
花を踏みつけるように
境界線は自分で引いた
「現実」って見ないフリをしていた
そんな私じゃ
見えない見えない
境界線の向こうに咲いた
鮮烈な花達も
本当は見えていたのに
17日月曜日、体調が悪くて19時には眠ってしまう。
久しぶりにワグナーのローエングリンの「エルザの大聖堂への行進」を聴いて眠る。
0時を少し過ぎた頃、一度目が覚める。
咳がひどく、枕元に置いていた紅茶を飲んで、また横になった。
私はLINEの通知は切っている。
本当の緊急な連絡というものはLINEではこないものだ。
だから、スマートバンドが小さく震えたときも、なにか同期が始まったかくらいに思って、軽い気持ちで腕を持ち上げた。
5ヶ月くらい連絡のなかった人からのLINE通知。
深夜にLINEをするような人でないので驚いてスマホを見た。
……やられた。
LINEの向こう側には「彼女」がいた。
LINEの相手は、あのことには無関係だったし、私が(というか北が)大変お世話になった人だったので、ブロックすることはなかった。
そうか、知らないからこそ、彼女の話を信じて、スマホを貸したのか。
その人は私を責めている訳でなく(彼女がそう誘導したのだろう)、ずっと彼女は泣いていて、なぎさんと話がしたい、謝りたいと言っていて、と少し困惑したように書いてくる。
私はため息をついて、彼女のブロックを解除します、彼女のスマホで連絡させてください、今日もお仕事でしょう?お疲れ様です、おやすみなさい、と打ち込んだ。
ブロック解除したとたん、通知が立て続きで来る。
冷めて覚めた気持ちで
「このやりとりもスクショして共有されるのかな」
と嫌みを言ったが、全く気づかない。そう演じているのか。
面倒で、通話にしない?と切り出すと、
「本当にいいんですか?」
と書いているそばから着信があった。
まあ、この会話を録音されて共有される可能性もあるが、「話すことでの相手への操作術」は、私の方が上をいっている。
矛盾が生じたって、いくらでも起動修正は出来る。
文字起こしでもされたら気づかれるかもだけど。
電話越しの彼女の声は、号泣しまくった後のひどいかすれ声で、しゃくり上げ嗚咽し、また泣き出すと忙しかったが、その時間はさらに私を冷静にさせる。
結局は二十歳の女の子。
取り乱しもしてない、人との駆け引きを十分経験した、営業モードにスイッチの入った私のトークに、ひたすらうなずく。
別に彼女に謝罪もしてない。彼女の謝罪も言葉だけ受け取って同意はしてない。
ひたすら傾聴。
事実のみの確認(感情は決していれない)。
相手の真の要望の引き出し。
時間をかけて、吐き出させ、そうして切り出す。
「それに対する私へのリターンってなにかな?」
これも特に私の要望は入れてない。ただの確認。
あなたを受け入れて、私になにのメリットがあるのかな?
それを本人に気づかせることが出来たら成功。
彼女はうろたえて、また泣き出し、話はまったく違うものになり、でも私はどの話題にも同じとをくり返す。
10時間クレーマーと対面し、ひたすら謝罪しつつ提案をしてきた元営業職なめんな。
以前はあなたを仲間と思って失敗した。
あなたがマニュピレーターなら、私はサイコパス。
敵のあなたを追い詰めて傷つける、良心を持たない口達者。
5時。
夜はすっかり明けて、部屋に日が差し込む。
あなたは仕事でしょう?少し仮眠したら?と言った。
単に電話を切り上げたかっただけだが、それを優しさと勘違いした彼女の気持ちは置き去りにして、じゃあね、と通話を終えた。
彼女がどれほど泣いても口説いてきても、ピクリとも気持ちが動かなかった。
北にLINEしたらすぐに電話がかかってきた。
私を心配してくれたが、私の口調が氷点下をこえて冷め切っていたのが伝わったようで、安心と若干の不安をにじませて、少し眠るように、と言って電話を切った。
まあ、眠らず自分のやりたいことと調べまくって講座を申し込んだり、体調不良が悪化して病院に行ったり、忙しい1日だった。
ねえ。
あなたとふれあうと私は体調を崩すけれど、こうやった自分のやりたいことがクリアになっていくのは不思議ね、と心の中の彼女に話す。
あなたのとのことを忘れるように私はなにか行動を起こす。
あなたとの時間の不快さを振り払うように、「自分に出来る新しいこと」を探し続ける。
私は聖人君子じゃないわ。
そうね、あなたがどうしても私を追いかけるなら、私はあなたを利用して、前に進む力に変える。
マニュピレーターVSサイコパス。
どちらが勝つかしら。どうかな。
そうして。
何も知らなかった頃の、頭の回転がよくて愛くるしい笑顔で皆をいやしてくれた存在のあなたを思い出す。
チーム一丸となって目標をクリアしていったあの一体感。
幸せの記憶。
それを持ったまま、でも私は振り返らない。
無邪気な時間は終わったね。
あなたが気づかない。
壊れてしまったものは二度と元には戻らない。
道ばたの花を踏みつけるような私の心は永遠にあなたを許さない。
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さよなら。