宇宙の入り口でホットドッグを貪る
私はホットドッグが好きです。
ジャンクなものを食べているという罪悪感も、片手で食べれる手軽さも、パリパリのソーセージも、ケチャップも、隙間に身を潜めているピクルスさえも、どれをとっても最高です。
そんなホットドッグは、ドイツのフランクフルトという街で食べられていた、フランクフルターというソーセージを、アメリカに渡ってきたドイツ移民たちが持ち込んだのが始まりと言われています。
フランクフルターはもともと手掴みで食べられていたのですが、当然のことながら、手掴みでソーセージを食べるのは非常に熱いです。そこで、どうやらパンで挟むと熱くないぞ、ということになりパンに挟んで提供するスタイルが出来あがりました。
そして、このパンに挟んだフランクフルターは、片手で手軽に食べられるなどの理由から、野球観戦のお供として広く知られるようになりました。
その頃、パンに挟まれたフランクフルターの茶色く細長い見た目が、犬のダックスフントによく似ていることから「ダックスフントソーセージ」と呼ばれるようになりました。
そしてある日、野球場に訪れた漫画家のタッド・ドーガンが、そこで売られていたダックスフントソーセージにインスピレーションを受け、パンに挟まれたダックスフントを漫画に描きました。
タッド・ドーガンはそこに、添え書きとしてダックスフントと書こうとしましたが、スペルがわからなくなってしまいます。そこで、とっさに「ホットドッグ」と書いたものが新聞に掲載され、それが評判を呼びホットドッグという呼び名が定着したのです。
私は高校生のころ、地元の駅の近くにあったドトールコーヒーで、よく仲間たちとたむろしていました。
そして、そこで売られているジャーマンドッグというホットドッグを、私は仲間たちと一緒に夢中で食べていました。
パンはパリパリでソーセージはジューシーで、それでいてリーズナブルかつ、程よくボリュームのあるジャーマンドッグは、お金のない私たちにとってとても強い味方でした。
そこから更に遡ること約3年。当時中学生だった私は、その頃もまた、ホットドッグに夢中になっていました。
私には5つ上の姉がいるのですが、幼い頃から姉にいじめられて育った私は、頭の中に、姉イコール悪魔という方程式が出来上がっていました。
ですが、ひょんなことから、姉がホットドッグプレスという雑誌を所有していることが判明し、私はそれに強く興味を惹かれたのでした。
ご存知の方もいるとは思いますが、当時のホットドッグプレスと言う雑誌は、思春期の男の子には
、少々刺激の強い記事が載っている雑誌でした。どうして姉がその類いの雑誌を所有していたのかは謎ですが、まあ、そういう時代のそういう年頃だったのだと思います。
ある日、姉も両親も出かけている隙に、私は意を決して、己を奮い立たせ、絶対に立ち入ってはいけないとされていた姉の部屋に侵入しました。そして、積み重なる雑誌の山からなんとかホットドッグプレスを見つけ出し、盗み読みをやしたのです。
姉に見つかったらどうしようというスリルと、まだ見ぬ世界の一ページをめくるドキドキに、私の心臓は爆発寸前でした。
もし仮に、今姉が帰ってきてしまったら、私という存在は儚く散ってしまう。そう頭では分かっていながらも、ホットドッグプレスを読み漁る私の手は止まりませんでした。
人間が初めて宇宙の存在を知り、月面に降り立ったように、私はホットドッグの存在を知り、姉の部屋に降り立ったのです。
私はその記念に、自分の名前を記した旗でも残してこようかとも思いましたが、そんなことをしたら、私はブラックホールに飲み込まれる宇宙の塵と化してしまうことに気が付き、なんとかその欲求を抑え込みました。
実は、私は事前調査で知っていたのです。
姉の部屋の壁に貼られた、小沢健二とスチャダラパーのポスターの裏側には、怒りにまかせて姉がこじ開けた、大きなブラックホールが広がっていることを。