023.10.14. リンドウ ブルニア フジバカマ 2023.10.14. リンドウ フジバカマ 2023.10.24 リンドウ(生け直し) 2023.10.28 キク アリアム リンドウ 2023.10.28 リンドウ ブルニア 絵 2023.10.07. 藤袴(抽象画)
栗紅茶 手作りの栗餡と紅茶茶葉 栗餡3種全てに言えることだけれど ちょっと栗が少なすぎたかなあ。 私が思っていたよりも風味が薄い… もっとガツンと感じたかった…! 栗林檎 栗餡と、ブランデー漬け林檎のソテー 火を通しアルコールは飛ばしてます。 林檎は去年11月に青森で買った紅玉です。 秋の組み合わせだね。 栗コーヒー あまりにも栗餡が多すぎて 家にあるもので追加で用意した味。 インスタントコーヒーを混ぜました。 ちょっと良い牛乳と食べるのが良い。 紅茶フルーツ 初夏に
私の後ろにぶら下がるモダンなシャンデリアの光が窓ガラスに映っている。葉を順番に赤く染めている桜の樹がちょうどそこにいて、真鍮のベルを飾られているようだ。今日は風がない。植物たちはおとなしく、時々雨の滴りに頷くだけだ。私もそういう大人になりたかった。と、今週のうまくいかなかったことを思い出す。ついでに先週のも。あれも、これも。それも、どれも。ため息でちょっとだけ自分が小さくなるのを感じる。赤ちゃんのほっぺみたいに丁寧に焼かれた生地としゃんと角を持ついちじくを重ねたミルクレープ
借りてきた猫ズ スペース一覧表 個人的なものですので何卒。 2022年群像の夜「スワロウ」 20220722 群像の夜「形のない骨」 20220827 企画「第3回ラーメンズで死ぬ日」 20220903 かりねこラジオ「オツキミ」 20220910 ht
はたちを過ぎた頃までは出かける際に必ずiPodとイヤホンを持っていた。自転車で砂利道を、二両編成の赤い電車で街へ、免許を取ってすぐには夜通し高速を走ってどこまでも100キロも500キロも1000キロも先へ。自分のだいすきを詰め込んだ小さなアルミニウムがあればあっという間だった。それ以外にも、芸術、花、絵、お菓子、そこにしかない何か、など、あれや、これや。名前のつかない小さな粒のような私のすきが溢れて溢れて。あっという間をあっという間に過ごしていた。ただ大人になってから蹴躓く
▷spoon朗読 「優に救われてるの、ほんとうに。」 「朝起きて、今日も無事生きてるなと思う。」 「普通がいちばん。そう思うようになったわ。」 太陽に手を伸ばす木々を横目に、助手席で祖母がぽつりぽつりと言う。 災害級の暑さをキャスターたちが警告する日々。うだるような暑さ。茹で上がるという意味もそうだが、音が、この日本の夏の暑さを表すのにぴったりの言葉だといつも思う。この1週間、雑草たちが灼熱の日差しに項垂れていた。彼らの水分が蒸発しているのだろうか、あたりには蒸した葉のに
無彩色の薄いカーペットが吸収する足音。天井に届きそうな本棚の所々で生じる木板を摺る音。筆記具が机を滑る音。紙と紙が優しくこすれる音。それをめくる音。控えめな言葉の交差。弦を張るような少しの緊張に身を任せ、私はここにいる。通い慣れているはずなのに、不思議と浮ついた自分を見つけるのだ。しかし彼は対照的にこの空間の一部となっていた。例えば、ここは学校の図書室で、彼はそこに置かれた「分厚い本を捲る男子生徒」の絡繰人形で、毎日、この時間、象牙色に塗られたコンクリートの壁と窓際にもたれ
ここで明らかな私と彼の分岐点が生じる。私のグラスで不安定に重なっていた氷が身を挺して時間の経過を告げるも、その声に耳を傾けたのは私だけだったのだ。氷は有能で、彼は無能だ。そう思いながら、私はプラスチック製の細いストローを指先で摘み、グラスの底のアイスティーと氷だったものを一撫でした。氷はもう一度時間について声を上げた。彼の気の抜けたジンジャエールがグラスに汗をかいて足元を濡らしている。私の視線を追いかけて、彼は言う。 「ああ、思ったより甘くてさ。」 「そうなんだ。ジンジャエ
夜の高速道路を走り抜ける帰り道。君は2ヶ月先の話をし出した。今日が終わる寂しさから次の予定の提案をしようとしてるのだろう。これはおそらく、私の真似だ。君が私の内側の輪郭を触れ始めた頃、私は車を車線変更しひたすらに走り出した。フロントガラスとサイドミラー、そしてバックミラーに視線を動かすことで、立体的な景色を脳内に組み立てた。運転に集中していることを言い訳に、耳を塞いだのだ。君の声は少し遠くに聞こえた。何かを言う君に私は気のない返事をし続け、この突き当たりを無意味に先延ばしに