自己啓発との向き合い方
臨床医をしている森下(仮)です。
前回のキシの記事では、視点の位置を上げることが取り上げられました。
なかなか実践にうつすことは難しいですが、社会人として必要な視点ですので是非とも意識してほしいです。
ところで、医療スタッフや患者さんと会話していると、
自己啓発の内容について話してくれることが多々あります。
「〇〇力」「〇〇の考え方」みたいなものが多いのですが、最近では「マインドなんとか」というワードが増えた気がします。
今回は自己啓発との向き合い方についてお話したいと思います。
1. 自己啓発とは成長を目指すこと
自己啓発の意味はgoo辞書によると
本人の意思で、自分自身の能力向上や精神的な成長を目指すこと。また、そのための訓練
ということだそうです。
SankeiBiz の記事によれば自己啓発は成長産業でいまや1兆円に届く勢いなのだそうです。
動機は何であれ何かしらの成長を目指すことは健全なことだと思います。
私も勉強していることがありますのでこの市場に貢献している一人です。
ですが、少し思うところがありますので以下で述べたいと思います。
2. 選択肢が多いことは必ずしも良いことではない
書店に行くと自己啓発には本当に様々な種類があってどれを選ぶのか迷ってしまいます。
まずは、たくさんの中から選ぶ、ということについて考えてみたいと思います。
選択肢が多いとなんか良い感じしませんか。
新車のシートの色やホイールの形状などたくさんの中から選ぶことは幸せな気がします。
では選択肢が多いことは本当に幸せなことと言えるのでしょうか。
「Art of choosing(選択の科学)※」で有名なSheena Iyengar博士は
選択肢の数が多いことは必ずしも良い結果を生むものではない
ということを示しました。
冒頭で自己啓発本はたくさんの種類が上梓されていると申し上げました。
なにげなく自己啓発コーナーに立ち寄り、
時間をかけてたくさんの本の中から選んだとしても最善ではないのです。
今度は自己啓発本の選択肢がここまで増えた理由について速読術を例に挙げてさらに説明します。
3. 選択肢が増えた理由
速読術はそもそもできるのか否か、
については後日の記事を参照いただくこととして、
なにげに立ち寄った本屋さんで、
なにげに立ち寄った自己啓発コーナーで、
速読法の本を買ったとします。
速読術にはたくさんの種類があるのですが、
それは皆が簡単にできないということを意味していることはご存知でしょうか。
どういうことかというと、
もし簡単にできる方法があるなら多様な種類が生まれることはありません。
1つの決定的な方法があるのみです。
しかし、例えば
速読術Aという方法は1,000人中1人ができる
速読術Bという方法は2,000人中1人はできる
という現状ではまだまだ出来ない人のほうが多いわけですから、
需要がある限り効率的と謳われる異なる方法が生まれます。
ここで重要なことは、
著者は自身が紹介する速読術は誰でも可能である、
と信じて書いていることです。
それに対して読者である私達は誰にでも出来るのではないか、
と錯覚してしまいます。
そしてその錯覚が
「Aの方法では無理でもBの方法ならできるかも」
という希望を生み出します。
このようにして速読術を選んだことの妥当性が評価されないまま、新たな希望が生まれる仕組みがあります。
希望は需要となり、需要に対応するように速読術の種類は増えていると考えています。
ではどのような本を選ぶべきなのか、
ということは別の機会にお話することとしてここではもっと根本的な話をしたいと思います。
4. 選択をすること自体について考えみましょう
一度立ち返って考えて頂きたいのは、
そもそもそれは必要なのか、ということです。
人は目の前に選択肢が提示されると選択したくなります
それがローリスク・ハイリターンなものであれば尚更です。
速読術を例に出したのはその典型的な例だからです。
書店にならぶ自己啓発本には1,000-3,000円の出費で人生が変わるような魅力的な言葉がならんでいます。
これほどローリスク・ハイリターンなものはありません。
いまの自分にとって本当に必要なものが曖昧であると、
現状打破を願い妄想の果てに「本を買うか買わないか」から「どれを買うか」に選択が移行します。
「いまの自分には必要だと思った」から買ったのに読まない、
「読めば必ず仕事の役に立つ」と思って買ったのに読まない、
語学本やスキル本が積み上がっていませんか。
それは選んだ本が間違っているのではなく、
おそらく選んだことが間違っているのです。
趣味であればよいのですが、自己啓発は自身の人生に触れるものも多くあります。
次から次へと習慣を取り込んだり、途中で辞めたりすることは
自身を見失うことにも繋がりかねず、
開始と断念を繰り返すことは自信の喪失につながります。
いま本当に必要なことはなにか
優先して取り組むことを決めていれば、迷うことは少なくなると思います。
漠然と毎日が過ぎ、言葉にならない焦燥感を抱え、自宅には自己啓発に関する書籍が積まれている。
そういった方は今一度自分にとって本当に必要なことはなにか、
について思いを馳せて頂けたらと思います。
そのための私たち「ちょいメシプロジェクト」です。
※)余談ですが、art of choosingの邦訳が「選択の科学」というのは工夫を凝らしているな、と思いました。Artという単語にはセンスをもってなにかを作り上げるようなイメージがあります。必ずしも論理的な選択することだけが正解ではない、ということをタイトルで教えてくれるような原著名、それを示したのが科学であるということを示唆する邦訳、僕は両方好きです。