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「タイ料理」の社会的構築ートムヤムクンを中心に


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Ⅰ序論

1問題の所在

 タイ料理というとトムヤムクン[1]、グリーンカレー、ガパオライス、パッタイ[2]などの料理を思い浮かべる方が多いのではないだろうか。今日では、日本のスーパーやコンビニなどでもインスタントのグリーンカレーのもとやトムヤムクン味のカップヌードルやスナックなどが見られる。このようにタイ料理が日本人にとっても身近になってきている背景には、タイ料理の世界的な人気の上昇がある。タイの政府広報局(The Government Public Relations Department)によると2002年から政府のサポートを受けて、海外のタイレストランの数は5,500から15,000に増加し、最近では、世界に17,678のタイレストランがある[The Government Public Relations Departments 2024]。2024年に公開された統計データによると、2021年、沖縄県には、8,495の飲食店事業所があり[e-Stat(政府統計の総合窓口) 2024]、現在、その2倍以上の数のタイ料理店が存在するということである。2024年にはスダワン文化大臣が、トムヤムクンとケバヤ衣装のユネスコ無形文化遺産への登録を目指す計画を発表し、タイのソフトパワーを国際的に広めるための活動も積極的に進められている[MGR online 2023]。そして、2024年タイ料理がUNESCO世界無形文化遺産に登録され[UNESCO. 2024.]、今後もタイ料理の知名度と人気が世界的に上昇することが予想される。
 このように、世界的人気を高めているタイ料理であるが、「タイ料理」とはどのような料理なのだろうか?まず、本稿では、「タイ料理」というカテゴリーがナショナリズムとそれに関する政策、その後の経済や観光に関する政策によってどのように社会的に構築されてきたのかを明らかにする。ここでは、タイのナショナリズムと関係の深いパッタイを例に「タイ料理」というカテゴリーの基準がどのように構築されてきたのかを見る。続いて、その基準によって、トムヤムクンがどのように「タイ料理」として構築されてきたのかを分析する。タイでは、政府が中心となって1990年代から観光キャンペーンが実施されてきた[Tracy, Berno, Dentice, Wisansing 2019]。これらのキャンペーンでは、タイ料理が世界に向けて発信されてきたが、その中では、特定のタイ料理が選択され、知名度を高めていった。本稿では、観光政策がどのように「タイ料理」を構築していったのか分析する。このようにして社会的に構築されてきたタイ料理であるが、一般のタイ人のタイ料理に対するオーセンティシティはどのようなものであろうか?本稿では、聞き取り調査の結果からトムヤムクンのオーセンティシティを探る。また、トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産登録を受けて、トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産申請書類から、トムヤムクンが資源化されていく過程を分析する。

2用語の整理

 本項では、本稿で使用する主要な用語を整理し、後の議論の基盤とする。
 エスニシティについては、綾部(1993)の定義に従って、エスニシティとは、「民族集団(エスニック・グループ)とは「国民国家のなかで、他の同種の集団との相互行為的状況下にありながら、なお出自と文化的アイデンティティを共有している人びとによる集団」をさす。そしてこうした民族集団が保持し表出する性格のこと」[綾部 1993. 39]とする。
 次に、ナショナリズムについては、「政治的な単位と民族的(文化的)な単位とが一致すべ きだとするひとつの政治的理念」[Gellner 1983. 1 訳]とする。
 最後に、オーセンティシティについては、本稿では、「タイ人自身による自らの料理に対する正当性」とする。

3 人類学とタイ料理

3.1人類学における食研究の流れ

 ここでは、秋野晃司[2017]の「文化人類学の「食文化研究を中心とした成果の検証」」を参照して、秋野が書いた人類学における食の研究の流れを整理する。
 
 欧米社会の学術的食文化研究は、世界に多くの植民地を抱えていたイギリスにおいて、19世紀後半に始まった。アメリカの食文化研究は、イギリスのように広い植民地を持たなかったため、食文化研究は後発であり、20世紀になって、当時盛んであった「文化とパーソナリティ」研究の一環として、食糧不足への不安の研究が行われた。20世紀後半においては、フランスの構造人類学者レヴィ=ストロースによって、欧米の食文化研究に新しい方向づけが提起された。
 イギリスのE.タイラーやJ.フレーザーは、進化論の枠組みのなかで、食物禁忌に関する研究を行った。その後、食物タブーの研究はM.ダグラスやM.ハリス等によって、食物の消費理論の構築に貢献した。
 また、イギリスの植民地における食習慣の研究は、アフリカやオセアニアにおいて、食物の生産、加工、消費が社会組織とどのように関係しているのかという研究であった。これらの研究は、近代以前の社会構造の研究に役立った。
 A.リチャードは、20世紀、栄養学者との初めての共同研究を行い、人々の栄養状態、食物の調理方法、儀礼における食物の栄養的観念、食物の調理方法、儀礼における食物の重要性、肉食に見られる人々の興奮、食物交換と社会関係、食糧不足に対する観念など、食文化の幅広い対象の研究を行った先駆者となった。
 H.パウダーメーカーは、アイルランドの経済生活における食物の宴会での役割に関する研究を行った。食物の社会的機能に関する事例として意義のあるものであった。
 C. デュボアは, インドネシアのアロレーズ島での調査で, 飢えによってつくりだされた子供時代の不満と疎外感が, 成人になった時のパーソナリティや社会関係のあり方に影響し, 不安心理や猜疑心を形成すると主張し、 食料不足は文化的, 社会的, 心理的機能に影響を与えることを明らかにした。
 レヴィ=ストロースは、「自然種は《食べるに適している》からではなく,《考えるに適している》から選出される」(Levi-Strauss1962=1970: 145)という主張をし, 食物の意味や食物の精神的, 観念的, 象徴的機能に関する研究を行った。食物や食事は「食物コード」として、社会関係、文化的アイデンティティ、浄と不浄、正常なものとの変則的なもの、労働の性別分業などのあり方を表現する文化的構築物とみなした。彼は、食物を人間の精神世界を無意識に表現する一種の言語とみなした。また、「食の三角形」において、生のものが自然の過程で変化したものであり、料理したのもは生のものを、文化的手段で変形したものであるとした。
 M.ダグラスは、レヴィ=ストロースの二元論的思考を踏まえて、食文化研究を発展させた。彼女も人間の食行動は, 特定の社会集団や民族集団の食物に対する観念と認識によって規定されるという立場である。ダグラスの食文化研究への関心は、食物と料理の経済的、栄養的、生態学的要素ではなく、二元論的分類である日常的食事と非日常的食事が, ホスピタリティのコミュニケーションや民族的アイデンティティの象徴的・社会的価値を表現していることに関心があった。彼女は、イスラエルの豚肉の禁忌について、イスラエル人の精神性での解釈を行った。
 M.ハリスは、文化生態学者で、ダグラスらの収入や富と関わりのない食行動の象徴論的・認識論的分析に対して、ハリスは食物が意味を伝達することを否定しないが, 食物の選択に環境や栄養を全く考慮しないことに反論し、食物の禁忌(タブー)は, 人間が住む生態系や環境によって規定されると主張した。
 日本における文化人類学的食文化研究は、環境論的・文化生態学的・唯物論的立場と象徴論的・構造機能主義的立場の2つの研究視点に大別される。
 環境論的・文化生態学的・唯物論的立場の研究としては、石毛直道とケネス・ラドルの魚醤とナレズシの研究がある。彼らは東南アジアの国民的調味料である魚醤の製造技術や歴史、食生活における役割、稲作との関係、魚醤圏の分布を明らかにしている。
 後者の構造機能的研究は、食物に対する観念や社会的機能に関心を抱く食文化研究で、秋道、清水、関本等の研究がある。
 秋道は、構造主義的方法によって、さまざまな状況や場面に応じて用いられる食物の民俗分類の問題をとりあげた。彼はミクロネシアのサタワル島において, 食物の種類, 食物自体のもつ属性や匂い、食物と超自然的存在との関係、料理のありかた、食事の場といった諸条件に着目し、分析を行い、二項対立的な行動を明らかにした。
 清水は、ミクロネシアのポナペ島の代表的料理法である石焼き料理をとりあげ, この料理法を通じて, ポナペ島民の社会的・文化的世界を探求している。彼によれば, 石焼きは, 焼き石の上にパンの実、ヤムイモ、豚を乗せてつくる料理であるが、この料理は, 「社会的上位者への訪問や宴への参加のための持参品, 何らかの寄与に対する謝礼, 物による援助といった, 社会関係を媒介し, 確認・強化・再生させる機能をもたされたもの」(清水1976: 192)であるとされる。
 関本は、インドネシアの中部ジャワにおける、食物の儀礼的交換について報告を行い、食物の持つ社会的・宗教的意味を、ジャワの儀礼的コンテクスト(文脈)のなかで明らかにした[秋野 2017: 33-36]。
 

3.2ガストロノミーと人類学

 まず、ガストロノミーという用語について先行研究から整理する。深谷拓未[2021]は、イタリア・ワインを事例に政治・経済と食との関係を指摘する食文化研究「ガストロポリティクス」の検討を行い、その中で、ガストロノミーについて、「料理の「美味しさ」への価値の創造と追求であるガストロノミー(Gastronomy)の幕開けは19世紀フランスに遡るが(宇田川2021)*6、それが貴族階級を中心に誕生・醸成したことからも、その展開は中央集権的な政治体制という特徴をもつフランスの近代国家の成立と足並みを揃えている(オリイ2003)[深谷 2021]。」と述べている。佐原秋生[2012]は、ガストロノミについて、「ガストロノミという言葉は,日本語の中で未だ市民権を確立していないようである。一応の訳語である美食学と言い換えたところで,それが果して何なのか,理解を得るのはなかなか難しい。「食を楽しむ知識と方法の体系」と説明しても,事態はあまり変わらない。食を繞る言説のどの領域を指すのかが,明瞭に伝わらないのである[佐原 2012]。」という課題を提示し、それに対して、「考えや意見の論に対して学問は,「体系的な知識・方法」であって,食に関する人間の精神活動の産物につき,それぞれ固有の観点から知識・方法を体系的にまとめ上げたものが,家政学,民俗学,文化人類学などの諸学,となる。このうち楽しむを観点とするのがガストロノミであり,即ちガストロノミは食文化学の一分野である。[佐原 2012]」として、ガストロノミーの位置を示した。尾家健生[2015]は、ユネスコ創造都市ガストロノミー(食文化)の審査基準項目から、ユネスコ食文化創造都市でのガストロノミーの意味は「美食術」よりも伝統料理とその食材を支えるコミュニティ、飲食サービス業、料理人、食品加工業者などを総合した「食文化」に重点が置かれていることを発見した[尾家 2015]。以上のことから、ガストロノミーは、フランスから始まった、美味しさや楽しさといった観点を持ち合わせた、総合的な食文化の探求ということができるのではないだろうか。人類学においては、1976年に出版された、Gastronomy: The Anthropology of Food and Food Habitsで、ガストロノミーという言葉が登場しており[Margaret 1976]、ガストロノミーは、人類学の研究対象である。本稿で扱うトムヤムクンも、美味しさや楽しさの追求から生まれたタイの食文化であり、ガストロノミーである。

3.3資源人類学

 資源人類学は、日本で、内堀基光を中心に始まった人類学の分野である。内堀は、「資源」の分配と共有のあり方 を研究軸として立てることにより、人類社会が拠って立つ象徴系(文化)と生態系(自然)という二つの基盤を連 関的に捉えること、そして、この連関の様相を実証的かつ理論的に解明する人類学の新たな統合領域として「資源人類学」を構築することを目的に研究を行ってきた[文部科学省 2010]。内堀[2007]は、資源を「人間の活動の中で動的であるとともに、人間の生活に動的な力を供給するもの」と規定している[内堀 2007:19]。 文化資源に関して、山下晋司[2007:15-17]は、ある社会的な構図のなかで、いかにして文化が資源になるか、そのプロセスはどのようなものかが問われなければならないとして、文化の資源化が起こる基本的な場として、ミクロな日常的な文化実践の場、国家、市場という3つの場を示している。これらの場における文化資源のあり方は、異なり、日常実践の場での文化の資源化は、人が生存環境と折り合いをつけながら生きるために行われる基層的なものである一方で、国家や市場においては、文化資源は様々な政治的、経済的目的において開発され、利用される[山下 2007]。
 また、森山工[2007:82-86]は、植民地マダガスカルにおける文化の資源化を例に、①誰が、②誰の「文化」を、③誰の「文化」として(あるいは誰の「文化」へと)、④誰をめがけて「資源化」するのかという、文化資源における「誰」をめぐる四重の問いによって動的な資源化のプロセスにおいてさまざまな行為者の関係性を論じることができることを示した[森山 2007]。したがって、人類学において、役立つ、または、利用されるものが文化資源になるプロセスを探ることが重要で、その際に、誰の問いによってさまざまな主体の関係を分析することが可能となる。
 資源人類学においては、観光や経済的利用という文脈で資源が論じられることが多く、観光資源や経済的資源としての側面に偏重しているという課題があるように思われる。本稿では、この課題に応える形で、タイ料理、特に世界無形文化遺産への登録プロセス中であるトムヤムクンを中心に、観光や経済以外の視点を含めた資源価値を分析することで、文化資源化の多面的なプロセスを分析する。

3.4タイ料理の研究

 タイ料理は、経営、調理、農業と開発、食習慣などさまざまな分野で研究対象となっており、例えば、市野澤[2015]、宇都宮[2008]、Chakhatrakan[2005]、宇都宮、益本、大澤[2003]の研究がある。
 タイ料理について、文化的、社会的側面からも様々な研究が行われてきた。
 山田均は、『世界の食文化 タイ』でタイ人の食生活、タイ料理の歴史的形成、タイ各地域の料理の特徴、レシピなど広範囲にわたってタイ料理についてまとめている[山田 2003]。
 石毛直道とケネス・ラドルは、タイを含む13カ国でフィールドワークを行い、塩辛・魚醤油、ナレズシなどの魚の発酵食品を手がかりに、東アジアと東南アジアの味覚の深層を探り、世界的視野から水田稲作地帯の食事文化の検討を行った[石毛、ケネス・ラドル 2022]。
 Panu Wongcha-umは、近代のタイ食文化の形成を歴史から分析した[Panu 2010]。本研究は、タイ料理の社会的構築という視点は本稿のテーマに近い。一方で、Panuの研究では、史実からの分析にとどまっているという点で本稿とは異なる。
 また、観光と食文化という視点からもタイ料理は注目を集めている。Food Tourism in Asiaでは、Policy and Sustainability: Behind the Popularity of Thai Food、Kin kao laew reu young (‘Have You Eaten Rice Yet’)?: A New Perspective on Food and Tourism in Thailandの二稿においてタイ料理について触れられている。
 以上のように、タイ料理は、文化的、社会的側面からも研究されてきたが、タイの食そのものについての研究は少なく、食に関わる人間関係、食生活、食と観光といったテーマが多い。本稿では、タイの食そのものに焦点をあて、それがどのように社会的に構築されてきたのかを分析する。

4調査の概要

 タイのナショナリズムとエスニシティ、タイ料理について、先行研究からどのようにタイ料理が造られてきたのかを分析する。タイ料理の中でも、ナショナリズムと関係の深い料理であるパッタイと現在、ユネスコ無形文化遺産申請中のトムヤムクンを中心として分析を行う。
 続いて、タイ料理と政策の関係について、Food Tourism, Policy and Sustainability: Behind the Popularity of Thai Food[Kaewta Muangasame, Erang Park 2019]とKin kao laew reu young (‘Have You Eaten Rice Yet’)?: A New Perspective on Food and Tourism in Thailand[Tracy Berno, Glenn Dentice, and Jutamas Jan Wisansing 2019]を参考に、タイ料理が政策の中でどのように造られてきたかを分析する。
 タイ料理のオーセンティシティについては、バンコクで、聞き取り調査を行った。その結果を元に分析を行う。本調査では、トムヤムクンの写真とトムヤムクンに似た料理の写真(資料参照)を用い、それを被験者に見せ、写真の料理がトムヤムクンかどうかとなぜそうなのか、違うのかを聞いた。また、タイ料理の特徴やトムヤムクンの世界遺産申請やタイ料理に関する聞き取りを行った。資料の質問は全ての被験者に必ず聞いた。さらに、バンコクにあるシーロム・タイ・クッキング・スクールのクッキングコースにも参加し、タイ料理についてレクチャーを受け、実際に調理も行った。
 トムヤムクンの文化資源としての利用については、ユネスコにタイ政府が提出している、ノミネーションドキュメントを元に分析を行う。
 

5 本稿の構成

 第2章では、タイ料理の社会的構築の過程を明らかにする。特に、ナショナリズムとエスニシティ、観光政策に注目する。ナショナリズムとエスニシティの問題は、2022年に始まったロシアのウクライナ侵攻や2023年に始まったパレスチナ・イスラエル戦争をきっかけとして、近年再び注目を集めている話題である。本章では、ナショナリズムとエスニシティとタイの関係をまとめ、それによってタイ料理というカテゴリーがどのように構築されてきたのかを分析する。一方で、経済もタイにとって重要なトピックの一つである。タイ経済の柱は観光で、観光なしにタイ経済を語ることは難しい。タイ政府は、タイの観光活性化のために食を観光に役立てるための政策や取り組みを行ってきた。本章では、観光政策のなかでタイ料理がどのように造られてきたかをまとめる。
 第3章では、トムヤムクンに絞ってタイ料理の特徴を明らかにする。本章では、まず、トムヤムクンの概要をまとめ、タイで行った聞き取り調査の結果とクッキングコースでの参与観察からタイ人のトムヤムクンのオーセンティシティを探る。何がトムヤムクンで何がトムヤムクンでないのかを探ることで、トムヤムクンに必要な要素を明らかにする。
 第4章では、タイのユネスコ無形文化遺産登録に関する動向から、タイが文化をどのように資源として利用しようとしているのかを探り、またトムヤムクンのノミネーションドキュメントからトムヤムクンがどのような資源としての可能性を持っているのかを明らかにする。

Ⅱタイ料理というカテゴリーはどのように創られたのか

1タイ料理の概要

 一般的にタイ料理とはどんな料理なのだろうか?タイ観光庁のウェブサイトでは、タイ料理には多くの種類があり、タイ料理は”辛い”と思われがちであるが、5つの味が組み合わさり、独特の美味しさを作り出していると紹介されている。その5つの味は1.辛味、2.酸味、3.甘み、4.塩味、5.旨味であり、それらはそれぞれ、唐辛子や胡椒、ライムやタマリンド、ココナッツミルクやパームシュガー、ナンプラー[3]や塩、エビ味噌やナンプラーから来る。これらがタイ料理の複雑な味を作り出している。それに加えレモングラス、コブミカン、パクチーなどで香りを添えるのがタイ料理の特徴である。[タイ観光庁 ]
 続いて、山田[2003]が『世界の食文化5 タイ』で記しているタイ料理の形成のながれについてまとめる。資料1の年表を参照しながら読んでいただきたい。歴史上知られているうち最初の食べ物に関する記述は、13世紀末にスコータイ王朝第三代目ラーマカムヘーン王によるスコータイ第一碑文である。そこには、「ラーマカムヘーン王の御代、スコータイのくにやよきかな、田には米あり、水に魚あり」と記されている。ここに記されている米と魚はタイ人の食の原点とも言うべき二つの食材である。1350年から1767年ビルマによって滅亡するまでの約400年間、アユタヤーがインドシナ半島における政治権力、物流の中心地として繁栄した。この時期には、他国との交流を受け新しい食文化が市場や宮殿を通じて持ち込まれ、同時に域内ムアン[4]同士の関係から、現在のタイにつながる地方色が形作られた。現代のタイ料理に欠かすことのできない唐辛子もこの時期(16世紀)に持ち込まれ、それ以前はコショウが使われていたと考えられる。1767年アユタヤーが滅亡し、その後タークシンがトンブリーに王朝を開いた。その後、チャックリーが都城をチャオプラヤー川対岸に移し、そこに王宮を建設し王朝を開いた。この時期に城壁の建設などのための労働力として近隣諸国から多くの労働者が流入し、彼らの食文化が持ち込まれた。19世紀前半には、バンコクには多くの外国人と食文化が存在し、現在のタイ料理とほぼ同じような多様な食卓が実現可能であった。一方で、一般庶民の食事は、米と魚を中心としたスコータイ時代以来それほど変わらない、伝統的な食事であった。ラーマ三世時代に清朝との交易は最盛期を迎え、1855年にボウリング条約が締結され、西洋の商人が本格的に登場した。19世紀には近代化にともなう生活の大変化が起き、食文化についても王族や官僚貴族などの間に強い影響力を与え、タイ料理も少しずつ凝ったものができ始めた。近代化に伴って出現した中国人富裕層は豪華な中華料理レストランを発生させ、その料理がタイ料理の中にも取り入れられていった。食材も現在とほとんどかわらない品揃えとなり、家庭料理、ごちそう、庶民料理がそろうようになった。20世紀後半には、開発と国際化により、バンコクへ地方の人々が労働者として流入し、また、外国人来訪者数も急増した。それに伴って、外国料理店ができるようになり、また、東北タイ料理が普通のタイ人にも受容されるようになっていった。さらに、都市の拡大により、ライフスタイルと食文化は多様になってきている。
 さて、このように一枚岩かに見えるタイ料理であるが、いくつかのカテゴリーに分けることができる。タイ観光庁のウェブサイトでは、タイ料理の地域差として北部、東北部、南部、中央部の料理に分類されている[タイ観光庁 2024]。Panu[2010]は更に細かく北部(ラーンナー)、東北部(イサーン)、東部、南部、中央平野、バンコク、宮廷料理に分類し、「タイ」料理において食の形式の形成は中部タイ文化が支配的な状況から生じ、貴族のエリートたちによって主導されたと主張する。このタイ料理の形成においては、タイ人の定住の社会的動向と1767年アユタヤ陥落に続く、シャムの政治、文化の中心としてのバンコクの台頭が重要な役割を果たしたという[Panu 2010] 。以下では、タイ料理というカテゴリーがどのようにして構築されてきたのかを特にタイナショナリズムに注目して見ていきたい。タイ料理のタイは国としてのタイであり、国民国家としてのタイが重要であるためである。

2タイナショナリズムとタイ料理

2.1タイナショナリズムとエスニシティ

 タイ料理の話に入る前に、タイのナショナリズムとエスニシティについてまとめておきたい。
 タイの国民がいつ形成されたのかについては、比較史的な類推により、近代国家とともに国民国家が成立した、つまり国民が形成されたと考える立場とナショナリズムがネーションを生み出すという観点からナショナリズムの登場に着目する立場がある[玉田 1996]。トンチャイ[2003]は、様々な国境がはっきりしない国々が銀河系的に存在する東南アジアにおいて、国家の領域が確定され、地図に示されたことが国民形成において重要な役割を果たしたという。タイでナショナリズムの父とみなされるラーマ六世は、タイ的原理として「チャート(ネーション)、宗教、国王」への忠誠を主張した[玉田 1996]。これは、1916年にラーマ六世が制定し、1936年に些細な改正されて以降現在まで使用されるタイの国旗においても反映されており、赤は国家と国民の統合、白は精神を浄化する宗教、青は国の代表としての王を意味している[Sawasdee Thailand. 2024.]。また、1932年のクーデターによって政権を握ったピブーンは、文化政策を行ってタイの統合を目指したタイのナショナリズムと関係の深い人物であり、この時期にパッタイが誕生している。
 エスニシティとナショナリズムの関係について、第一次世界大戦以前には、ヨーロッパにおいて、すべての民族がそれ自身の国家をもつべきであるという考えがあった一方で、第二次世界大戦後の振興独立国の多くは、多数派の民族が中心になって国家内の少数民族を吸収し、一つのネーション(民族)になることを試み、少数民族の要求は無視される傾向が強かった[綾部 1993]。タイは、後者であり、タイにおいても、ナショナリズムによる国家統合の過程で、少数民族は無視され、多数派の民族のエスニシティを中心としてタイ文化が形成されてきたと考えられる。第二次世界大戦後の近代国家をめざした国々において近年では、多文化主義の傾向が見られ、これらは①国の統合を図るために採用する国内の主流民族文化への少数民族文化の同化(assimilation)政策②より民主的な融合(amalgamation)政策への転換③国の基礎が確立した段階で同化や融合が必ずしも進んでいない状況が存在④マイノリティの権利を同等に認める思想が強化されてくる⑤文化多元主義、多文化主義が台頭という流れで生じているという[綾部 1939]。「タイ料理」における地域性やバラエティーについてこの多文化主義という視点から説明したい。
 

2.2ナショナリズムによって創られた「タイ料理」

 ナショナリズムと関係のあるタイ料理といえば、ピブーン政権時にタイ料理として創られたパッタイである。パッタイは、ピブーン政権下において半ば強引にもともと中国の料理であった麺をタイ化することによってタイ料理として創られた。これを初期の「タイ料理」の形成として、Pad Thai as a Symbol of Nationalism in Thailandをもとに見ていきたい。
 1932年6月24日ピブーンはクーデターを先導し、首相に就任した。当時近隣諸国がヨーロッパ権力によって植民地化されていく中、タイは国家として、十分近代化されていることを示さなければならなかった。そのような状況下で、政府は、ナショナリズム、権力と統一、優れたタイ文化の建立のもと、国家建立制度を導入した。ピブーンは1939年から1942年にかけて、タイ文化の強化を目的とした12の国家布告(ラッタニヨム)を発布した。この布告は以下のようなものである。
 

  1. 国、人々、ナショナリティはタイと呼ぶ
    「シャム」という名が自由を意味する「タイ」に変わる。

  2. 海外からの干渉を防ぐ。規制、ビジネス、食を通して「タイらしさ」を強調する。

  3. タイ人を地域別に呼ぶことを控えるように促す。分裂を防ぐため、すべてのタイ人に対して「タイ」という名称を使う。

  4. 国旗を尊重し、国歌に敬礼する。もしも国旗、国歌、王歌を尊重しない人を見かけた場合、その重要性を理解させるために注意を促すこと。

  5. タイ産の地元製品を消費し、タイ産の農産物を栽培する。タイ料理の台頭とパッタイにつながる

  6. タイ国歌。国歌の歌詞は軍が提出したものとする。

  7. タイ人は安定した職業を持つことによって、国の建設に貢献すること。職業を持たない者は尊敬に値しないことを示す。これは、近代化された国家には勤勉な市民が必要であるという信念と関連している。

  8. 1940年の王歌において、新しい国の名前を反映するため「シャム」という言葉を「タイ」という言葉に置き換える

  9. タイ語を話し、敬意を示す。市民の義務としてタイ語を読み書きできるようにし、他の人々にもそうするよう促す。

  10. タイ人は自分の地位に応じて適切な服装をすること。

  11. 全てのタイ人の標準的な日常活動。時間を仕事、個人的な活動、休息・睡眠の3つに分ける。1日に食事は4回以内、睡眠時間は6〜9時間とし、仕事や義務を忠実に遂行する。昼休みは1時間を超えないこと。1日の終わりには、最低でも1時間のスポーツや身体活動を行い、シャワー後に夕食をとる。

  12. 子ども、老人、障害者をたすけること。公共の場所や道路で。この規範に従う者は文化的な人とみなされる。
     
    また、ピブーン政権は、外国勢力の侵入を恐れ、中国系のベンダーや商品、中国語の使用を禁止した。一方で、第二次世界大戦後中の経済不安定化や1942年の大規模洪水により、食料不足に直面したタイ政府は、より少ない量の米で生産できる米粉麺を推奨した。しかし、当時、麺は中国のものと考えられていたため、政府は、これが布告に反しないようタイ化する必要があった。そこで、政府は、食品産業、農業の主要な生産者をタイ人に入れ替え、また、タイ国産の食材を使わせることで、麺料理のタイ化を推進した。そうしてパットベップタイ(Pad Baeb Thai=タイ風炒め)と呼ばれる調理法が誕生した。これが、のちほど短縮されパッタイ(Pad Thai=タイ炒め)と呼ばれるようになった。パッタイの誕生において大きな役割を果たしたのがラッタニヨム第5「タイ産の地元製品を消費し、タイ産の農産物を栽培すること」であった。例えば、パッタイをつくるのに当時中国の肉とみなされていた豚肉の代わりにタイバナナの花「フア・プリー(Hua Plee)[5]」が、また、当時政府が推奨したもやしが使用されている[Eve 2020]。また、岩間一弘[2021:287-280]も、ラッタニヨム第5号に影響を受けて使用する材料をタイの食材に代替することで中国料理の名残を消し、タイ政府のタイ文化の領域から中国を排除する努力によって、完全なタイ料理として本料理の名のパッタイへの変更が行われたという視点を示している。以上から、パッタイの誕生時において重要となった点は、「タイ人が作ること」と「タイの食材を使うこと」である。この二点は、タイ的原理の一つである「国民(国家)」の強調であり、この中でパッタイがナショナリズムに基づく政策によって「タイ料理」として構築された。岩間[2021]が、タイの中国の影響を受けた他の料理を紹介しつつも、「注意すべきなのは、このようにクェイティアオ[6]を使った麺料理が数多くあるなかで、パッタイだけが、タイ料理を代表する国民食となって、その他は、タイ式の中国料理とされている点である[岩間[2021: 280-282]]」と指摘していることは、パッタイがタイ料理として構築されたものであることの裏付けとなりうる。しかし、パッタイの誕生期には、コメ不足などの経済状況も反映されていることには留意する必要がある。
     一方で、近年タイ料理としてもっともよく知られている料理は、トムヤムクンなのではないだろうか?タイ文化省文化振興局(Department of Cultural Promotion ,Ministory of Culutural of Thailand)が発行するTomyum Kung: Tastiness from Cuisine to CultureとトムヤムクンのUNESCO世界無形文化遺産申請のノミネーションフォームを参照してトムヤムクンの語りを例に、タイのナショナリズムの要素がどのようにトムヤムクンをタイ料理として構築しているのか見ていきたい。なお、トムヤムクンの材料の詳細やトムヤムクンそのものについては、次章で記載するため、本章では詳述しない。
    トムヤムクン年表
    Department of Cultural Promotion ,Ministory of Culutural of Thailand. 2022. Tomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Culture, กรมส่งเสริมวัฒนธรรม กระทรวงวัฒนรรม. 2022. ต้มยำกุ้ง: ความอร่อยจากสำรับถึงวัฒนธรรม, UNESCO. 2024. Tomyum Kung. https://ich.unesco.org/en/RL/tomyum-kung-01879より作成
    1569
    首都が初めて陥落。スペイン人とポストガル人が何種類かの唐辛子をインドや東南アジアとシャムを含む近隣諸国に移植するために持ち込む。
    1782 – 1824
    白米ともち米がタイ料理の主な構成要素であり、チリペーストやカレーと一緒に食べられていた。
    1809 – 1824
    ラマ王2世の治世、食べ物がさまざまな台本や文学に引用される。「トムヤム(ต้มยำ)」という言葉がタイの叙情詩、クンチャーン・クンペーン(ขุนช้างขุนแผน)、プラアパイマニー(พระอภัยมณี) に登場する。「ゲーントムヤム(แกงต้มยำ)」という言葉が、ラマ2世の治世に執筆された、ラーマキエン(รามเกียรติ์)のラーマ王の結婚式のシーンで登場する。
    1854
    Jean-Baptiste Pakkegoix牧師が彼の著書Description du Royaume Thai ou Siamの中で、「巨大な淡水エビ…川に豊富で市民によって定期的に食べられていた…」と記す。
    1898
    「ムヤムクンソンクルアン(ต้มยำกุ้งทรงเครื่อง)」と「トムクンガップヘッドコーン (ต้มกุ้งกับเห็ดโคน)」のレシピ が”タムラーパターヌックロム ガーンタムコンカーオコンワーン(ตำราปะทานุกรม การทำของคาวของหวาน)”という本で登場する。
    1908
    「ゲーンノックモー(แกงนอกหม้อ)」と「トムヤムクメーン(ต้มยำเขมร)」のレシピがパーサコンラウォン妃(ท่านผู้หญิงเปลี่ยน ภาสกรวงศ์)
    によって書かれた料理本、『メークルワフワパー(แม่ครัวหัวป่าก์)』で登場する。
    1962
    キティナダキティヤコン(ม.ร.ว. กิตินัดดา กิติยากร)が「トムヤムクン」を陛下プミポン国王(มหาภูมิพลอดุลยเดชมหาราช)と女王陛下シリキット女王(สมเด็จพระบางเจ้าสิริกิตติมศักดิ์)、太后と4人の子どもたちにつくる。
    1964
    「トムヤムクン(ต้มกุ้ง)」という名前が前枢密院秘書のキティナダキティヤコン(ม.ร.ว. กิตินัดดา กิติยากร)の『 コンサウーイ(ของเสวย)』という本に公式に記される。
    1997
    「トムヤムクン」という言葉が本年の経済危機を「トムヤムクン危機」と呼ぶのに使われる。
    2005
    映画「トムヤムクン」がタイやその他の世界の多くの国で公開され、2700万ドル売上げる。2013年、続編が公開される。
    2011
    トムヤムクンが自然と社会を考慮した知識と実践の領域の元、食と消費カテゴリーで国の文化遺産に登録される。
    2020
    CNN travel webサイトがトムヤムクンを2020年世界で8番目に美味しい食べ物として挙げる。
    2022
    文化振興局、文化振興及び無形文化遺産保護委員会(Department of Cultural Promotion, Board of Cultural Promotion and Preservation of Intangible Cultural Heritage)は、トムヤムクンをユネスコの「人類の無形文化遺産」代表リストへの登録のため、内閣の承認を求めてノミネーションしている。
    2024
    トムヤムクンが世界無形文化遺産に登録される。

 トムヤムクン年表は、タイの文化推進局が公開しているTomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Cultureをもとに作成したものであるが、1964年のコンサウーイへの公式なトムヤムクンの記載以前のものについては、ほとんどが著作や人物との関連で登場している。特に、王室やその関係者が意識的に記述されているように思われる。年表内で登場する『ラーマキエン』は、ヴァールミーキによるインドの抒情詩『ラーマヤナ[7]』のタイ語訳で、ラタナコーシン王朝の初代王ラーマ一世とその挺身によって書かれた。原典である『ラーマヤナ』はインド文化が東南アジア地域にもたらされた西暦初頭に各地に広まった。『ラーマキエン』はタイの文化、風習を反映し、タイ王室にまつわる神話のような様相を呈している一方で、タイ国王になぞらえた主人公ラーマをヴィシュヌ神の生まれ変わりとして扱うなど、ヒンドゥー教信仰に端を発する要素を合わせ持つという特徴を持っている[加瀬 2000]。1908年に出版された『メークルアフアパー』の著者であるタンプーイン・プリアン・パサコラウォンは、ラーマ三世の治世からラーマ五世の時代に生き、チャオ・プラヤー・パサコラウォンと結婚した。チャオ・プラヤー・パサコラウォンは、ラーマ五世の治世の高官で初代文部科学大臣である。著書名『メークルアフアパー』は、メークルア=女性コックとフアパー=調理する人という言葉からなる。『メークルアフアパー』は、もともと月刊誌の料理コラムであったが、本月刊誌の終了後、プリアン妃は、結婚記念式のゲストに土産として400冊の料理本を出版し、それが人気を集めたことから、彼女はそれを最終筆し、『メークルアフアパー』という名前のもと出版した。この本はタイで初めて出版された料理本である[Soonyata 2022]。ちなみに、その前に出てくる『タムラーパタナコーン: ガーンタムコンカオコンワン』は最初のタイの料理の教科書で、クーンサットタリーワンラン校(โรงเรียนกูลสัตรีวังหลัง)の女生徒によって翻訳、編集され、1898年にアメリカ人宣教師たちの印刷所で発行された[Lss 2024]。続いて、キティナダキティヤコン氏がトムヤムクンをつくった陛下プミポンアドゥンヤデート王とは、日本ではプミポン王として知られるラーマ九世である。1964年に出版された『コンサウーイ』の著者でもある彼は、女王の近親者で、当書籍出版時、枢密院秘書であった。彼は、タイ、西洋、中国の料理を作るのが上手なシェフでもあり、プミポン王が他県を訪れる際、調理を任されていた。『コンサウーイ』ではプミポン王が好きな料理について記されている[pkw 2017]。このようにして、トムヤムクンは王室との関連付けによって権威付けされている。
 タイ的原理の残りの二つである「宗教」と「国民(国家)」はどのようにトムヤムクンに関連しているのだろうか?タイの場合宗教は仏教である。UNESCOのトムヤムクンのノミネーションドキュメントでは、「「トムヤムクン」はタイ中央平野の川沿いコミュニティの食の知恵である。その地域は、何世紀もの間、国の食品の主要な生産地域であった豊かな地域である。これらのコミュニティは農業を営む仏教徒のコミュニティで大きな動物を殺すことを避け、もともと豊富なエビを好んだ。このエビは流血なく調理される。ー(以下省略)ー [UNESCO 2024]」という記述が見られ、仏教的要素からもトムヤムクンがタイの文化として強調されている。また、「それは、国全体や世界で人気になる前、よりローカルなレシピからスタートし、実戦され、口頭で家族を通して世代ごとに受け継がれてきた[UNESCO 2024]。」としてタイ国民によってトムヤムクンが受け継がれてきたことやタイハーブの利用についても記載されている[UNESCO 2024]。トムヤムクンは、仏教と国民(国家)との関連によってさらに「タイ料理」らしい料理になっている。
 このようにして構築されてきた「タイ料理」であるが、近年では、イサーン料理[8]、南部料理、北部料理といったようにそのなかでさらに小カテゴリーに分けられる。これは、Panu[2010]のタイ料理の形成においては、タイ人の定住の社会的動向と1767年アユタヤ陥落に続く、シャムの政治、文化の中心としてのバンコクの台頭が重要な役割を果たしたという主張や、上記で記してきたパッタイやトムヤムクンの「タイ料理」としての構築とは異なるように思われる。このタイ料理のバラエティを理解するためには、綾部 [1939]の第二次世界大戦後の近代国家をめざした国々において近年見られる多文化主義の傾向が有効であると思われる。
①国の統合を図るために採用する国内の主流民族文化への少数民族文化の同化(assimilation)政策②より民主的な融合(amalgamation)政策への転換③国の基礎が確立した段階で同化や融合が必ずしも進んでいない状況が存在④マイノリティの権利を同等に認める思想が強化されてくる⑤文化多元主義、多文化主義が台頭の段階があるわけであるが、パッタイが誕生した時期は、①の段階であると思われるが、その後、国の基礎が確立し、現在、タイは、④⑤のフェーズにある。タイの地方料理の分類に使われる地域は、現在のタイの国境が確定する前から、イサーンはラーオ系、南部はマレー系、北部では、山地の少数民族といったように、バンコクにおいて多数派であるタイ族とは異なる民族集団(エスニックグループ)が多く分布するという特徴がある。したがって、パッタイ誕生期のタイ人としての一つの規範を目指す動きから多様性をある程度認める段階へのシフトが「タイ料理」のサブカテゴリーとして現れていると考えることができそうである。ハードなナショナリズムによって、「タイ料理」が構築され、ソフトなナショナリズムによって「タイ地方料理」が構築されたのである。

 

3観光政策とタイ料理

Tracy Berno, Glenn Dentice, and Jutamas Jan Wisansing. 2019. Chapter 2: Kin kao laew reu young (‘Have You Eaten Rice Yet’)?: A New Perspective on Food and Tourism in Thailand. Kaewta Muangasame and Eerang Park. 2019 Food Tourism, Policy and Sustainability: Behind the Popularity of Thai Food.より作成
1990年代
タイ政府とタイ観光庁がタイ料理を強調した観光キャンペーンを開始。
1994
「アメージングタイランド (Amazing Thailand)」マーケティングキャンペーンがタイで初めてタイ料理の認識を上昇させることに成功。
2000
タイ政府が、食産業のグルーバル化戦略と農業発展を超えて、SEP(Sufficiency Economy Philosophy)の原則に基づくタイ料理のグローバル化の基礎を確立し始めた。
2002
「タイキッチンを世界へ(Thai Kitchen to the World)」の取り組みを実施。この取り組みを通してタイは「ガストロデプローマシー(gastrodiplomacy)」(その国の料理を対外的に推進する国主導の政策)の取り組みをはじめて行った国として評価されている。
2003
タイ政府は、持続可能な観光に焦点を当て、Designed Areas for Sustainable Tourism Administration (DASTA)と呼ばれる新しい公共団体を、首相府のもとに設立する。DASTAはアジェンダ21の実現を目指して持続可能な観光の発展を促進するために、地方自治体機関やコミュニティと協働することを目標としていた。
2005
労働省傘下の技能開発局で、タイ人シェフが海外のタイ料理店で働くためのトレーニングプログラムを開始する。本年以降、タイ料理の高い調理基準とタイのオーセンティックな味を保証するため、タイのオーセンティックな味、材料の知識、食の衛生と安全性、メニュー作成の強調と共にトレーニングプログラムとタイ料理カリキュラムが発展した。
2006
タイ・セレクト(Thai Select)プログラムが開始される。
2012
タイ政府の国家経済、社会開発計画が開始された、食品安全性について強調した。
2014
DASTAがガストロノミーツーリズムの促進を開始。TATが、特にガストロノミーツーリズムに焦点をあて、食に関連する地域体験を促進するためのマーケティング戦略を開始。政府が、タイキッチンを世界へ(Kitchen to the World)政策によってイノベーションを推奨することで食品サプライチェーンを発展させることを持続的にサポートするための4つの戦略を掲げた。
2015
タイ政府は、『タイらしさ発見』キャンペーンを開始。タイのガストロデプローマシー(gastrodiplomacy)の原則に基づいてさらに発展させ続ける。
2016
タイ料理をタイのユニークな7要素の一つとして推進するため「Amazing Thai
Taste」キャンペーン開始。パッタイ、トムヤムクン、グリーンカレー、ソムタム、マッサマン、トムカーガイの6料理が強調される。
2017
世界中に20000以上のタイ料理店が存在する。タイがCNN Travelでストリートフード世界最高の場所として報じられた。
2017‐2021
コミュニティベースツーリズムに伴って”村人から地元の生活を学ぶ”機会として強調されてきた地域の料理体験が観光スポーツ省の第二次国家観光開発計画で強化された。
2018
TAT(タイ国政府観光庁)のステレオタイプ化されたタイ料理の受動的な消費を超えることを強調するためのマーケティングキャンペーンの主要な要素の一つとして「アメージングガストロノミー(Amazing
Gastronomy)」がある。
 
 タイにとって経済成長は重要な問題である。その中でもタイ経済の柱は観光であり、タイでは観光を促進するための施策が国をあげて行われてきた。それらの施策の中でもタイ料理が経済、観光促進のために積極的にアピールされてきた。Tracy, Dentice, Wisansing [2019]によると、アジアの国々は長年、地域の文化を消費し、味合うことに旅行者を誘うことで、料理を観光地としての差別化と促進に利用してきたが、その中でもタイは、国の料理のプロモーションにおいて得に成功している国であるという。つまり、ある複数の料理がタイ料理として政府によって認定され、促進されてきたのである。ここでは、特に、2002年の「タイキッチンを世界へ(Thai Kitchen to the World)」の取り組み、2015年の「タイらしさ発見(Discover Thainess)キャンペーン」、2017年から2021年の「第二次国家観光開発計画(Second National Tourism Development Plan)」に注目して政策によってどのような料理がタイ料理として構築されてきたのかを明らかにする。
 タイにおいては、1990年代からタイ政府とタイ観光庁がタイ料理を強調した観光キャンペーンを行ってきた[Tracy , Dentice, Wisansing 2019]。1994年には、タイ政府がアメージングタイランド (Amazing Thailand)」という、タイ料理を強調した観光マーケティングキャンペーンを開始し、成功を収めたが、それらのキャンペーンはタイ料理を一貫して促進するというよりは、タイの無形観光の催しの一つとして促進したに過ぎなかった[Suntikul 2020]。
 2002年に開始された「タイキッチンを世界へ(Thai Kitchen to the World)」キャンペーンは、タイがガストロデプローマシー(Gastrodiplomacy)[9]としてのクレジットを獲得することとなったキャンペーンで、観光に特化したキャンペーンではないが、分野を超えた統合的なキャンペーンであった[Tracy, Dentice, Wisansing 2019: 21]。本キャンペーンは、タイ政府によって、タイ料理を世界に促進することとタイをタイの食品の先進的輸出国として位置づけることを目的に行われ、それに加えて、このイニシアチブは、海外のタイ料理店の設立をサポートした[Ministory of Foreign Affairs of the Kingdom of Thailand 2024]。本キャンペーンの中でタイ料理にとって特に重要であると思われるのが、タイセレクト(Thai Select)認証プログラムである。この認証プログラムでは、品質水準の導入とタイからの輸入材料の使用促進が行われ、タイセレクトの認証を受けるために、レストランは、決められたオーセンティックなタイの作法で、特定のタイ料理を促進、提供しなければならず、スタッフの服装や内装、伝統的なタイ文化を強調する雰囲気などについてもガイドラインに従うことが要求される。[Tracy, Dentice, Wisansing 2019: 21]。また、タイセレクトの「Thai Select」ロゴ申請ページでは、タイ国内外のタイ料理店に対して、全メニューのなかで60%以上はタイ料理であること、6ヶ月以上開店していること、タイ人、もしくは2年以上の経験またはタイ料理トレーニング認証を保持するタイ以外の国籍のシェフがいることなどが挙げられている[Thai Select 2024]。本キャンペーンにおいても、パッタイの誕生時に重要視されていたタイの食材をつかって、タイ人が作ることが認証の条件として挙げられており、タイ料理というカテゴリーが、政策によって後押しされるかたちになっている。「本キャンペーンの成功は、パッタイとトムヤムをアメリカにとってのハンバーガーのような、タイにとって馴染みのある象徴にした[Tracy, Berno, Dentice, Wisansing 2019: 21 (Booth 2010: 8)]。」という記述があるが、現在タイ料理としてよく知られるパッタイとトムヤムクンの知名度にはこの政策が関わっている。一方で、Tracy, Berno, Dentice, Wisansing[2019: 21]によると、タイセレクトプログラムは、タイアイデンティティのトップダウン的な考えだとする批判もあるという。
 「タイキッチンを世界へ (Thai Kitchen to the World)」の成功からタイ政府はタイのガストロデプローマシー(gastrodiplomacy)としての理念を築くべくタイらしさ発見(Discover Thainess)キャンペーンを開始した。本キャンペーンでは、タイらしさ(Thainess)とは何かという定義づけとタイらしさ(Thainess)の重要な要素の観光への統合に焦点が当てられ、2016年に、その一環としてタイ料理をタイらしさ(Thainess)の7つのユニークな要素の一つとして促進するため、アメージングタイテイスト(Amazing Thai Taste)キャンペーンが行われた。本キャンペーンでは、特に、パッタイ、トムヤムクン、グリーンカレー、ソムタム[10]、マッサマン[11]、トムカーガイ[12]の6つのタイ料理が強調された。この6つの料理は、タイ内外のタイ料理店のメニューで一般的に見られるもので、タイセレクト(Thai Select)政策の29の料理の中に含まれており、旅行者の多くはすでにそれらの料理を知っていた[Tracy, Berno, Dentice, Wisansing 2019: 22]。ここでは、タイセレクト(Thai Select)において様々な条件によって形作られた「質の高いタイ料理」がさらに、タイらしさ(Thainess)の規定によって明確化され、タイ料理代表の料理が6つに絞られた事がわかる。
 コミュニティツーリズムの強調によって地域の料理体験が村人の生活を学ぶ機会として強調され、これは、2017年から2021年の第二次国家観光開発計画(Second National Tourism Development Plan)で補強された。本計画では、ガストロノミーツーリズム[13]を強調し、地域の料理に焦点を当てることでフードツーリズム[14]がさらに発展するとして、地域の料理に地域のオーセンティックなタイらしさ(Thainess)としてユニークな価値を見出した[Tracy, Berno, Dentice, Wisansing 2019: 22]。これは、ナショナリズムとエスニシティでも扱った多元主義とも関連付けて考えるとするならば、タイというひとつの国でありながらも、エスニシティを地域差としてある程度許容し、タイ料理とする動きとみることができるのではないだろうか。
 以上のように、ナショナリズムによって創られたタイ料理というカテゴリーは、経済発展のための観光政策によって外にむけたタイらしさという観点の形成とともに、トップダウン的に構築されてきた。

Ⅲトムヤムクンのオーセンティシティ

1トムヤムクンとは?

 前章では、タイ料理というカテゴリーがトップダウン的な形で構築されてきたことを見た。本章では、タイ料理のなかでも特に代表的な料理であるトムヤムクンに注目してタイ人自身による自らの料理に対する正当性を見ていきたい。まず、トムヤムクンの概要を抑えておきたい。
 トムヤムクンという名は約70年前まであまり知られていなかった。そして、それが今日私たちにとって馴染のあるトムヤムクンになってからもその起源についての記録は記されていない。ラーマ5世の治世に執筆と印刷が普及し、様々な出典からトムヤムクンのレシピの記述が行われた。例えば、Calendar and Journal R.S紙のトムヤムプラーや『タムラーパターヌックロム ガーンタムコンカーオコンワーン』のトムクンガップヘッドコン、『メークルワフワパー』のケーンノックモーやトムヤムクメーンなどがある。今日私達がトムヤムクンとして知る料理はおそらくラーマ5世の治世において楽しまれていた料理に似ているものである[Department of Cultural Promotion: 9]。
 今日、2種類のトムヤムクンがある。一つは、ココナッツミルクを使わずに作られる透明スープのトムヤムクン(トムヤムクンナムサーイ)、もう一つは、ココナッツミルク(もしくは牛乳)を入れるクリーミーなスープのトムヤムクン(トムヤムクンナムコム)である。調味料や材料は個人の好みによって様々である。トムヤムクンは、口当たりがよく、アジアンハーブのアロマが際立ち、栄養価が高い、外国人から最も人気のタイ料理の一つで、何度も世界で最も有名な料理として挙げられている。また、トムヤムクンは、国の文化遺産として2011年に登録され、2021年にはトムヤムクンをUNESCOの無形文化遺産の代表リストへの登録にノミネーションするため内閣府からの承認が要求された[Department of Cultural Promotion: 11]。そして、2024年にUNESCO無形文化遺産に登録された[UNESCO 2024]。
 「トムヤムクン」という語は、3つの語をつなげて新しい意味を形成している。「トム」は、水をハーブと茹でる調理プロセスを指し、「クン(=エビ)」を入れ、タイのスパイシーなサラダである「ヤム」を作るときのように、料理をライム果汁、ナンプラー、唐辛子で風味づけする[Department of Cultural Promotion: 12]。また、タイでは、スープの種類としてトムヤムがあり、鳥肉を入れたトムヤムガイ、海鮮類を入れたトムヤムタレー、トムヤムスープの麺、クァイティオトムヤムなどがある。
 トムヤムのチリペーストで有名なメーカーのチュアハセン(Chua Hah Seng)のページでは、トムヤムクンの材料と作り方について以下のように紹介されている。
材料:
●      川エビ4尾
●      スライスしたフクロタケ100g
●      鶏ガラスープ4カップ
●      スライスしたガランガル5枚
●      短くカットしたレモングラス3個
●      スライスしたパクチーの根2個
●      小さく裂いたコブミカンの葉5枚
●      軽く潰したバードアイチリ20g
●      ライム果汁大さじ3杯
●      コンデンスドミルク大さじ5杯
●      チュアハセン(Chua Hah Seng)のチリペースト大さじ2杯
●      揚げた乾燥バードアイチリと飾り付け用のパクチー
作り方:

  1. 鶏ガラスープを入れ、沸騰するまで中火で茹でる。

  2. チュアハセン(Chua Hah Seng)のチリペーストを入れて、馴染むまで混ぜ、その後ナムプラーを入れる。

  3. スープが沸騰したら、エビとミルクをいれて、沸騰するまで茹でる。

  4. フクロタケと残りの全ての材料を入れ、全体が均一に馴染むまで混ぜ、火を弱める。

  5. ライム果汁とチュアハセン(Chua Hah Seng)のチリペーストで味を整える。

  6. 揚げた乾燥バードアイチリと飾りつけ用のパクチーをトッピングする[Chua Han Seng. 2024]。

 

2タイ人のトムヤムクンに対する認識

 では、タイ人にとってのオーセンティックなトムヤムクンとは何なのだろうか?トムヤムクンのオーセンティシティを明らかにするため、実際にタイ人に聞き取り調査を行った。また、現地での料理クラスへの参加、Tomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Cultureのタイ人のトムヤムクンについてのエピソードが紹介されているページからの情報を加え、トムヤムクンのオーセンティシティを探る。聞き取り調査の具体的な回答については資料5を参照していただきたい。
 まず、トムヤムクンに何の食材を入れて何を入れないのかというのは重要である。聞き取り調査のなかで、トムヤムクンでないものとして指摘があった写真は以下の8つである。

主な指摘内容としては、主に①入れなければならない材料が入っていない②普通は入れないものが入っている③スープが異なることであった。
 ①の入れなければならないのに入っていないものとしては、エビ、コブミカンの葉、チリペーストが挙げられた。トムヤムクンの名前にもある通り、クン=エビはトムヤムクンにとって、必須である。また、コブミカンの葉は、タイ料理においてハーブの一種として利用され、トムヤムクンの風味はコブミカンの葉からきている。チリペーストも重要で、トムヤムのスープをつくるためにはチリペーストが必要である。また、シーロム・タイ・クッキング・スクールのコース(2024)の中では、トムヤムクンに必ず入れなければならないものはガランガル、コブミカンの葉、レモングラスで、他の具材は何を入れてもいいという説明がされていた[Si Lom Cooking School. 2024年9月16日参照]。したがって、タイ人がトムヤムクンに入れなければならないと認識しているものは、エビ、チリペースト、コブミカンの葉、レモングラス、ガランガルである。
 ②の普通は入れないものとしては、玉ねぎ、青ネギ、ライム、一部のきのこ、ブロッコリー、卵が挙げられた。シーロム・タイ・クッキング・スクールで必ず入れなければならないもの以外はなにをいれてもいいという説明がある一方で、オーセンティックなトムヤムクンには入れないものもあるようである。トムヤムクンには、きのこを入れるのだが、入れるきのこと入れないきのこがあるという事がわかった。また、ブロッコリーなどの一部の野菜もトムヤムクンには入れないという。そのように、はっきりと入れない野菜がある一方で、青ネギとトマトについては意見が別れた。コラートの友人によると、トマトは酸味のために入れ、特に透明なスープのトムヤムナムサーイに入れ、イサーンでは、エビではなく鶏肉を入れることが多いという。また、トマトはソムタムにつかうようなものが市場で簡単に手に入るという。一方で、バンコク出身のタイ人の友人は、普通中部地域では、トムヤムクンにはトマトは入れず、そもそもトマトはタイの野菜ではなく海外から入ってきたものであるという。そこで、タイで最初の料理本と言われるメークルアフアパーのトムヤムクメールのページを参照すると、トマトという記述は見られない[ท่านผู้หญิง เปลี่ยนภาสกรวงศ์. 2014:137.]。また、上記で紹介したChua Han Sengのレシピにおいてもトマトは材料として記載されていない[Chua Han Seng 2024]。さらに、本調査中に訪れたタイ料理店のトムヤムクンは以下の写真のようであり、トマトやネギは入っていないことが確認できる。したがって、もともとトマトは入れないのがもともとのレシピであったと考えて問題ないと思われる。一方で、調査で参加したタイ料理教室を開催しているシーロム・タイ・クッキング・スクールのレシピでは、トマトが材料に記載してある。これはなぜだろうか?本スクールでのタイ料理教室の参加者はほとんどが外国人であり、彼らの好みに合わせてトマトを入れている可能性がある。また、イサーンの場合は、ソムタムなど他の料理でもともと使っていた野菜をトムヤムクンにも入れ始め、それがオーセンティックとして受け入れられていったのかもしれない。この現象は、ある時点では、一般的に人為的でオーセンティックでないものとして扱われていたものが、時間の経過と共に一般にオーセンティックなものとして認識されるようになる台頭するオーセンティシティ[Cohen. 1988:373-374]であると考えられている。つまり、オーセンティシティも社会的に構築されているのである。また、シーロム・タイ・クッキング・スクールは、TATのサイトでも紹介されているスクール[TAT 2024] であり、ある程度の権威性があるといえる。台頭するオーセンティシティは、このような権威性との結びつきによってさらに、オーセンティックなものとして受容されていくのである。

 ③スープの種類についても何人かのタイ人が、指摘をしている。トムヤムのスープをつくる際には、チリペーストを入れる必要があり、それが入っていないと別のスープになるようである。チリペーストを入れると、油がスープの表面に浮いてくるため、入れているかいないかがわかるという。また、スープの量についても指摘があり、トムヤムクンはスープ料理として認識されているということが明らかになった。また、トムヤムクンのスープについても、UNESCO無形文化遺産へのノミネーションフォームにおいては、トムヤムクンにはナムコムとナムサーイの二種類があると記載されている[UNESCO 2024]が、調査では、ナムサーイのほうがオリジナルであるという声が聞かれた。Tomyum Kung Tastiness from Cuisine to Cultreにおいても、関係者によるコメントの中でM.L. Parsan Svasti氏のコメントにおいて「私が若かった頃、トムヤムクンのスープは透明だった[Department of Cultural Promotion. 2022]。」という記述が見られる。このように、スープにココナッツミルクや牛乳を入れたナムコムという台頭してきたオーセンティシティがトムヤムクンのスープの一種として受容されるようになり、さらには、オーセンティックなトムヤムクンとしてUNESCO無形文化遺産にまでなっているのである。
 

3トムヤムクンのタイらしさ

 前章では、ナショナリズムや政策の観点から、トムヤムクンが「タイ料理」として構築されてきた様子を分析したが、もっとミクロな一般のタイ人という視点からみた場合トムヤムクンのどのような点がタイらしいのかをオーセンティシティの調査との関連で考えてみたい。
 まず、一点目は、多くのタイハーブをつかっていることが挙げられる。聞き取り調査の中では、タイ料理の特徴として香り豊か(กลมกล่อม)という表現がよく聞かれたが、これらはタイハーブからくるものである。Tomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Cultureでは、「トムヤムクンにおいては、レモングラス、ガランガル、コブミカンの葉、唐辛子がタイのハーブとして使われている。また、タイのハーブは、「循環を促進し、体の調和を図り、消化を助け、便秘や消化不良を和らげ、また、腸内ガスを軽減する効果があり、トムヤムクンは季節の移り変わり、特に冬が始まろうとする雨季の終わりの時期に食べるのに最適である[Department of Cultural Promotion: 15. 2022]」という記述があり、タイ料理で使われるハーブは、香りを引き立て、食欲を促進するだけでなく、身体の循環に影響を与える重要な役割をしている。さらに、調査では、タイ以外の近隣諸国の料理を食べたことのあるタイ人から「マレー料理は脂っこい」というような回答を得たが、実際には、タイ料理でもかなり多くの油を使っている。ここで、油っこさを感じさせないようにしているのは、ハーブの役割なのかもしれない。特にトムヤムクンのようなタイのスープ料理では、実際には食べない、香りのためだけに入れられる材料(ハーブ)があり、これはタイ料理の特徴の一つと言えそうである。
 二点目は、「タイの食材」を使っている点である。山田[2003]は、「タイにおいて歴史上知られているうち最初の食べ物に関する記述は、スコータイ王朝第三代目ラーマカムヘーン王によるスコータイ第一碑文にある「ラーマカムヘーン王の御代、スコータイのくにやよきかな、田には米あり、水に魚あり」という記述で、これらはタイ人の食の原点ともいうべき二つの食材である。」と述べているが、トムヤムクンは、この二つの食材との関係がある。まず、トムヤムクンではエビを使用している。エビは魚ではないが、タイではもともと川いる豊富な食料源という意味で、魚と共通する。最近では、豚肉も食されるが、豚肉はもともと中国人が持ち込んだものとされているため、トムヤム「ムー」ではなく、トムヤム「クン」である必要がある。続いて、米について、Tracy, Berno, Glenn Dentice, and Jutamas[2019]も米をタイの生活の本質として位置づけ、タイ文化の食を通した旅行者の体験と理解の向上の機会があることを指摘している。このことからもわかるように、米はタイ料理にとって重要な食材である。トムヤムクンは、米との相性がよく、一般的に米と共に食べられる。調査のなかでも、「トムヤムクンは何とでもよく合う」といった声が聞かれた。さらに、上記のタイハーブが材料として使われることで、トムヤムクンはさらにタイらしい料理となっている。
 三点目は、タイ人家族の社会的集まりとの関係である。聞き取り調査の中では、家族と集まっての食事の際には、必ずトムヤムクンを食べるというタイ人が複数人いた。また、『Tomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Culture』のトムヤムクンについてのタイ人のコメントでは、親から作り方を習ったという記述[Department of Cultural Promotion: 34-43]が見られる。このような家族での集まりとの関係や家族間での作り方の継承が、タイ人の「トムヤムクンが古くからタイ人によって継承されてきた[聞き取り調査 被験者⑤. 2024年9月16日]。」という意識を生み出している。このタイ人としてのアイデンティティ[15]との関係によってトムヤムクンがタイ料理として構築されている。

Ⅳ文化資源としてのトムヤムクン

1タイのソフトパワーと世界遺産

 タイにおいてソフトパワーは、一時トレンドとなった。「BlackPink[16]のリサ[17]が伝統的なタイのスカートを履いてアユタヤの寺院を訪れた」ことは、世界中でタイの織物の需要を急増させ、売上を急増させた。ワット・アルンのタイルのデザインからインスピレーションを受けた創造的なアイスクリームには、タイや海外からの旅行者が食べてみようと押しかける。「像パンツフィーバー」:タイに来る旅行者の間で人気のファッションアイテムで、地元の人も「流行の先端をいくためにそれを買って、着ている。ごく最近では、Netflixの韓国シリーズ「キング・ザ・ランド」で主人公たちがワット・アルンで敬意を示すためタイに来て、チャオプラヤー川をボートで渡ったり、トゥクトゥクに乗ったり、有名な麺料理を食たり、スイカスムージーを飲んだりした。これは、旅行者の間で聖地巡礼のトレンドを生み出した[Rukpium. 2023]。このように、タイにおいても文化資源の利用による効果が注目を集めた。
 さらに、「2024年政府官邸6月30日、ケニカ氏がタイ国民に朗報を伝えた[MRG online. 2024]。」としてトムヤムクンとケバヤ[18]のユネスコ無形文化遺産登録を目指す計画が発表された。タイ文化省は、毎年、地域の文化の国の無形文化遺産への登録を行い、UNESCO無形文化遺産への申請を行ってきた。タイの無形文化遺産としては、すでにコーン[19]、タイマッサージ、ノーラ[20]、ソンクラーン[21]が登録され、タイ文化省では、今後の10年間に渡りタイの無形文化遺産をユネスコに申請するための計画を立てている。この計画は、タイの芸術文化遺産やソフトパワーを国際的に広めることを目的としている[MRG online. 2024]。トムヤムクンの世界遺産申請を含め、タイにおける文化の資源化について理解するうえで、「ソフトパワー」がひとつのキーワードとなる。
 ソフトパワーは、1980年代後半にJoseph Nyeによってつくられた言葉で、ソフトパワーは、引き付けたり説得したりする能力にあり、強制する能力であるハードパワーは国の軍や経済力から生じるが、ソフトパワーは国の文化、政治理念、政策の魅力から生じる[Joseph S. Jr. 2005. Abstract]とされている。
 タイのソフトパワーについては、TATによるカテゴリーである5FとKellogg School of Management, Northwestern Universityによるタイソフトパワーの5つの視点である5Fがある。TATによる5Fでは、タイソフトパワーを以下のように分類している。
 

  1. 食(Food)

  2. 祭り(Festival)

  3. 格闘ーマーシャルアーツ(Fighting)

  4. ファッションータイの織物とファッションデザイン(Fashion)

  5. 映画(Film)

 
また、Kellogg School of Managementによるタイソフトパワーの特徴は、以下である。
 

  1. 楽しい(Fun)

  2. 香り豊か(Flavoring)

  3. 充実した(Fulfilling)

  4. 柔軟(Flexibility)

  5. 親しみやすさ(Friendliness)[Rukpium. 2023]。

 
トムヤムクンの場合は、TATによる5Fの1、食(Food)にあたり、また、Kellogg School of Managementの5Fの特徴をもち合わせている。
 

2トムヤムクンのUNESCO世界文化遺産申請概要

 2024年、トムヤムクンはUNESCO世界無形文化遺産に登録された。UNESCOのウェブサイトでは、トムヤムクンについて、以下のように説明されている。
 
「トムヤムクンはタイの伝統的なエビのスープである。エビは、レモングラス、コブミカンの葉、ガランガルの根、エシャロットを含むハーブと共に茹でられる。それは、はっきりした香りと色を持ち、甘み、酸味、旨味、辛味、クリーミーさ、ほのかな苦みを含む多くの味を組み合わせる。この料理は、何世紀もの間豊富な国の食品の主要生産地であった、タイ中央平野の仏教徒の川沿いのコミュニティに起源を持つ。これらのコミュニティは、伝統的に大きな動物を殺すことを避け、もともと豊富な淡水エビを食べることを好んだ。この趣向は、薬用ハーブの地域の知識と結びつき、特にモンスーン季にエネルギーと健康を促進するこの料理の発展へとつながった。調理法、ハーブや他の材料の選別、環境の保護を含む関連する知識や技術は口頭で、家族内や社会的、文化的集まりで伝えられる。この料理の人気が国内外で高まり、現在では、料理店、団体、学校、大学を通しても伝えられる。トムヤムクンは、タイの仏教的価値観の反映であり、地域の環境と資源の伝統知識の体現である[UNESCO 2024]。」
 
 続いて、トムヤムクンのUNESCO世界無形文化遺産申請時のRepresentative Listから、①誰が、②誰の「文化」を、③誰の「文化」として(あるいは誰の「文化」へと)、④誰をめがけて「資源化」するのかを明らかにしていきたい。
 Representative Listの中では、関係するコミュニティ、団体、個人として(ⅰ)中央地域の農業、川沿いコミュニティ(ⅱ)トムヤムクンが広く実践され、評価されている県における料理人やレストランオーナーなどの実務者や専門家(ⅲ)河川環境の持続可能性、淡水エビの保護、熱帯薬用植物に関連する伝統的知識に関わる専門家や機関(ⅳ)トムヤムクンに関係する教育機関、教師、研究者、および学生(ⅴ)トムヤムクンに関心を持つジャーナリストやマスメディア(ⅵ)自然環境や保全に関心を持つ民間団体、非政府組織、および食品安全や健康、食品産業に関連する企業家が挙げられている[UNESCO 2024 Name of the communities, groups or individuals concerned]。また、認知度の向上、意識啓発、対話、そして持続可能な発展への貢献の説明では、「ノミネーションのプロセスにおいて、農務省、水産局、タイ伝統医療・代替医療局、初等教育局および非形式的教育局、さらに男女、若者、地域のシェフやクッキングスクール、水辺の家族やレストランを含む地方機関や利害関係者が招かれ、議論が行われ、政府に対して多くの提言がなされた」と記されている[UNESCO 2024 Contribution to visibility, awareness, dialogue and sustainable development]。また、ノミネーションのプロセスと同意におけるコミュニティの参加では、地域の文化審議会や文化推進局の名が挙げられている[UNESCO 2024 Community participation in the nomination process and consent]。また、UNESCO無形文化遺産申請はタイ政府が行っているため、政府もトムヤムクンを資源化する主体の一つである。以上のことから、「①誰が」に当てはまる主体は、以下になる。

  1. 中央地域の農業、川沿いコミュニティ

  2. 政府(農務省、水産局、タイ伝統医療・代替医療局、初等教育局および非形式的教育局、文化推進局が中心)

  3. トムヤムクンを提供するレストランやシェフ

  4. トムヤムクンに関する研究や授業を行う教育機関(クッキングスクールを含む)

  5. トムヤムクンに関する知識の専門家

  6. トムヤムクンに関係する事業を行う民間団体、非政府組織、企業、個人

 
 誰の「文化」をについては、トムヤムクンの一般情報において、「「トムヤムクン」は、何世紀もの間、豊かな国の国の食品生産地として中央平野の川沿いコミュニティの料理の知恵である。」[UNSECO 2024 General information about the element.]と記載されている。したがって、「②誰の」は、タイ中央平野の川沿いのコミュニティである。
 誰の「文化」として(あるいは誰の「文化」へと)については、トムヤムクンの場合、二つの主体があるように思われる。一つは、先程の「誰の」の主体である、タイ中央平野の川沿いのコミュニティである。そしてもう一つは、より広義な主体である国である。Representative Listにおいて、タイ中央平野の川沿いのコミュニティという言葉が出てくるのは、トムヤムクンの一般情報のセクションなどに限られ、保護措置についてのセクションでは、タイ料理の促進と保護(Promote and preserve Thai cuisine)、 タイの食の知恵についてのプログラム(programs about Thai culinary wisdom)、 タイ食芸術の伝承(transmission of Thai culinary art)などタイという言葉がより多く使われている[UNESCO 2024]。したがって、「③誰の「文化」として(あるいは誰の「文化」へと)」に当てはめると、タイ中央平野の川沿いのコミュニティの文化として、タイ国民の文化へと資源化が行われている。
 誰をめがけて、資源化が行われているかについては、「保護措置(Safeguarding measures)」をもとに分析する。このセクションは、A. 過去と現在の取組(Past and current efforts)、B. 将来の措置(Future measures)、C. 利害関係者のフォーカスグループ会議で推奨された今後の行動計画(Future plan of actions recommended by focus group meetings of stakeholders)に分けられている。
 Aでは、川沿いコミュニティや民間団体による河川活性化、水産省による研究開発プロジェクト、農務省による地域のハーブのカタログ化と品質と安全性確保のための農産物の輸出コントロールと認証、タイの料理の知識と知恵の保護、促進、伝達、国内外に向けてのタイ料理の促進キャンペーンがある。
 Bでは、上流措置として、環境管理プログラムと淡水エビとその養殖に関する研究開発、中流措置として、地域の知恵と食の知識の強化と促進と食品と農産物の研究、開発、イノベーション、下流措置として、政府機関と連携した認知向上と保護の促進が挙げられている。
 Cでは、タイ料理の促進と外部からの影響からの保護、タイの食の知恵についての高品質なテレビ番組創出、タイの食芸術の伝達のための質の高い教育の養育、健康的なタイ料理を含む食品安全、食品選択、食行動についての教育、トムヤムクンや他のタイハーブをつかった料理の医療価値や健康への恩恵についての調査と科学的研究の促進、セクションを超えたパートナーシップによる法的措置による河川、運河、関係地域の保護と活性化、チャオプラヤー川沿いの淡水エビの生息域、水系文化と農業の保全が挙げられる[UNESCO 2024 Safeguarding measures]。
 以上のことから、「④誰をめがけて」の対象となる主体は、文化の所有者である川沿いのコミュニティから、農業、水産業、経済、教育、医学まで、さらには、一般人から研究者や企業までとかなり幅広いことがわかる。したがって、「④誰をめがけて」は、国内外を問わず全世界をめがけて資源化が行われているといえる。

3トムヤムクンは何資源なのか?

 2024年、UNESCO無形文化遺産に登録されたトムヤムクンであるが、トムヤムクンは何資源として利用されうる可能性があるのだろうか。
 トムヤムクンが何資源なのかを議論する前に、まず、文化資源と文化資本について整理しておきたい。トムヤムクンはタイの食文化としてUNESCO無形文化遺産に登録されているわけであるが、森山[2007]は、あらゆる人間の営みを含む「文化資源」という語を用いる意味を議論している。文化資源に似ている言葉としてブルデューによる「文化資本」がある。森山[2007]は、ブルデューによる文化資本を「その蓄積にかかわる時間的プロセスと、ひとたび蓄積されたものの通世代的な継承にかかわる時間的プロセスのなかで、自己回帰的にみずからを維持し、可能とあれば量的な増殖へといたる」構造志向的なものとしている。したがって文化資本として見るなら、トムヤムクンはタイを代表するものとしての象徴資本、タイ経済の活性化を助ける経済資本、そしてタイ文化を象徴する文化資本である。一方で、文化資源は、行為志向的なものとして用いることが可能で、あえて、この概念を用いることで資源が動員され、利用されるある個別的な具体性を焦点化することがきる[森山 2007: 63-65]。
 文化資源という観点からトムヤムクンを見た場合、トムヤムクンは観光にも利用される観光資源となっている。タイ政府は、食をタイソフトパワーの一つとして観光に利用するための取組を行ってきた。トムヤムクンの無形文化遺産登録は食の観光資源としての利用を促す可能性が高く、タイ政府も食を中心的に打ち出したフードツーリズムに力を入れている。また、タイ政府は「タイキッチンを世界へ (Thai Kitchen to the World)」を通してタイ食品の輸出の増加に成功したが、トムヤムクンが無形文化遺産に登録されて知名度と人気が上昇すると、海外のタイ料理店での需要が増加し、それに伴ってタイ食品の輸出も増加する可能性も高い。
 トムヤムクンは、政治資源にもなり得る。東南アジアにおいては、食文化を含めさまざまな類似する文化的なものがある。そこで、トムヤムクンをタイの無形文化遺産として登録することは、トムヤムクンの所有の所在を明らかにすることになり、国際的にもタイのものとしてアピールすることが可能となる。本稿では、「タイ料理」というカテゴリーの社会的構築においてナショナリズムが重要な役割を果たしたことを見てきたが、トムヤムクンの無形文化遺産登録により、タイ国家としてのアイデンティティが強化され、ナショナリズムの高揚が促される。この点で、トムヤムクンがタイ、または、タイ文化の象徴として政治的にも利用されうる。例えば、トムヤムクンの無形文化遺産登録は、政治の主権が及ぶ範囲である国家の領域(領土)の認識の強化にも影響を与えうる。トムヤムクンを含む食文化がタイの歴史と結びつけられ、「トムヤムクンを食べる地域であるのでタイである」というように文化圏の主張に利用される可能性がある。このように、国単位での文化遺産登録は、その国の権利の主張のような他国の排除に役立つ政治資源となりうる。一方で、トムヤムクンと共に2024年にUNESCO無形文化遺産に登録されたケバヤは、タイ、シンガポール、マレーシア、インドネシア、ブルネイの5カ国のものとして登録されている。このように、世界無形文化遺産申請においては、他国とのつながりを強化する場合もある。
 トムヤムクンは、医療資源としても重要である。Thai Herb Kitchen[2024]によると、最も健康的な料理の一つはタイ料理で、トムヤムスープを含む様々なタイ料理の大量の健康への利点が近年科学的に研究されている。タイ料理で使われる多くの新鮮なハーブとスパイスはすでに、免疫を刺激し病気への対抗を高めることが知られている。また、タイでは、保健省にタイ伝統・代替医療開発局(Department for Development of Thai Traditional and Alternative Medicine, Ministry of Public health, Thailand)が設置され、タイの伝統的医療の研究、促進、保護などを行っている[Ministry of Public Health, Thailand. 2016]。トムヤムクンをはじめとするタイハーブを利用した料理は、健康や医療という視点からの利用が進められている。
 また、医療や健康とも関連して、トムヤムクンに使われるハーブに関する知識も重要であり、その点でトムヤムクンは知識資源である。また、知識はハーブの利用や栽培に関する知識だけでなく、調理法についての知識も重要である。例えば、Tomyum Kung: Tastiness from Cuisine to Cultureでは、トムヤムクンを作るときにも用いられる、味と香りを強化するために行われる火を止めた後の調味の手法が「火を止めた後の味付け:忘れられた知識」として紹介されている[Department of Cultural Promotion 2022:32]。さらに、こうした調理法やハーブについての研究によるデータの蓄積が学校などの教育機関での食育や保健の教育に利用される教育資源としての可能性もある。
 以上のようにトムヤムクンは、観光資源、経済資源、政治資源、医療資源、知識資源、教育資源として位置づけることが可能である。ただし、ここで記した具体的な資源としての位置づけは一部であり、他の資源としての利用もあり得る。

Ⅴ結論

 タイ料理は、タイのナショナリズムによって社会的に構築されてきたカテゴリーである。「タイ料理」には、タイナショナリズムの父として知られるラーマ六世がタイ的原理として主張した「国民(国家)、宗教、国王」が反映されている。また、ピブーン政権下ではラッタニヨムによって文化的規範が示され、「タイの食品を使うこと」と「タイ人がつくること」という二点がタイ料理の特徴として強調され、これは、タイ的原理の「国民(国家)」を強調するかたちとなっている。さらに、タイ食品の輸出増加や観光のための政策によって形成された「タイらしさ」という概念によって特定の料理がタイ料理として選ばれ、世界に向けて発信され、認知度を高めていった。
 そのような世界で認知度を高めてきたタイ料理の一つがトムヤムクンである。オーセンティックなトムヤムクンには、タイハーブが使用されている必要がある。そのような必ず入れなければならない材料がある一方で、トマトのようなもともとはトムヤムクンには入れないと思われるが、現在では入れる人も多い材料やココナッツミルクや牛乳を入れるナムコムがトムヤムクンのスープの一種として受容されている状況がありオーセンティシティが社会的に構築されている過程を捉えることができる。また、一般のタイ人にとって、タイハーブの利用に加え、使われる材料やタイ人の社会的集まりとの関係がトムヤムクンをタイらしい料理にしている。
 さらに、トムヤムクンは2024年にUNESCO無形文化遺産に登録された。この背景には、タイの無形文化をタイソフトパワーとして打ち出していこうという動きがある。トムヤムクンの無形文化遺産申請のプロセスからは、誰の問いによって、トムヤムクンが、中央地域の農業、川沿いコミュニティ、政府(農務省、水産局、タイ伝統医療・代替医療局、初等教育局および非形式的教育局、文化推進局が中心)、トムヤムクンを提供するレストランやシェフ、トムヤムクンに関する研究や授業を行う教育機関(クッキングスクールを含む)、トムヤムクンに関する知識の専門家、トムヤムクンに関係する事業を行う民間団体、非政府組織、企業、個人がタイ中央平野の川沿いのコミュニティの文化を同コミュニティとさらには、タイの国の文化として、はっきりとはしないが様々な主体に向けて資源化されていることが明らかになった。加えて、トムヤムクンを資源として見る場合、観光資源、経済資源、政治資源、医療資源、知識資源、教育資源として位置づけることが可能である。
 

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13世紀末
スコータイ王朝第三代目ラーマカムヘーン王が歴史上最初の食べ物に関する記述を行う。「ラーマカムヘーン王の御代、スコータイのくにやよきかな、田には米あり、水には魚あり」
1350
ウートーンの領主がアユタヤを都として王朝を開く(アユタヤ時代開始)
1492
コロンブスが新大陸アメリカを発見。今まで知られていなかった食材や調味料が発見、紹介され世界中のあらゆる地域の料理に影響を与える。
1569
スペイン人とポルトガル人が何種類かの唐辛子をインドや東南アジアとシャムを含む近隣諸国に移植するために持ち込む。
1767
ビルマ軍によってアユタヤが壊滅(約400年のアユタヤ時代終了)。
タークシンがアユタヤを奪還し、トンブリーを都として王朝を開く(トンブリー王朝開始)。
1776
数回の使節派遣の末、清朝との交通復活。
1782
チャオプラヤー・チャックリー(ラーマ一世)がチャオプラヤー川の対岸(バンコク)に移して、王宮建設(チャックリー王朝開始)。
1782 – 1824
白米ともち米がタイ料理の主な構成要素であり、チリペーストやカレーと一緒に食べられていた。
1809
ラーマ二世王即位。
1809 – 1824
ラマ王2世の治世、食べ物がさまざまな台本や文学に引用される。「トヤム(ต้มยำ)」という言葉がタイの叙情詩、クンチャーン・クンペーン(ขุนช้างขุนแผน)、プラアパイマニー(พระอภัยมณี) に登場する。「ゲーントムヤム(แกงต้มยำ)」という言葉が、ラマ2世の治世に執筆された、ラーマキエン(รามเกียรติ์)のラーマ王の結婚式のシーンで登場する。
1826
英緬戦争の結果ビルマ領土一部イギリスに割譲。シャム、イギリスとバーネイ条約(通商条約)締結。
1832
アメリカと通商条約締結。
1850年代〜
ベトナム、フランスとの対立に悩まされる。
1851
モンクット親王がラーマ四世王として即位。
1854
Jean-Baptiste Pakkegoix牧師が彼の著書Description du Royaume Thai ou Siamの中で、「巨大な淡水エビ…川に豊富で市民によって定期的に食べられていた…」と記す。
1855
イギリスとボウリング条約締結(王室独占貿易廃止、自由貿易開始)。
1868
チュラローンコーン王(ラーマ五世)即位。
1870年代
ラーマ5世が大幅な統治改革に乗り出す。
1872
英語学校の開校。
1883
ベトナムがフランスの保護領となる。
1893
ラオスを巡ってシャムとフランスが交戦。結果、フランスがメコン左岸を割譲。
1897
ラーマ5世、第一回欧州訪問を行い、各国の王室と交流。
1898
“トムヤムクンソンクルアン(ต้มยำกุ้งทรงเครื่อง)”と”トムクンガップヘッドコーン (ต้มกุ้งกับเห็ดโคน)”のレシピ が”タムラーパターヌックロム ガーンタムコンカーオコンワーン(ตำราปะทานุกรม การทำของคาวของหวาน)”という本で登場する。
1908
“ゲーンノックモー(แกงนอกหม้อ)”と”トムヤムクメーン(ต้มยำเขมร)”のレシピがパーサコンラウォン妃(ท่านผู้หญิงเปลี่ยน ภาสกรวงศ์) によって書かれた料理本、『メークルワフワパー(แม่ครัวหัวป่าก์)』で登場する。
1909
現在の領地が確定。
1910
ワチラーウィット王(ラーマ6世)即位。
タイ国中華総商会が設立される。
1917
現在の国旗制定。
第一次世界大戦に参戦(タイは連合国側)
1925
プラチャーティポック王(ラーマ7世)が即位。
1929
世界恐慌
1932
ピブーンがクーデターを起こし、150年続いた絶対王政が終了(絶対王政から民主主義体制へ)。
1939
呼び方をサイアム(シャム)国からタイ国に改める。ピブーン政権は、「ラッタ二ヨム」(国民に対する指導勧告)を発布。
1941
タイ失地回復。
1955
政治活動自由化、労働組合活動合法化
1962
キティナダキティヤコン(ม.ร.ว. กิตินัดดา กิติยากร)が「トムヤムクン」を陛下プミポン国王(มหาภูมิพลอดุลยเดชมหาราช)と女王陛下シリキット女王(สมเด็จพระบางเจ้าสิริกิตติมศักดิ์)、太后と4人の子どもたちにつくる。
1964
「トムヤムクン(ต้มกุ้ง)」という名前が前枢密院秘書のキティナダキティヤコン(ม.ร.ว. กิตินัดดา กิติยากร)の”『コンサウーイ(ของเสวย)』という本に公式に記される。
1990年代
タイ政府とタイ観光庁がタイ料理を強調した観光キャンペーンを開始。
1994
「アメージング・タイランド(Amazing
Thailand)」マーケティングキャンペーンがタイで初めてタイ料理の認識を上昇させることに成功。
1997
「トムヤムクン」という言葉が本年の経済危機を「トムヤムクン危機」と呼ぶのに使われる。
2000
タイ政府が、食産業のグルーバル化戦略と農業発展を超えて、SEP(Sufficiency
Economy Philosophy)の原則に基づくタイ料理のグローバル化の基礎を確立し始めた。
2002
「世界のタイキッチン(Thai Kitchen to the World)」の取組を実施。この取り組みを通してタイは”gastrodiplomacy”(その国の料理を対外的に推進する国主導の政策)の取り組みをはじめて行った国として評価されている。
2003
タイ政府は、持続可能な観光に焦点を当て、Designed Areas for Sustainable Tourism Administration (DASTA)と呼ばれる新しい公共団体が、首相府のもとに設立される。DASTAはアジェンダ21の実現を目指して持続可能な観光の発展を促進するために、地方自治体機関やコミュニティと協働することを目標としていた。
2005
労働省傘下の技能開発局で、タイ人シェフが海外のタイ料理店で働くためのトレーニングプログラムを開始する。本年以降、タイ料理の高い調理基準とタイのオーセンティックな味を保証するため、タイのオーセンティックな味、材料の知識、食の衛生と安全性、メニュー作成の強調と共にトレーニングプログラムとタイ料理カリキュラムが発展した。2005映画「トムヤムクン」がタイやその他の世界の多くの国で公開され、2700万ドル売上げる。2013年、続編が公開される。
2006
タイセレクト(Thai Select)プログラムが開始される。
2011
トムヤムクンが自然と社会を考慮した知識と実践の領域の元、食と消費カテゴリーで国の文化遺産に登録される。
2012
タイ政府の国家経済、社会開発計画が開始された、食品安全性について強調した。
2014
DASTAがガストロノミーツーリズムの促進を開始。TATが、特にガストロノミーツーリズムに焦点をあて、食に関連する地域体験を促進するためのマーケティング戦略を開始。政府が、タイキッチンを世界へ(Kitchen to the World)政策によってイノベーションを推奨することで食品サプライチェーンを発展させることを持続的にサポートするための4つの戦略を掲げた。
2015
タイ政府は、『タイらしさ発見』キャンペーンを開始。タイのガストロデプローマシー(gastrodiplomacy)の原則に基づいてさらに発展させ続ける。
2016
タイ料理をタイのユニークな7要素の一つとして推進するため「アメージングタイテイスト(Amazing Thai Taste)」キャンペーン開始。パッタイ、トムヤムクン、グリーンカレー、ソムタム、マッサマン、トムカーガイの6料理が強調される。
2017
世界中に20000以上のタイ料理店が存在。タイがCNN Travelでストリートフード世界最高の場所として報じられた。
2018
TAT(タイ国政府観光庁)のステレオタイプ化されたタイ料理の受動的な消費を超えることを強調するためのマーケティングキャンペーンの主要な要素の一つとして『アメージングガストロノミー(Amazing Gastronomy)』がある。
2020
CNN travel webサイトがトムヤムクンを2020年世界で8番目に美味しい食べ物として挙げる。
2022
文化振興局、文化振興及び無形文化遺産保護委員会(Department of Cultural Promotion, Board of Cultural Promotion and Preservation of Intangible Cultural Heritage) は、トムヤムクンをユネスコの「人類の無形文化遺産」代表リストへの登録のため、内閣の承認を求めてノミネーションしている。
2024
トムヤムクンが世界無形文化遺産に登録される。
 

資料2: トムヤムクンの写真


 

資料3: 質問リスト


1. タイを代表する料理は何ですか?
What food represents Thailand?
อาหารชนิดใดที่เป็นตัวแทนของประเทศไทย
 
2. トムヤムクンはタイを代表する料理だと思いますか?どうしてですか?
Do you think Tomyumkung represents Thailand and why/why not?
คุณคิดว่าต้มยำกุ้งเป็นตัวแทนของประเทศไทยหรือไม่ และทำไม/ทำไมไม่?
 
3. あなたとタイ人はトムヤムクンが好きですか?
Do you and Thai people like Tomyumkung?
คุณและคนไทยชอบต้มยำกุ้งหรือไม่
 
4. 外国人もトムヤムクンを受け入れることができると思いますか?
Do you think Tomyumkung is acceptable for foreigners?
คุณคิดว่าต้มยำกุ้งเป็นที่ยอมรับสำหรับชาวต่างชาติหรือไม่
 
5. トムヤムクンは、UNESCO無形文化遺産登録のプロセス中です。それは、タイやタイ料理店、観光などにどう影響するでしょうか?
Tomyumkung is under the process of the registration of UNESCO intangible cultural heritage. How will it affect Thailand, Thai restaurants, or tourism?
ต้มยำกุ้งอยู่ระหว่างการขึ้นทะเบียนเป็นมรดกทางวัฒนธรรมที่จับต้องไม่ได้ของ UNESCO ซึ่งจะส่งผลต่อประเทศไทย ร้านอาหารไทย หรือการท่องเที่ยวอย่างไร
 

資料4: 聞き取り調査結果

対象者①: Ploy(女性、大学院生、20代)
調査日: 2024年9月15日
場所: チュラロンコン大学
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
9: 卵が入っている。普通トムヤムクンには卵を入れない。
12: 普通トムヤムクンでは入れないきのこが入っている。見た目もトムヤムクンとは異なり、どちらかというとヤムに見える。スープが少なすぎるため。青ネギと玉ねぎも普通は入れない。
5: スープの種類が異なり、おそらくケーンルアンである。
8: 箸が写っていてトムヤムクンぽくない。麺もタイのものではない。
3: いろいろな具材が入っているので、トムヤムクンというよりは、トムヤムタレー。
その他聞き取り内容:
 タイを代表する料理は、ソムタム、ムーガタ、ガパオだと思う。スパイシー、酸っぱい、甘い味がタイ料理の特徴で、これらの料理には、それが現れていると思う。トムヤムクンは有名だが、他の料理のほうが今のタイをよく表していると思う。トムヤムクンは20年以上前は人気だったかもしれないが、すこし古い料理というイメージがある。トムヤムクンも好きだが、トムヤムガイ、トムヤムムーのほうが好き。普段トムヤムクンは頻繁に食べない。トムヤムクンを食べるのは、家族とレストランで食事をするときが多い。トムヤムクンは、外国人にとっても受け入れやすく、使われる材料はとてもタイらしいと思う。エビの新鮮さが重要で、川のエビか海のエビかはあまり関係がない。トムヤムクンがUNESCO無形文化遺産申請中であるが、他の料理も申請しようと言う動きがあるというのを聞いたことがある。トムヤムクンがUNESCO無形文化遺産に登録されても、トムヤムクンはすでに有名なので、タイにそこまで影響はないと思う。申請の主な理由は、トムヤムクンがタイの料理として保護することにあると思う。
 トムヤムクンが海外で作られる場合は、具材が多少異なっても問題なく、酸味を加えるためにトマトが入っていても問題ない。その場合でも、トムヤムクンに入っているコブミカンの葉は重要である。調査で利用した写真には陶器のつぼに入っているものも見られるが、そのつぼはもともとイサーン料理チョムルムをつくるときに使われる。
 以前、ミャンマー料理を食べたことがあるが、ミャンマー料理は、タイ料理より油が多く、辛味が少なく、味の深みがない。食べたことがあるのは、ジェターヒン(鶏肉カレー)、ナンジート(パスタのような麺料理)、タミンジョ(チャーハン)。ジェターヒンはインドカレーよりも油が多かった。ナンジートはヤムやパッタイにすこし似ている気がした。タイ料理とミャンマー料理は全然違う。
 
 
対象者②: Shertam(女性、チュラロンコン大学スタッフ、20代)
調査日: 2024年9月15日
場所: チュラロンコン大学
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
5, 14: この二つはスープがトムヤムではない。おそらくトムセップ。
12: これはヤム。スープが少なすぎるのと、ボウルへの盛り付けがトムヤムクンとは異なる。玉ねぎとライムは普通は入れない。
13: ブロッコリーは入れない。
9: エビが入っていない。トムヤムクンにエビは必須。
3: これはトムヤムタレー。
2,7: この二つはトムヤムクンだが、おそらく海外でつくられたトムヤムクンだと思う。
その他聞き取り内容:
 タイを代表する料理には、パッタイ、トムヤムクン、ガパオがあると思う。それらはタイでのマストトライで、タイ料理と言われるとそれらがまず思い浮かぶ。トムヤムクンは好きだが、トムヤムヌードルのスタイルで食べる事が多い。トムヤムクンは外国人にも受け入れやすいと思うが、タイ人が食べる辛さのものは食べることができない人もいて、外国人は、辛さ控えめで注文することが多いと思う。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産申請については知らなかった。申請理由は、おそらくタイ文化としてのトムヤムクンの保護だと思う。
 トムヤムクンにトマトを入れるのは問題ないが、タイではトマトが入っていることは少ない。麺が入っていたとしてもそれは、トムヤムクンとみなされる。
 マレー料理を食べたことがあるが、マレー料理ではタイ料理と異なるスパイスが使われていた。多くの料理がカレーのような感じでタイ料理より脂っこくクリーミーな感じがした。また、マレー料理では、豚肉はほぼ使われていない。タイ料理はマレー料理よりフレーバフルでスパイシー。
 
対象者③: Mae koi (女性、自営業、50代)
調査日: 2024年9月15日
場所: ビデオ通話
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
12: スープの量が少なく、ヤムに見える。
9: トムヤムママーという料理に似ている。エビがない。
3: これはトムヤムタレー。
13: ブロッコリーは入れない。
その他聞き取り内容:
 タイを代表する料理は、トムヤムクン、パッタイ、マッサマン、ガイパットメットマムアン、パネーンだと思う。これらは、タイハーブを使っている。トムヤムクンもタイハーブをつかったとてもタイらしい料理である。よくトムヤムクンを食べる。トムヤムクンは他のどんな食べ物ともよく合う。トムヤムクンは外国人にも受け入れやすいと思う。トムヤムクンはフレーバフルで、塩味があり、スパイシー。これらの味のハーモニーが調和している。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産申請については知らなかったが、もし登録されれば、より多くの外国人が本当のトムヤムクンを食べようとタイに来ると思う。また、トムヤムクンはタイハーブを使っているため、政府はそれをタイのものとして保護したいという狙いがあると思う。
 マレー料理を食べたことがあるが、それと比べてタイ料理はより酸味が強く、フレーバフルである。マレー料理はよりクリーミーでねっとりした感じがあり脂っこい。タイ料理以外の料理では、激辛と美味しさの両立ができていないと感じる。
 
対象者④: Big(男性、大学生、20代)
調査日: 2024年9月13日
場所: タイ料理店(ร้านต้มยำกุ้งบางลำภู(เจ้าเก่า-เจ้าแรก)สาขา2)
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
13: ブロッコリーは入れない。
12: スープが少ない。赤玉ねぎはトムヤムクンに入れない。
3: これはトムヤムタレー。
その他聞き取り内容:
タイを代表する料理はトムヤムクンだと思う。トムヤムクンは人気で誰もが知っている。味もユニークである。どこでも食べることができ、スパイシーさも調節できるのでトムヤムクンが好き。トムヤムクンは外国人にも受け入れられやすいと思う。トムヤムクンは世界の美味しい料理ランキングでも上位に入っている。ソムタム、トムカーガイ、トムヤムクンはタイの余すとトライ。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産は、料理についての権威付けではないので、登録はタイにそれほど影響を与えないと思う。有名なテレビショーなどにでるほうが影響が大きいと思う。
 
対象者⑤: Kiew (女性、タイ料理店スタッフ、40代)
調査日: 2024年9月16日
場所: タイ料理店(ก.ไก่ ข้าวมันไก่ตอน)
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
13: ブロッコリーは入れない。
その他聞き取り内容:
タイを代表する料理はトムヤムクン、クァイティオ、パッタイだと思う。トムヤムクンはタイを代表する料理としてタイ人にも外国人にも好まれている。トムヤムクンは家族での集まりのときによく食べられる。トムヤムクンは外国人にも人気で、トムヤムクンがメニューにある店は多くの客が訪れている。この店があるエリアでも多くの店でトムヤムクンを提供している。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産への登録は当たり前だと思う。トムヤムクンは、昔からタイ人によって継承されてきた料理だからだ。
 
対象者⑥: Grandma (女性、タイ料理店スタッフ、50代)
調査日: 2024年9月16日
場所: タイ料理店(ก.ไก่ ข้าวมันไก่ตอน)
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
13: ブロッコリーは入れない。
12: スープが少なくヤムに近い。
9: エビが入っていない。
その他聞き取り内容:
タイを代表する料理は、ソムタムとトムヤムクンだと思う。トムヤムクンは、タイ人にとって馴染のある料理で、タイでは一般的に見られる。多くのタイ人はトムヤムクンが好きで、タイでは、スープ料理と一緒に他のものを食べる事が多い。トムヤムクンは、フレーバーが強く、外国人にも人気である。トムヤムクンは国内外両方で人気で、多くのレストランのメニューにある。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産申請について、トムヤムクンは登録されるべきだと思う。
 
対象者⑦: Iyee (男性、高校生、10代)
調査日: 2024年9月16日
場所: CUiHouse
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
12: コブミカンの葉っぱが入っていない。
9: これは中国の料理で、トムヤムクンとは異なる。
5: スープが異なる。
13: ブロッコリーは入れない。
その他聞き取り内容:
タイを代表する料理は、トムヤムクン、パッタイ、イサーン料理、ムーガタだと思う。トムヤムクンは栄養バランスが良く、タイのどこでも食べることができる。タイでは、エビはよく使われている。トムヤムクンは家族の集まりで食べられる。その時は食べられるのはトムヤムクンで、他のものが入ったトムヤムではない。ただし、この伝統は少し古いかもしれない。Love Destinyという映画では、家族が食事囲むシーンが出てくるが、まさにそのような感じ。トムヤムクンはタイ人にも外国人にも人気である。トムヤムクンがUNESCO無形文化遺産に登録されれば、トムヤムクンはもっと有名になり、タイにとってはいい影響があると思う。
 
対象者⑧: Si Lom Cooking Schoolカウンタースタッフ (女性)
調査日: 2024年9月16日
場所: Si Lom Cooking School
トムヤムクンでないものの写真とその理由:
12: スープがすくなくヤムに見える。
3: トムヤムタレー。
9: エビが入っていない。
13: ブロッコリーは入れない。
2: スープはトムヤムではない。トムヤムにつかうチリペーストを入れると、油が表面に浮いてくる。
その他聞き取り内容:
 タイを代表する料理はガパオとソムタムだと思う。トムヤムクンはタイ料理代表ではないと思う。Si Lom Cooking Schoolで最も人気なのは1.グリーンカレー 2.トムヤムクン 3.ソムタム 4.カオ二アオマムアン 5.パッタイである。トムヤムクンは簡単に作り方を覚えることができ、スーパーやローカルの市場で全ての材料を揃えることができる。トムヤムクンを食べるのは好きで、たまにトムヤムクンを食べる。家族での集まりの際には必ずといっていいほどトムヤムクンを食べる。トムヤムクンはタイ料理のなかではスパイシー過ぎないので外国人にとっても受け入れやすいと思う。また、スパイシーさは調節できる。トムヤムクンのUNESCO無形文化遺産申請に関して、カオソーイとパッタイも申請されるのではないかという話を聞いたことがある気がする。もし、トムヤムクンが登録されれば、より多くのお客さんが、自分の働く料理教室にも来ると思う。

 
 



[1] ต้มยำกุ้ง=タイのスープ料理。
[2] ผัดไทย=タイの麺料理。
[3] น้ำปลา=タイの魚醤。ナムは液体、プラーは魚の意味。
[4] เมือง=タイ族の世界において多数のむらのハブとして存在した年や国主により収められていた街や村々の全体領域。村の上位単位。
[5] หัวปลี=バナナの葉。肉の代替として利用されることもある。
[6] ก๋วยเตี๋ยว=米から作られた麺。
[7] ヒンドゥー教の聖典の一つで、インド二大叙述詩の一つ。
[8] タイ東北料理。タイ東北地方はイサーン地域とも呼ばれる。
[9] Gastrodiplomacy=食を通して文化と関わり、海外のオーディエンスに接触し文化、歴史、遺産を共有する方法。
[10] ส้มตำ=ラオスやタイで食べられる青パパイヤのサラダ。
[11] แกงมัสมั่น=タイのカレー料理。マッサマンの語は、「イスラム教徒(の)」を意味するペルシャ語に由来するとされる。
[12] ต้มข่าไก่=タイやラオスで食べられるスパイスと酸味の効いたココナッツミルクを用いたスープ。
[13] その土地の気候風土が生んだ食材・習慣・伝統・歴史などによって育まれた食を楽しみ、食文化にふれることを目的としたツーリズムのこと。
[14] 地域ならではの食・食文化を楽しむことを目的とした旅。
[15] ここでは、「「自分は何者か」という自己認識」の意味で使用。
[16] BLACKPINK=勧告の四人組ガールズグループ。
[17] LISA=BLACKPINKのメンバー。タイのブリーラム県生まれで、タイ人の母とスイス人の父を持つ。
[18] 東南アジア、特にインドネシア、マレーシア、シンガポール、ブルネイ、タイなどの女性の伝統的な上衣。
[19] タイの古典舞踊劇の一つ。
[20] 先祖の霊魂を呼び出すタイ南部の踊りと歌。
[21] タイの旧正月。日本では水掛け祭りとしても知られる。

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