結局、出来るようになってからが楽しい
中学生の時、何を血迷ったかサッカー部に入った。
今でこそ一番好きなスポーツ、いや一番好きなものになったが、それまでやったこともなければ、試合も見たこともなかったし、オフサイドすら知らなかった。
そもそも運動神経がないので、スポーツをやるタイプではない。ただ、両親から運動部に入りなさい(運動部ならなんでもいい)と言われたので、入ったという節もある。
そんな動機で入ったから、この3年間はまさに地獄。一日の練習時間は2、3時間で短かったのだが、その分内容を濃くやろうという考え方だったため、練習が終わるころにはヘトヘトだ。
そもそも運動をしてこなかったから、ついていくのに必死だった。リフティングだって3回しか出来なかった。俺以外に初心者はおらず、全員経験者だったので、肩身の狭い思いだった。
土日は基本他校との練習試合の日だった。顧問の先生は、部員全員が試合に出場できる機会を与えてくれたので、(もちろんBチームの方だが)試合に出ることができた。
しかし、俺は嫌で嫌で仕方がなかった。だって試合に出たところで足を引っ張るだけだからだ。
元々体力がないからすぐにバテる。FWで出たとしてもシュートをゴリゴリに外すし、DFで出ようものならあっさりと相手にかわされてゴールを決められる。
案の定、顧問に何度も怒鳴られた。部員からも白い目で見られる。
夏休みと冬休みには合宿に行く。2泊3日で、多い時には1日3試合をこなした。もちろんそれもしんどいが、合宿で一番辛いのは食事だ。
残さず食べるのは当たり前、それに加えてご飯3杯食べるのがノルマになっている。それもただの3杯ではなく、山盛りにされたご飯3杯だ。まぁきついきつい。
だから毎度のごとく、吐くやつが現れる。幸い俺は吐かなかったが、苦しくて仕方がなかった。
これで辞めたいと思わなかったといえば嘘になる。しょっちゅう辞めたいと思っていた。でも、退部しようものなら裏切り者のような扱いを受ける空気が漂っていたので、辞めると言う勇気なんて出なかった。
早く引退の時期にならないだろうかと考えながら部活に行っていた。
3年生の6月、地区大会の決勝でライバル校に敗れ、俺のサッカー部生活が幕を閉じた。ようやく地獄から解放されたと思い、正直ホッとした。
もうサッカーなんてやらない。あんな地獄は御免だ。そう思っていた。
結局、高校ではサッカーを続けなかった。もちろん大学でも。
しかし、俺のサッカー熱は、最初にも言った通り冷めるどころか熱していった。むしろどんどんサッカーが好きになっていった。
あんなに嫌だったサッカーがなぜ好きになったのだろう。
それは、前よりもサッカーができるようになったし、分かるようになったからだと思う。ある程度出来るようになると、サッカーの試合でプロの選手のプレーを見るたびに、そのすごさを実感できるし感動できる。
出来るようになることで、世界が変わるのだ。それまでは、サッカーと無縁の生活を送っていた。それが今ではサッカーがないと死ぬんじゃないかというくらい、毎日サッカーのことを追っている。
なんでもそうだと思う。出来るようになってからが楽しいのだ。
もし今、やっていて楽しくないことがあれば、もうちょっと続けてみよう。
いつか出来るようになって、楽しくなる日がやってくると思う。