僕らはみんな自分の尺度で生きている
「サムギョプサルが食べたい!」
「今日の夜ご飯どうしよっか」という私の質問に対して、妻がハッキリと答えました。
いつもなら、「なんでもいいよ」とか、「なんか美味しいもの」といった気のない返事が返ってくることが多いのですが、今日は違いました。
知っている方も多いと思いますが、サムギョプサルは、焼いた豚肉をサンチュで巻いて、サムジャンソースというピリ辛の味噌ダレをつけて食べる、韓国版の焼き肉のような料理です。
妻はきっと連日の韓国ドラマの影響で、無性にサムギョプサルが食べたくなったのでしょう。
かくいう私もサムギョプサルは大好きなので、妻の意見に賛同して、今夜はサムギョプサルを作る事にしました。
そうと決まれば、まずは買い出しです。
妻が言うには、いつも行く近所のスーパーよりも、少し離れた所にあるスーパーの方が安いということだったので、私は妻の電動自転車を借りて、そのスーパーに行ってみることにしました。
身支度を整えて外に出ると、気持ちのよい冬晴れで、空には数えるほどしか雲が浮かんでいませんでした。
私は自転車にまたがり、目的のスーパーへと向かいます。
冷たい空気の中、普段は通らない道を自転車で走っていると、なんだか知らない街に来たような気がして、心がリフレッシュされていくのを感じました。
スーパーに着くと、駐輪場に自転車を停めて、さっそく入店します。
すると、どうやらこのスーパーは一階と、地下一階に売り場が分かれているようでした。
地下には青果、鮮魚、お肉、惣菜などの売り場があり、地上一階には調味料やお菓子、ドリンク、日用品などの売り場があるようでした。
「地下から行くとスムーズにお買い物ができます」という張り紙が貼ってあったので、私は素直に地下の売り場から見て回ることにしました。
階段を降りて地下に行くと、まずは青果売り場です。
妻が書いてくれた買い物リストには、
豚肩ロース ブロック 300g〜
かいわれ 1パック
サンチュ いっぱい
キムチ 1パック
コチュジャン 1パック
味噌 1パック
と書かれていたので、私はお徳用のカイワレを1パックと、サンチュを4パック買い物カゴに入れました。
青果売り場を後にすると、次はお惣菜売り場です。
いつも行っているスーパーよりも豊富な種類があり、お値段も優しいお惣菜に目を奪われて、私の足は止まりました。
色とりどりのお惣菜達が透明なラップフィルムに包まれて、店内の照明を反射させているショーケースは、まるで銀座の宝石店のように魅惑的でした。
晩酌のお供に何か買っていこうと思い、どれにしようかとショーケースの中を物色します。
枝豆、唐揚げ、磯辺揚げ。
イカ焼き、カツ煮、焼き鳥、刺身。
私は散々悩んだ挙句、鰯の南蛮漬けと、娘のおやつという名目で、フライドチキンを買う事にしました。
鴨のパストラミという商品も一度手に取ったのですが、量のわりに290円とあまりにも安かったので、私は逆に不安になってしまいショーケースにそっと戻しました。
次はお肉売り場です。
私は国産豚肩ロースのブロック肉の中から、柔らかそうな部分を選び、手に取りました。
450gとなかなかの大きさだったのですが、足りないよりはいいだろうと思い、それを買い物カゴに入れて、地下での買い物を終えました。
階段を上がり、地上1階へと移動します。
売り場へ入ると、目の前には私の心の楽園であるお酒売り場が広がっていました。
しかし、私はこのあと酒屋さんに行って日本酒を買う予定だったのと、妻に自転車を返さないといけない時間が近づいていたので、今日はそこに足を踏み入れないことにしました。
一度迷い込んでしまったら、なかなか抜け出せなくなることを私は知っていたのです。
お酒売り場がなるべく目に入らないように注意しながら、残りの品を買い物カゴに入れてしまうと、私は急いで会計を済まし、スーパーを後にしました。
帰り道、自転車を漕ぎながら「いつもと違うスーパーに行くのは、はじめてのおつかい大人版みたいで楽しいな」なんて思っていました。
たとえ、どんなに近場であったとしても、行ったことのない場所に行くというのは、なにかしらの刺激があるものなのです。
「ただいま」と家に帰ると、すぐに妻が、
「ねえ、サンチュ何パック買ったの」と聞いてきました。
私は答えました。
「4パックだよ」
すると妻は言いました。
「2パックでよかったんだけど…」
人によって「いっぱい」の尺度は違うみたいです。