秋季福島大会ベストナイン2024
福島の高校野球を彩る次世代スターズ
投手 伊奈蓮樹(東日大昌平)
捕手 大栄利哉(学法石川)
一塁 菊地政善 (聖光学院)
二塁 林咲弥(学法石川)
三塁 芳賀優磨 (学法石川1年)
遊撃 髙崎太智(いわき湯本)
左翼 井上陽翔(東日大昌平)
中堅 小宅海叶(学法石川1年)
右翼 佐藤界翔(東日大昌平)
DH 星純太(光南)
救援 菊池祥志(学法石川)
福島の打は東北トップレベル
打高投低に着目
大会序盤はワンサイドゲームが目立った秋季福島2024。
ベスト8以降の終盤へと進むにつれて締まった試合が続いたものの、総合的に見て打高投低の傾向にあった大会だ。
からの裏返せば『投』は絞られてくる
1学年上の高野結羽(聖光学院)ではないが、他を圧倒する成績を残した伊奈蓮樹が今大会の大本命投手だ。
チーム事情などにより投球回数は少ないが、学法石川の菊池祥志もドクターKぶりの奮闘を見せた。とりわけ、この2人が群を抜く成績を残している。
『打』は秋デビュー組が躍動
野手では今大会優勝した聖光学院よりも準Vの東日大昌平、あるいは福島3位の学法石川の方に、好成績を収めた球児が集まる結果に。
ベスト8組の光南、いわき湯本と磐城の「公立勢3校」も強打を誇った分、それ相応の成績を残した球児が複数いる。
そうしたなかで際立ったのが、1年生ながら大会最多の14安打を記録した学法石川の2番ショート固定「芳賀優磨」だ。
同じく1年生で学法石川の新リードオフマンを担った小宅海叶も、持ち前の俊足を生かした二桁安打、かつ大会最多の6盗塁をマークしている。
今大会の打点王として頭角を現した井上陽翔は2年生だが、芳賀や小宅と同じく、この秋デビューでチーム初戦から東日大昌平の4番の座を明け渡さなかった注目の1人だ。
髙崎太智と星純太の公立コンビ
光南の星純太も、この秋デビューで、3試合ながら11打数7安打8打点と大暴れ。いわき湯本の髙崎太智は旧チームから活躍する、攻守ともに定評がある名ショートだ。
この秋はチーム初戦から3試合連続猛打賞と爆発し、終わってみれば全4戦で12安打、芳賀に次ぐ大会2位のヒット数を積み上げている。
目下のところ青森山田より上
安打王の芳賀優磨、打点王の井上陽翔、公立期待の髙崎太智と星純太の4人に関しては全員、打率6割オーバー。これは実に、とんでもない数値だ。
青森チャンピオンとして東北大会に進んだ、優勝候補の青森山田も超絶強力打線を誇ったが、芳賀ら福島の4人衆はそれを優に上回る。
青森山田はダブル佐藤を中心に夏の甲子園ベスト4の底力を発揮したが、秋季大会の詳細については以下を一読する方が早い。
ベストナインの選考について
そんな訳で、今回の福島ベストナインについては、大会を通じてキラリと光る一芸を残した球児に焦点を当てた。
その上で8強以上の進出校、3試合以上かつ10打席以上という線引きから、ドラ穴独自によるベストナインを選出している。
一芸アナザーストーリー
ちなみに今回の秋季福島大会でのホームラン数は4本。いづれも大会序盤に飛び出したのが、白河実業の八代琉優斗、会津の渡部大和による公立勢の2発だ。
特に八代は3試合で13打数6安打と好成績を収めたが、白河実業も会津もベスト8には届かず。
ベスト8に進んだ同じ公立の光南、いわき湯本と磐城には八代を上回る打撃成績を残した球児が複数いることから、今回は2人のスラッガーを見送った。
それでも白河実業の二刀流としてチームを支え、大会第1号で話題をさらった八代、そして渡部の2人は特筆せざるを得ない。今後の活躍に注目だ。
こうしたアナザーストーリーがあるなか、ここから先は上記以外のベストナイン球児を今大会の優勝校から順に見ていこう。
ベストナインの選出はないが、磐城も特別枠として軽めにクローズアップしてある。
聖光学院(優勝/東北大会出場)
東北大会の開催地である福島のチャンピオン校として、ホームで迎え撃つ聖光学院。
安定感ある打撃陣
重量打線とまではいかないが、準決勝以下の4試合はつなぐ野球で大量得点に結びつけている。三振数の少ない好球必打が、新チームの特徴だ。
中心選手の菊地政善は下級生ながら旧チームで唯一のスタメン、それもクリーンアップに座り、甲子園の舞台も経験している「福島最強右スラッガー」。
今大会は待望の公式戦初ホーマーが飛び出し、今後の活躍次第では同校OBの佐藤都志也や山浅龍之介以来となる野手でのプロ誕生という可能性も秘めている。
この秋デビュー組のなかでは、決勝戦で4番を務めた遠藤颯斗、新たなリードオフマン候補の坂元壱が成長株だ。
1年生左腕が東北大会でのキーマン
投手陣は左右二枚看板のエースナンバーを背負う、大嶋哲平が先発の軸。右の管野蓮がセットアッパー、もしくはクローザーという継投策が主流になる。
管野と同じく2番手以降を担った1年生左腕の古谷野太心は9.1回と出番こそ少ないが、自責点0、10奪三振とポテンシャルの高さを伺わせている。
古谷野の投球術は秋季東北大会における、1つのキーマン的な存在になるだろう。
東日大昌平(準優勝/東北大会出場)
エースがしっかり抑え、主軸で確実にランナーを返すという、いわゆる王道野球を実践した東日大昌平。
超絶危険すぎる3・4番コンビ
今大会は旧チームの時から4番を張っていた佐藤界翔が3番に回り、前述した井上陽翔との新3・4番コンビだけで21安打と打ちに打ちまくった。
さらに2人合わせて17打点、とりわけ井上は得点圏でも驚異の12打数9安打、打率7割5分とレベチな勝負強さを発揮している。
井上も佐藤も、相手投手が右であろうが左であろうが、おかまいなし。得点圏においても同様だから、手が付けられたもんではない。
福島を代表する本格派右腕
チームの勝利貢献度なら、この秋からエースナンバーを背負った伊奈蓮樹の防御力も絶大だ。
聖光学院との決勝戦ではクローザーに回るも、延長10回サヨナラ押し出しという苦汁を飲んだが、それ以外はチームの全4試合で先発のマウンドを務めている。
結果も2完投、クオリティスタートおよびハイクオリティスタートいずれも3回成功と抜群の成績を残した。
伊奈も佐藤と同様に旧チームから試合に出場し、この秋に公式戦初先発のマウンドを踏んだ。
結果は2回無失点の調整的な降板ながら、次戦以降のは3戦連続完投(コールド勝ち2試合)に弾みをつけている。
東日大昌平プロ第1号への道
東北大会でのセンバツ切符はもちろんだが、冬場の大幅な球速アップに成功すれば、東日大昌平初のプロ野球選手誕生も見えてくるはずだ。
同校OBでは2022年に高卒でDeNAと育成契約を結んだ右腕の草野陽斗が記憶に新しいものの、まだ支配下登録にはいたっていない(2024年10月8日時点)。
草野が先か、それとも伊奈が追い抜くか。まだ先の話ではあるが、そんな期待がもてる活躍を、伊奈は今大会を通して魅せてくれた。
学法石川(3位/東北大会出場)
前述した芳賀&小宅の1年生コンビ以外にも、チームトップの8打点をマークした林咲弥、プロ注目の三刀流こと大栄利哉らを擁しながらも福島3位に甘んじた学法石川。
分水嶺となった準決勝での聖光学院戦をコールド負けで落としたものの、そこから底力を発揮し東北大会の切符を掴んでいる。
ふたば未来との3位決定戦は結果8回コールド勝ちながら、決して楽な展開ではなく、むしろゲーム中盤までは聖光学院戦さながらに打ちあぐねた。
そんな学法石川が終盤に本来の力を取り戻し、ゲーム中に捲土重来を果たせた点は大きい。この経験は必ず、東北大会でも生きてくるはずだ。
チームの顔「大栄利哉」
今大会は1年生コンビや林ら新メンバーがスタメンに名を連ね、まさに百花繚乱の活躍ぶりを見せたなか、旧チームから不動の4番に座る捕手三刀流の大物がいる。
正捕手にして、マウンドでもMAX144kmを誇る左の大砲、大栄利哉だ。今大会では昨秋以来の自己キャリアハイを記録し、見事な復活劇を遂げている。
福島の新ドクターK
投手陣は大栄同様に旧チームでの実戦経験が豊富な佐藤翼と菊池祥志を軸に、新たに加わった1年生小出一護という3人体制だ。
今大会からエースナンバーを背負った佐藤は夏とは一転し、打ち込まれる機会が目立ったなか、対照的な活躍を見せたの菊池だ。
旧チームの時は、それほど出番はなかったが、今大会は決め球に磨きがかかり、三振の山を築いている。
そんな学法石川といえば、かつての大洋(現DeNA)で一時代を築いた遠藤一彦を皮切りに、オリックスの先発ローテを担った川越英隆など投手のOBを多く輩出。
さらに学法石川の佐々木順一朗監督は投手出身で、前任の仙台育英では数多くの教え子をプロ野球界に送り込み、その育成力にも定評がある。
それを踏まえると、菊池自身のポテンシャルはもちろん、やはり伸びしろしかない。
光南(ベスト8敗退)
星純太と大槻峻平の3・4番コンビを軸とする強力打線をもって、準々決勝まで進出した県立の光南。
ベスト4を懸けた学法石川との一戦は、絶好調な3・4番コンビがスクイズやマルチ安打で奮闘し、5番の室井久陽も一発を叩き込んだものの、打線が繋がらず。
チームトップの4盗塁をマークした五ノ井悠も足で魅せるなど、最後まで接戦を繰り広げたが、あと一歩およばなかった。
パワーの源は寮母のガッツリ飯
投手層は公立校としては5人と厚い方ではあるが、3・4番コンビの活躍ぶりに比べると物足りない。
3・4番コンビは2人で全3試合16安打を記録しているが、投手陣は軸2人で17被安打10自責点も許した。
冬場の投手力アップは必須課題だが、そんな球児たちを長らく支える下宿先が光南にはある。冒頭で触れた矢吹町名物の妙見食堂だ。
光南高校から3kmほど北上した場所で大衆食堂を営む傍ら、かれこれ約30年にわたり下宿生の受け入れもしている。
区域が広範囲におよぶ東北ならではの伝統だ。詳しくは下部(2番ファースト 星純太)の動画で確認してくれ。
中畑清を生んだ矢吹町、光南著名OBの大竹風雅
それとは別に近頃の光南OBといえば、2021年に大卒ドラフト5位で福岡ソフトバンクに入団した大竹風雅の話題が記憶に新しい。
さらに光南高校がある福島県矢吹町といえば、絶好調男こと中畑清の出身地として有名だ。
地元から郡山の安積商業に進み、大学を経て巨人に入団した、福島が誇る最も有名なプロ野球選手にして公立の星としても語り継がれている。
いわき湯本(ベスト8敗退)
旧チームから主力選手として勝利に欠かせない存在にあった髙崎太智に加え、この秋デビューの高萩智煌らを擁し、ベスト8まで進んだ県立いわき湯本打線。
福島最強ショートの髙崎を軸に善戦
髙崎は持ち前の俊足を武器に大会2位の12安打を記録し、高萩は敗れた聖光学院戦こそノーヒットに終わったが、それまでの3試合で8安打の固め打ちを発揮している。
彼ら以外にもトータル3安打ながら、スクイズや得点圏での長打でチームトップの6打点を稼いだ、旧チームのベンチ入りメンバーである石井希周の活躍も大きい。
1年生にも2人の注目株
1年生では野崎遥斗が筆頭株だ。投げては4.1回4安打5奪三振1自責点、打っても12打数5安打の二刀流と呼べるデビューを果たしている。
学法石川の附属中学(石川義塾)出身という小泉大朗は、17打数3安打と低迷のまま終わったが、キャリア的に今後も注目の選手だ。
いわき湯本に進学を決めた経緯は明らかにされていないが、この秋デビューで不動の3番を託されている。
磐城(ベスト8敗退)
福島を代表する「公立の雄」
福島屈指の進学校にして、かつては夏の甲子園で準優勝の実績を誇る古豪、県立磐城高校。
甲子園での実績は準Vにとどまらず、春夏合わせて10回の出場、記憶に新しいところでは前述で触れた新型コロナによる「幻の21世紀枠」が話題に。
そこからの古豪完全復活とまではいかないが、いわば近年の六大学野球の東大に見られる、文武両道の二刀流な躍進劇で魅了したのが、今大会の磐城だ。
とはいえ、そこまで打つ、抑えるというようなタイプのチームではない。打つ時は打つ、投手陣は打たれながらも逃げきってきた、が今大会の磐城だ。
二刀流「篠木」&安打製造機「上遠野」
中心選手は、投打二刀流の働きでベスト8進出の原動力になった篠木翼、1年生ながらチームトップの7安打を放った上遠野蒼太の2人。
篠木はチーム最長の11.2回を投げ1失点の防御率0.77、打っても8打数5安打でチームトップの6打点という大車輪の活躍を見せた。
今後の課題はクリーンアップを第一とする、投打の底上げだ。
ポテンシャルの高い篠木と上遠野を擁するだけに、冬場のアップデート次第では、春の連発ジャイアントキリングも十分に有り得る。
福島WCA打線を組んでみた件
クリーンアップが2つ出来ることから、名付けて「福島ダブルクリーンアップ打線」。それだけ超強力な重量打線だ。
6・7・8番が2つ目のクリーンアップになる。
1番センター 小宅海叶(右投右打)
通算打率.400 OPS.909 出塁率.429 長打率.480
右腕キラーの福島盗塁王
打率はそこそこながらも二桁安打を記録し、チャンスメイクできる足が魅力の小宅海叶。
定石を覆す右対右の打率が5割超(15-8)と異例な数値を叩き出した、頼もしい核弾頭だ。長打力タイプではないが、得点圏での勝負強さも発揮している。
2番ファースト 星純太(右投右打)
打率.727 OPS 1.477 出塁率.750 長打率.727
ゲームを左右するキーマン
チームトップの打点と安打数を記録した光南の要。対右・左を問わず、得点圏においても同様に無類の勝負強さを発揮した。
仮に1番の小宅が左腕で倒れた場合、星が攻撃の起点になる。
本職のセカンドでは無失策と守備力も高い。DH解除でのユーティリティな守備固めとして重宝できる。
下宿先の妙見食堂にて
そんな星や五ノ井ら一部の野球部員を日々支えているのが、下宿先である妙見食堂の寮母だ。
体力づくりに欠かせない“温もりある食トレ”はもちろん、常に球児目線で寄り添う懐の広さも、多感な時期を過ごす彼らの成長には欠かせない。
3番サード 芳賀優磨(右投左打)
打率.636 OPS 1.419 出塁率.692 長打率.727
福島安打王
星同様に対右・左を問わず、大会最多の14安打をマークした、学法石川が誇る期待の1年生ショート。
このヒットメーカーを3番に置くことで、仮に小宅と星の1・2番が倒れたとしても、しぶとくチャンスの機会が狙える。
4番キャッチャー 大栄利哉(右投左打)
打率.476 OPS 1.291 出塁率.577 長打率.714
福島随一の三刀流
学法石川の正捕手にしてマウンドにも上がり、打っても長打を炸裂させる来年のドラフト上位候補。
定石に反する左対左で打率7割超(7-5)、しかも得点圏は打率10割(5-5)と末恐ろしさ極まりない。
それでいて対右も打率3割半ばと苦にしておらず、まさに非の打ち所がないタイプだ。
投手の出番は今大会なかったが、昨秋から全大会でマウンドに上がっていることを踏まえれば、東北大会ではピッチングシーンが見られるかもしれない。
不運のセンバツからV字回復
昨秋の福島大会でデビューし、続く東北大会も含めた打率4割弱13打点の躍動でセンバツ切符に貢献した大栄。
デビュー戦から4番に座り続け、投手としても東北大会までの7試合に登板し防御率0.93(29回3自責点)と好成績を収めている。
ところがセンバツ開幕まで1ヶ月を切った日の朝、思わぬ不運に見舞われてしまう。
秋の活躍が知れ渡ったことで、学法石川はセンバツでも上位進出が予想されていたが、結果は健大高崎の前に初戦敗退。
代打として聖地の土を踏んだ大栄も、不完全燃焼のまま終わることに。
続く春、夏の大会も怪我の功名とはいかず、長らくスランプに苦しんだなか、デビュー時の1年秋を上回る自己キャリアハイとなったのが今回の福島大会だ。
ということで、大栄利哉の貴重な名シーンの数々を見ていこう。
カナノウ吉田大輝vs大栄利哉
8回から登場した金足農業のエース吉田大輝との2打席目、大栄がライト前に運び1勝1敗の五分としている。
石垣元気との聖地対決
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幸運とは、ちゃんと身銭を切った人だけに返ってくるもの。それこそが本当の「金は天下の回り物」。