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金木犀

秋の最後の一息が頬をなぶる

昨日父が亡くなりました、と
白い顔をして話し出した後輩
休暇の申請をしているあいだ
まるで人ごとのように窓の外
老人のように光彩のない目で
見つめていた彼はまだわかい

離婚したと噂される長い髪の
彼女は陰口すら糧になるよう
笑顔で今日もヒールを鳴らし
取引先に出かけていく後ろ姿
人知れず流した涙気づかせず

不妊治療をやめたという妹は
モンブランクリームをなめて
口元には笑みを張り付かせて
テレビの中の新生児を抱いて
世界で一番幸せのような顔の
家族を写していた昏い目差し

秋が冬に変わる頃薄いコート
羽織ってまるで蜉蝣のように
世界から逃げ出した君たちを
僕は僕のまま何をしたらいい

なにが正しいのなにが本当か
答えられない神ならいらない

こころをさらけ出せないのが
おとなになるということなら
僕はおとなじゃないのだろう
見えない決められたレールを
走りきれない人たちを捨てて
世界は惑星はどこを回ってく

誰かのために生きられるなら
誰かのために捨てられるなら

僕がこの身を差し出すことで
世界が優しくなるというなら
僕の命が今日果ててもいいよ

人々の苦しみ背負いきれずに
折れそうな三日月を見上げた

金木犀の香だけが僕をここに
存在の意味をくれているんだ

秋が冬に追い越される前に唯
最後のあがきのように小さく
「光」のないあかりを僕達に
くれた冷え切った絨毯のよう

泣かないでと、つぶやくしか
出来ない少女のように今夜も






【自己お題】
TM NETWORK GetWildの歌詞を使って

誰かのために生きられるなら


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