#169 空から降る一億の星(2002)➖月9全盛期のキモは悲劇ではなく破滅
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明石家さんま&木村拓哉のダブル主演という豪華な顔合わせで送るラブサスペンス。刑事の完三(明石家さんま)とその妹・優子(深津絵里)、そして見習いコック・涼(木村拓哉)は偶然にも船上パーティで出会った。このときすでに、運命の歯車が狂いはじめていたとも知らずに。過去の断片はやがて形を露にし、避けがたい悲劇的な宿命が3人を待ち受けているのだった…。 ラブストーリーの神様・北川悦吏子が脚本を手掛ける初のサスペンス物としても話題に。サスペンスとしての語り口には未熟なところも見受けられるが、過酷な運命を背負った3人に注がれるやさしい眼差しにはならではの魅力がある。交錯する完三、優子、そして涼のせつない思い。25年前の事件の真相が明らかにされていく中、彼らに救いの星は降り注がれるのか?
ドラマ黄金期を築いた月9の秘訣
全盛期のキムタクと明石家さんまが組めば人気が出るのは当然、とは必ずしも言い難い。恋愛ドラマの女王・北川悦吏子先生の脚本のおかげではあるが、正確には『コンプラ度外視』の悲劇によるところが大きい。実際、2000年前後はフジに限らず、一線を超えた描写で視聴者の視線を釘付けにするドラマが多かった。
悲劇1 兄妹の恋愛
殺人犯を銃殺した過去を引きずる刑事・完三(明石家さんま)。殺人犯の遺児(兄妹)の一方・優子(深津絵里)を実の妹として育てる中、別の事件の容疑者・涼(木村拓哉)を追ううちに、生き別れになった兄ではないかとの疑念を抱くが、完三の思いとは裏腹に、関係性を深めていく涼と優子。いわゆる『近親相姦』である。
悲劇2 洗脳
このドラマのもうひとつのテーマが『洗脳』。当時、男の色香を振り撒いていた木村拓哉が、まさに自身の強みを活かし、自分の手を犯罪に染めずに、女性を操り、証拠を残さずに完全犯罪を繰り返す。毒牙にかかったのは、柴咲コウと井川遥。ともに涼のために献身的に身を投げうち、命と引き換えに涼を守ろうとする。当然のことながら、その影響は優子にも及んでいく。
悲劇3 破滅の始まり
終盤は互いへの想いを膨らませる涼と優子の姿に苦しむ完三が、2人の関係を終わらせるため、ふたりの待ち合わせ場所に赴き、交差点ですれ違い様にナイフで涼を刺す。救急車で運ばれたことを知らずに涼を探し続ける優子。犯人について口を閉ざす涼。自身の蛮行に悩み苦しむ完三。ドラマは悲劇を超え、破滅へと一挙に進み始める。
悲劇4 ラスト
妹であることを優子に告げようとした瞬間、犯行を終わらせるために優子に銃撃され命を絶つ涼。涼の懐にあった手紙を読み、兄と恋愛関係にあったこと、兄を射殺したことを知り、ボートに兄を乗せ、自らも命を断つ優子。銃声を湖畔で聞き、絶望する完三。そして流れる『空に星があるように』(坂本九)。視聴者に対してなんらかのメッセージを伝えるわけではなく、ただただ哀しすぎる結末。これが当時のフジ月9のドラマ制作のキモだった。コンプラやBPO審査のある現代では到底描けないトピックに依存してきた分、新たな境地の開拓に苦しんでいるのではないだろうか?
楽曲、サイコー
この音楽が流れるだけでゾクゾクしました。改めて、名作の影に名曲あり、ですね。