見出し画像

ハン・ガン「菜食主義者」

ノーベル賞受賞作家のハン・ガンの作品は、「すべての 白いものたちの」を読みnote記事として感想文を投稿しました。
「菜食主義者」については、ネットで試し読みをして冒頭だけを読んだのですが、その異様さに興味をそそられて購入しました。
したがって、本書については予備知識がまったくありませんでした。
目次を見ると、「菜食主義者」、「蒙古斑」、「木の花火」とありましたので、短編集かと思いました。
次の「蒙古斑」を読んで初めて連作小説であることを知りました。

簡単な概要だけを以下に記します。

菜食主義者

ヨンヘは夢を見てから肉を食べられなくなり菜食のみとなります。
それが高じて精神を病み、もともと愛情の薄かった夫から離婚されます。
夫の供述とヨンヘの心情が交互に描かれています。

蒙古斑

ヨンヘの姉インへの夫が、ヨンヘに蒙古斑があることを知って異様に欲情してヨンヘと性的関係を結びます。
現場に遭遇したインへは夫と離婚します。
過激な性的な描写があります。

木の花火

精神科病棟に入院している妹ヨンヘを気づかう姉インへの妹への思いと自身の心情の内面を描いています。
ヨンヘとは対照的に物事に対して冷静に誠実に忍耐強く接し、生きてきたインへの葛藤が鋭く分析されています。

前回読んだ「すべての 白いものたちの」は、「作為のない透明な精神」を感じましたが、本書では逆に「人間の本質に迫るための作為」を感じました。
容赦なく人間の本質に切り込んで暴いていく、そんな作者の真剣さに正直言いますと若干たじろいでしまいました。
その真剣な姿勢自体は、「すべての 白いものたちの」とも共通していると思われます。
文学者として敬意を表すべきスタンスです。

「著者のあとがき」から以下を引用します。
(ハン・ガン. 菜食主義者 新しい韓国の文学シリーズ. CUON. Kindle 版. )

この小説を書いていたときのことに思いを馳せ、作品のメモ書きをしていたノートを取り出してみました。ノートの最後のあたりには、次のような文章が綴られていました。 
  慰めや情け容赦もなく、引き裂かれたまま最後まで、
  目を見開いて底まで降りていきたかった。 
  もうここからは、違う方向に進みたい。
すっかり忘れていたのに、読み返すと、力んでこんなことを書いていたのを思い出します。そのとき心に決めたように、私はもう違う方向へと進んでいます。違うやり方で進んでいる今、慰めもなく目を見開き、底まで降りていったこの小説のことを思い出します。

本書の神髄は、まさにこのノートに記された文章にあるのではないでしょうか。
まだわたしには理解しがたいところもありますが。
そして、ここでいう「違う方向」とは? 
ハン・ガンの他の作品にも興味が湧きます。



いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集