凶悪な熊に噛まれ、ダンプカーに立ち向かう人生

プーさんをなでると、噛まれる。
噛まないで、と怒ると、プーさんは
「ごめんなさい」と言って頭を下げる。
下げた頭の先にあった私の足を噛む。
噛まれるたびに私は「痛い!」と叫ぶ。
必死で手や足を熊(プーさん)の牙から引き剥がす。
再び「手も足も噛まないの!」と怒る。
熊の野郎(プーさん)は、首を傾げ「はぁ?」という顔をする。

息子が「もう一回!」と要求し、再び猛獣(プーさん)のぬいぐるみを使った自作自演の舞台を始めさせられる。
凶悪動物(プーさん)の牙から手足を引き抜く必死の演技で、結構疲れる。
それでも私はモンスター(プ略)と戦い続けなければならない。
息子が笑ってくれるから。


戦いは風呂場でも起こる。

「焼きそばソーメンやって」と息子が言う。
開幕の合図だ。
手桶で手早く焼きそばとソーメンを炒める振りをする。
ソーメンは普通炒めないがそこはスルーする。
三歳の息子監督が望むのは事実ではない。
情熱とリピートだ。

出来上がった焼きそばソーメンを息子に差し出す。
息子は美味しそうに食べる。
残った分を私に差し出す。
その際に何かを入れる振りをする。
ここは唐辛子ということにしよう。
監督からの指示がない時は、演者のアドリブに任せられている。

「辛い!」と言い、舌を飛び出させる。
「あぁい、ひず、ひず(辛い、水、水)」
息子は小さなカップにお湯を入れる。
他にもいろいろ入れる。
今回は「ピーマン、熱い、ダンプカー、爆弾!」らしい。
私は口中の辛さを和らげるために水を飲む振りをする。
「苦い!(顔をゆがめる)」
「熱い!(熱湯を飲んだような演技)」
「ダンプカー!(とりあえずダンプカーと叫んでみる)」
「ボゥン!(胸の中で爆弾が破裂した音)」
様々なリアクションをする私を見て息子は爆笑している。

ダンプカーのところはどうにかならないものか、と悩んでいる。
今のままでは、爆弾の演技と同じではないか。
人はダンプカーを飲み込んだ時、どのような状態になるのか。
検索しても出てこない。
演技に正解はあるのか。
それは人生という言葉にも、遊びという言葉にも置き換えられる。

「もう一回!」
「次で最後ね」

こんな遊びにも、いつか本当の「次で最後」が訪れる。
その時が来るまでは、付き合うよ。

入院費用にあてさせていただきます。