パンクで、アナーキーで、ワーグナーで、シェークスピアな古典芸能:5月文楽「妹背山婦女庭訓」
ちょーーーーー頭悪い感じでいきます!
5月の文楽、通し狂言「妹背山婦女庭訓(いもせやまおんなていきん)」
ええっとまずですね、通し狂言は全部を見ると
10:30から20:55
なのです!!!何これ、ワーグナー?!って思うじゃない。さすがに無理なので、夜の部のみで行きました(一応、昼の部、夜の部、に分かれています)
でもね、この夜の部も... 15:45開演なんですよ。夜じゃなくね?おやつの時間やん。でもこの時間に始まっても、終わるのは21時なんだよ。すごいよねこれ。やっぱワーグナーだよね。
んでね、中身はね。
ちょーーーーーーアナーキーでパンクで、ドリフで、宝塚のダンスフィナーレで、シェークスピアでした!!!
夜の部のしょっぱな、3段目。妹山背山の段。
正式なあらすじはこちら。
内容は「ロミオとジュリエット」的悲恋ですが、仲違いしている両家の親御さんが、子供ら抜きでこっそりと破談交渉するところがシェークスピアとはちょいと違います(最後に和解するのは同じ)子供にとって良かれいう親心故の行動ですが、その分、ロミジュリよりもすれ違いが重層的になるのです。
ただし... お子様2人が、お互いへの恋心を貫いて死んだ後がアナーキーなんです。
ジュリエット「雛鳥」姫が、大好きなロミオ久我之助を思うあまり、意の沿わない蘇我入鹿への入内を断って、死を選びます。それを承知したお母様がスパッと殺してしまうのです。我が子可愛さゆえに。でもそれが、
斬首なの。
娘の首を。
お手ずから!
いやーーーーーーーーーーーー!
その間に、ロミオ久我之助も、お家の為、義理の為、雛鳥ちゃんだけでも生きていて欲しいと願いながら切腹を決意します。んで、腹に短刀を突き刺して、お父様に介錯をお願いするんだけど...
ととさま、介錯をためらうの...
早まるな、とか言って。いやもう楽にしてあげてよ、頼むから。んで、その後も延々語り続けます... ねえねえ、見えてます?あなたが歌舞伎的見栄を切ってる間、背後の息子さん、のたうちまわってますけど!!!
気が気じゃないことこの上ない。その話し、今じゃなきゃダメ?(ダメなんです、物語の進行上)その間もロミオ久我之助、時折フルフルしたり、ととさま見上げたりと、きっちり小芝居入れるのです。ああもう、どうにかしてあげて。
ロミオがフルフルしている間にも、ジュリエット雛鳥ちゃんのかかさまが、「嫁入り道具に」とかいって、飾ってあったお雛様と一緒に、さっき自ら切り落とした娘の生首を、川向こうのロミオ久我之助(のお父さん)に送り付けます。祝言を、とか言って。
切り落としたての娘の生首よ?綺麗な布に包んで、お雛様のカゴに入れて、川向こうに流すのよ?え?何これホラーなの?
さらに、その首をととさまは、息子さんに手渡します。受け取ったロミオ久我之助は、最愛のお姫さまの首を愛おしそうに愛でるわけ。
腹に短刀突き刺さったままで
そこでさらに、ととさまはのたまいます。「雛鳥ちゃんと、もうずーーっと夫婦だよ。あの世でさっさと夫婦にしてあげるために、これから介錯したげるね」って。
いやあの、さっさと...(以下略)
あの世で添い遂げる女性の首をひしと胸に抱く息子が、ここでようやく介錯されます。すぱーんと。(まじ見事。人形とは思えません)
息子さんと息子さんのお嫁ちゃんの2つの首を両脇に抱えるととさま。ここで...
幕が落ちるのです...
これをパンクと言わずになんという?!
文楽、すごい。これぞ、アナーキー・イン・ジャパン!!!!!!!!!
...あ、真面目な感動ポイントも沢山あるんです。
まずこの演目、とっても豪華でございます。
3段目は、太夫と三味線が、上手と下手両方にいらっしゃいます。ロミオ側とジュリエット側それぞれに1組いらっしゃることになるのです。(普通は上手にしかおりません)よって、掛け合いがステレオで聞こえます!しかも、両家の親御さんが同時に子供への愛情を謳いあげるところは、ハモるんだ!!!
雛鳥ちゃんを演じた織太夫さん。他の太夫はあまり動かないのですが、彼はとてもドラマチックに体を使って表現する!これはもしかしたら、伝統的には無しなのかもしれない。でも、彼が発するドラマは、篤い。お人形を見なくても、彼を見ていればお人形の動きが分かるのです。例えば前の勘三郎さんが歌舞伎に新たな息吹を吹き込んだように、織太夫さんは古典文楽に新たな息吹を吹き込むのかもしれません。
そして4段目。
場面がいくつかあるので、順番に一言。
杉酒屋の段は、ドリフのショートコントw すっちゃらかっか、すちゃらかかっか、って拍子すら聞こえてきそうでした。(年代...)
道行恋苧環の段は、道行といえば道行ですが、女2人で男を取り合う昼ドラです。そして後半は、宝塚ばりのダンスレビュー!
鱶七上使の段は... ごめんなさい、ここ少し意識が飛んでて... 割愛です。
姫戻りの段と、金殿の段は、お三輪ちゃん(キャラ名)を操る人形役割の桐竹勘十郎さんを見て!の段。(これは道行にも言えること)
勘十郎さんの操る娘のお三輪ちゃんだけ、別格なんです。人に見える。関節の動きが人間にしか思えません。他の人より、お人形の関節が1つ2つ多いんじゃないの?と疑いたくなるくらい。
別ジャンルになりますが、早乙女太一くんの殺陣は、他の人よりも手がいくつか増えて早い。そんな感じです。他のお人形も、もちろん人に見えるんです。でも勘十郎さんのお人形は、動きが多い。ちょっとした仕草とか、脊髄反応的に出てくる首のかしげ方とか、意思を通す時の意識の欠片とか。人間が無意識にやってる動きが、全て再現されているのです。踊りもそう。日舞を舞っているお嬢さんにしか見えません...
全体を通して言えるのが、そもそも設定がパンクミュージカル。
蘇我入鹿が第六天魔王的な描写になっていたり、陰陽師っぽいおまじないが出てきたり。時代錯誤の妙って、パンクじゃない?パンクですよね?!定義的に!
江戸時代という時代は様々な文化が花開いた最先端時期でもあり、洒落者が多い時代だったのだ、と改めて思えた演目でした。
ところでこの演目、蘇我入鹿にまつわるファンタシーも入り混じった物語なのですが、蘇我氏が討伐されて、日本史初の元号「大化」が始まります。だからこそ、令和元年にかけたのでしょう。
パワープッシュ。これは凄い。