【ショートショート】 哺乳網ネコ目犬科犬亜科キツネ属:通称ゴンの裁き <裁判編>
これまではこちら。
<裁判、当日>
開廷いたします。
哺乳網ネコ目犬科犬亜科キツネ属、通称ゴン、ご起立ください。
あなたのキツネ生についての裁判を始めます。無罪となれば生まれ変わるまで極楽浄土で過ごせます。有罪とならば、閻魔大王の支配する地獄に落ち、その罪を未来永劫償うこととなるでしょう。
では、きつねのゴン。
あなたは中山さまが治める領土の森で生まれ育った。幼少期より、芋を彫り散らかすという器物損壊罪、とんがらしの窃盗、非現住建造物(菜種がら)に対する放火等、数々の罪を犯した。
とはいえ当時のあなたは未成年であり、よって少年法が適用されます。陪審員の方々も、この点を御留意頂きたい。
さて、ある雨のあと。あなたは川で兵十(31)(職業:百姓)が釣りをしているところに遭遇。豪雨後の流れが激しい川で、危険を冒して釣りをしている兵十が釣り上げたうなぎやキスを、あなたはあろうことか、逃してしまった。これは器物損壊罪にあたります。
うなぎに至っては、逃すに止まらず、自ら食ったという証言が寄せられています。また、兵十に目撃されたと気づいたあなたは、そのまま現場から逃走。兵十の人間の足ではあなたのキツネの足には到底追いつけませんでした。
その後、兵十の母(53)が死亡したことを知ったあなたは、幾ばくかの良心の呵責を感じた。そこまでは良いでしょう。ですが、償いの必要性を感じたあなたは更に罪を重ねた。イワシ売りからイワシを盗んだそうですね。しかも5匹。
村人弥助の証言もあり、当初窃盗犯は兵十であると断定され、兵十は無実であるにも関わらず、イワシ一匹につき一発という暴行を受けた。これは兵十に対する名誉毀損罪に相当します。
あなたは、盗みは悪いことだとご両親から教わらなかったのですか?罪の償いをしたいのであれば、自らイワシを取れば良いものを、人様が釣ったものを盗んで償いのために別の誰かに寄越す。これを罪と言わずしてなんと言うのでしょう?
ただし、その後栗や松茸を自ら拾って運んでいたことには、反省の跡が見受けられます。情状酌量の余地ありとしても良いでしょう。
村人たちは、栗や松茸を兵十に恵んでいたのは神様(年齢不詳)だと思っていたようですが、それを知った後も、あなたは心折れることなく毎日のように、栗を兵十に届けた。立派な心がけです。人の目の届かないところでの努力こそ、仏の道に通ずるのです。
そして事件当日。
栗を持ってきたあなたを見かけた兵十は、前科者のキツネであるあなたを、問答無用で射殺した。あなたが銃を所持しておらず、また攻撃を加えようとしていなかったことから、兵十の所業は過剰防衛と言わざるを得ません。
あなたが所謂「すねに傷負うもの」であり、その点については多くの村人からの証言もありますが、当日の状況だけを鑑みたとき、果たして兵十の行為は許されるべきなのか。
窃盗、器物破損、放火、名誉毀損。
30日分の栗と松茸。悔い改める心持ち。過剰防衛の可能性。
陪審員の皆さんには、これらの全てを鑑みて、ゴンの魂を裁きの天秤にかけて頂きたい。
***
ここにいる哺乳網ネコ目犬科犬亜科キツネ属、通称ゴン。無罪として極楽浄土へ送らるるべきか、はたまた地獄へ落とされるべきか。
判決は皆さんにかかっています。
ゴンが有罪と思う方、挙手を。
(間)
ゴンが無罪と思う方、挙手を。
***
判決後、法廷を歩き去るゴン。ふと立ち止まり、振り返って現世の方角をみる。
「兵十。この判決を、お前はどう思うんだい?
<おわり>
オリジナルはこちら。
皆さんは、ゴンを有罪としますか?それとも無罪でしょうか?
人にもキツネにも、無生物にさえも、外からは分からない事情や裏話や生い立ちがあるものです。それは現実世界でも変わりません。
既存の物語を複数の視点から描いてみる、の試みでした。
お楽しみ頂けたなら幸いです。
明日も良い日に。
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