【コトノハとは】NODA MAP 「フェイクスピア」
誰にも聞こえない言葉。それは言葉だろうか?
神様は、「ことのは」という最後の一葉を人間に下さった。
ある日、空から降ってきた小さな黒い匣の中には、その「ことのは」が入っていた。
頭を下げろ
それは、永遠プラス66年間、多くの人の耳から盗まれ続けた言葉の数々だった。
頭を上げろ
自殺を考えている息子には、その父の言葉の真意が分からない。父の言葉は何の励ましにもなりはしない。
だが、「目には見えない大切なコトバ」について、星の王子様はさらっと語る。ノンフィクションに宿る物語について、フィクションの巨匠、シェイクスピアの子孫であるフェイクスピアも語る。
そのうちに、小さな黒い匣の中身の正体が分かってくる。
永遠プラス66年前、その男は死んでいく30分前、生きるためのコトバを発し続けた。
ただの一言も、息子に直接かける言葉は口に出せなかった、パイロットを務めていたその男。それでも息子のことを最後まで考えていただろう。
コトバとは、容れ物であり、その中身は容れ物とは異なることもある。「ハイドロプレッシャー」というコトバの蓋を開ければ、そこには息子への想いが凝縮されて存在する。数十年が経った今でも。
息子は、父の歳をとうの昔に超えてしまった。でも、60をすぎても、息子は息子だ。父の姿が永遠に若いままだとしても。
頭を上げろ。雲ひとつない蒼穹に、飛行機雲が一筋。いい天気だ
コトバは目には見えない。だからといって、存在しないわけではない。正常ではない政情に封じ込められようと、その真意を奪ったらコロスとカラスに脅されようとも、それでもなお、自分のコトバも他者のコトバも、全て無かったことにはしたくない。
最後の30分の怒涛のコトバの渦に、ただただ絶句した。
いつものような、どこか突き放したようなNODA MAPとは違い、最後にポン、と野田さんが背中を押してくれた、ように感じた。
高橋一生さん、白石加代子さんはもちろんだけれど、もうとっくにお父さんの歳を追い越してしまっているのに、父を思い出すときは、小さな少年になってしまう橋爪功さんの変貌ぶりが圧巻だった。
機体の頭を上げろ。期待に頭を上げろ。
今日も雲ひとつない蒼穹だった。
一度だけ途中まで行った、御巣鷹山。
今年も8月がくる。
明日も良い日に。