発売まだなんかい!(ブチギレ) の悲劇を顧客体験と法律の観点から考察する
先日、悲しい出来事がありました。
フレッシュネスバーガーの新商品キングサーモンバーガーを求めて行きつけの店舗に向かっていたら、入店直前にまだ発売前であることに気がついたのです。がーーん。
「その食べ物の舌になる」という言葉があるように、キングサーモンバーガーを食べるモードになっていた私は非常に意気消沈させられたわけです。
こういう事件(広告表示の一工夫でこの悲劇は回避できるという思いを込めて事故ではなく ‘事件’ と呼びます)は、もちろんフレッシュネスバーガーに限らず、世の中のあらゆる飲食店で発生しています。過去には、牛丼の松屋などでもそういう体験をした記憶があります。
食べ物の恨みは怖いということで、今回はこの悲劇をCX(顧客体験)と法律の観点から少し分析してみます。
※とはいえフレッシュネスバーガー大好き人間なので、批判しつつもキングサーモンバーガーを宣伝するというツンデレな裏テーマがあるとかないとか…
キングサーモンバーガー事件の概要
悲劇体験の分析・考察にはまず現状把握からということで、初めに今回私に悲劇が起こった際の流れや前提条件を整理します。
※以下、キングサーモンバーガー事件は「キング事件」と略します。
前提情報
私はフレッシュネスバーガーのファン歴が5〜10年くらいで、フレッシュネスに関してはこんな思い出やあんな思い出があります(以下ツイートを参照してね)。
日比谷店(超お気に入りでした)や渋谷周辺の店舗が次々に無くなっていくのを見ながら胸を痛めていた1人です。ちなみにホットチャイが好きです。
なので、フレッシュネスバーガーの公式アプリをスマホに入れています。
また、今回のキングサーモンバーガー新発売の概要は以下の通りです。
事件発生の流れ
1.アプリからキングサーモンバーガー新登場のプッシュ通知を受け取る(おそらくリリース当日の10月18日)
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2.2023年10月25日(水)発売と書かれたリリースページを見たはずだが、あまり印象に残っておらず忘れる
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3.時間を置いて再度アプリホーム画面の商品画像を見て、もう食べれるから食べ行こ!と電車に乗る
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4.店舗に向かいながらクーポン画面を見ていて、キングサーモンバーガーがないことに違和感を抱く(新商品はだいたいクーポンが出るので)
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5.再度リリースページを見てまだ発売されていないことに気づく
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6.がーーん!メンタル大ダメージ
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7.でももうここまで来てしまったのでということで、軽くドリンクだけ注文
参考までに、公式アプリ画面がどんな表示になっているかも貼っておきます。
CX(顧客体験)の観点で考えてみる
私、実はカスタマーサポート畑で何年も仕事をしています。
電話・チャット・メールによる実際のサポート業務、ヘルプページやマニュアルの作成、新人育成など色々と携わってきて(残念ながら大きな顧客体験設計のプロジェクトに関わったことはありませんが)、やはり職業柄「顧客体験」について考える機会は多いのです。
今はCX(Customer Experience;顧客体験)やCustomer Journey(顧客がどういう時系列でサービス・プロダクトに出会い使ってくれるのかという行程のこと)という言葉がだいぶ一般的になっているかとは思いますが、今回のキング事件もそういう観点で捉えられないかなと。
企業戦略上、そこまでのコストを割けないという事情もままあるかとは思いますが、私の目線からすると世の中「いや、今のレベルのCXで本当に価値が最大限届けられてると思う?」と疑問に思うことは少なくないのです。
たとえば、同じ新商品発売でも、かつ丼のかつやの場合はこういう悲劇体験をした記憶がありません。違いはなんだろう、発売と同時に告知をしている?からなのかな。
CXって、実はそれほどコストを掛けなくても改善できることってたくさんあって、あとはCXを重視する企業姿勢やCXの重要性を理解している人やCX改善を回していく仕組みが社内にあるかどうかだけだと、個人的には考えています。
問題点であり改善点なのは画像!
CXの正解は、分かりやすい表示・質の高いサービス・適正な価格・誠実な企業姿勢・安心感や透明性等を通して、『顧客に価値ある体験が届くこと(顧客が価値を明確に認識すること)』だと思います。
さきほど『事件発生の流れ』の2番で、私は10月25日発売という重要情報を見落としたもしくは忘れました(これ言うのちょっと恥ずかしい)。
もし私と企業の訴訟の話であれば、発売日を見落とした私の落ち度は大きいでしょうし、この程度の分かりづらさを ‘詐欺的だ’ などと糾弾するのは難しいかもしれません。
一方でCXの観点から言うと、「正しさ」の定義はだいぶ変わってきます。なぜなら、『顧客に価値ある体験が届くこと(顧客が価値を明確に認識すること)』が重要だからです。
つまり「ちゃんと書いてるじゃないですか」で済ませるのではなく、「あ、25日発売なのね」と多くの顧客が簡単に認識できて初めて、CX的正解だと言えるのです。
そこで、キング事件の決定的な問題点を私が指摘するならば、それは
ということです。
今の画像でも小さく販売期間が記載されていますが、正直この大きさでは記載がないに等しく、多くの人が見落としてしまうでしょう。
ちなみに、実店舗に掲示されていたポスターやTwitterの半額クーポンキャンペーンのサムネイルでは、ちゃんと発売日付が分かりやすく表示されていました(ちゃんと見やすい)。なので、これを公式サイトやアプリ上の画像にも全面採用すればいいだけかなと。
人間はポンコツであるという前提で設計する
カスタマーサポートの仕事をしている人はおそらく何度も感じることですが、世の中のだいたいのことは画面上あるいはメールやヘルプページをきちんと読むことで解決します。
「ちゃんと読め」で終わりなんです笑
でも人は読まない。そんな面倒なことを注意深くできるのは一部の人だけです。
これを私は愛情を込めて『人間は(良くも悪くも)ポンコツである』という表現で捉えています。
長い文章は読まないし、参考リンクは踏まないし、画像は見たい部分だけを見て、当然小さい文字などはスルーします。
前章でも触れたように、従来的な正しさから言うならば「ちゃんと読め」「ちゃんと見ないやつが悪い」でいいんです。
でも、CX的観点からするとそれは正しくない。顧客が必要以上にあるいは長時間注意深さを維持しないと使えない(価値が届かない)のであれば、それはサービスとしては失格です。
「そんなに大きなエネルギー(手間や時間や集中力)を使ってないけど、なんかいつの間にか良い体験ができてた!」これが最高のCX(顧客体験)だと思います。
さて、ここからはリピート顧客と新規顧客に二分して考えてみましょう。
リピート顧客には致命傷にならない
既出の章『前提情報』で説明した通り、私はリピート顧客に該当します。
リピート顧客の場合は日頃からフレッシュネスバーガーを利用し、好きな商品・好きな店等の明確に魅力を感じているポイントが複数あります。
すでに強い愛着を形成している状態なので、今回のキング事件のような悲劇に襲われたとしても、フレッシュネス愛は簡単には揺らがないのです。
短期的な落胆はあれど、利用頻度が落ちたり利用をやめてしまったりするリスクは低いと想像します。
新規顧客には悪影響があるかも
一方で、これまでフレッシュネスバーガーを(あまり)使ったことがない新規顧客の場合はどうでしょうか。
公式アプリはそもそもリピーターの人しか入れてないでしょ、という指摘が入りそうなので、一応公式HPも見てみました。するとやはり、アプリ上と同様の商品画像が使われており、トップ画面やメニュー一覧画面内ですでに販売中の商品と横並びに表示されています。
これを見て冷静に「発売前だ」と気づける人がどれくらいいるのか、私にはちょっと疑問ですね。
そして新規顧客の場合は、フレッシュネスバーガーに対する愛着は特にありません。大きなプラスがない状態でキング事件のような悲劇を経験すると、マイナスとは言わないでも本当だったらプラスになっていたブランドイメージが相対的に下がってしまうのではないかと思うわけです。
もちろん「また来れたら来よう〜♪」や「もう1回来て絶対に食ってやる!」という人も一定数いるとは思いますが、そうじゃない人もいるんじゃないかなと。
なにより、「発売まだなんかい!(ブチギレ)」って本当にしょうもない悲劇なんですよね。商品を具体的に想像して期待しているからこそショックも大きいし、そんな体験誰もしなくていいのに起こってしまうという。。
「なんだかんだ言ってどんな店でもレギュラーメニューが一番美味しいよね」と薄々勘付いている私も、期間限定メニューを見るとどうしても気持ちが揺らいで注文してしまいます。
新しいメニューってワクワクしますよね。日常生活を彩ってくれるし、期待外れなときもあるけど、間違いなく私たちの生活に幸せをもたらしてくれるアイテムだと思います。高頻度で新商品を繰り出す企業努力、開発チームの人たちにはいつも感嘆しています。
だからこそ、それを実際に届ける最終段階で悲劇が起きてしまうのはもったいないんです。
もっとデカデカと発売日を載せた方が、待つ側もテンションが上がるような気がしますけどねえ。無意識のうちにカレンダーをチェックしたりするし、心理学的にも売り上げに繋がるんじゃないかなあと思ったりもします。
法律面ではどうなんだろう?
ここまではCX(顧客体験)の観点で考えてきましたが、もう一点法的側面からも見てみたいと思います。
パッと思い浮かぶのは景品表示法
新商品の予告広告という前提ですぐに思い浮かんだのは景品表示法(不当景品類及び不当表示防止法)でした。
※私は法律の専門知識を持ち合わせていないため、素人の考察であることをご了承ください。
消費者庁の資料ページを見てみると、「表示規制」・「景品規制」のうち表示規制が関係しそうです。ただ、発売時期の認識相違の話なので、優良誤認表示(5条1号)・有利誤認表示(5条2号)のいずれにもしっくりくるとは言い難い。。
どちらかというと、5条3号に該当する可能性があるでしょうか。
消費者庁のサイトでは、5条3号の主な事例として以下が挙げられています。
無果汁の清涼飲料水等についての表示
商品の原産国に関する不当な表示
消費者信用の融資費用に関する不当な表示
不動産のおとり広告に関する表示
おとり広告に関する表示
有料老人ホームに関する不当な表示
この中では、5番目の『おとり広告に関する表示』が最も近そうです。
そして、具体的なおとり広告に関する表示としては、以下の4種類が規定されています。この中では、太字にした1番目がキング事件に最も近いイメージでしょうか。
取引の申出に係る商品・サービスについて、取引を行うための準備がなされていない場合のその商品・サービスについての表示
取引の申出に係る商品・サービスの供給量が著しく限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明りょうに記載されていない場合のその商品・サービスについての表示
取引の申出に係る商品・サービスの供給期間、供給の相手方又は顧客一人当たりの供給量が限定されているにもかかわらず、その限定の内容が明りょうに記載されていない場合のその商品・サービスについての表示
取引の申出に係る商品・サービスについて、合理的理由がないのに取引の成立を妨げる行為が行われる場合その他実際には取引する意思がない場合のその商品・サービスについての表示
他にも、トップコート国際法律事務所による広告を規制する代表的な3つの法律についての記事も読みましたが、やはり現時点で私が情報収集した中では景品表示法以上に適切な法律はなさそうです。
そもそも法律でアプローチすべきか
とまあ、景品表示法についてあれこれ整理してきたわけですが、それをひっくり返すようなことを言います。
私個人としては、キング事件のような発売日誤認の悲劇は、法律レベルで厳格に取り締まるべきものではないような気がしています。
消費者への損害の大小や「おとり」・「詐欺」度合いから見ても、果たして法律で一律に規制する合理性がそこにあるのかどうか、法律でガチガチにした先に幸せな未来があるかどうかは、微妙なラインだと思います。どちらかというと、業界ガイドラインやさらに言うとビジネス慣行等で定着していけばいいなあという感じでしょうか。
私も別に本気でフレッシュネスバーガーを恨んで訴える気は1ミリもなく、単に物事は多角的に分析した方がよりよい未来に繋がると考えているのと、あとは興味本位で調べてみたくなったというだけです。
それと、これまでも何度か色んな飲食店で同様の悲劇に見舞われてきて、今回のキング事件で「あかん!改革や。つらい、もったいない!書かな気がすまん!」と思ったので書いています。
キングサーモンといえば
まじめな話はこれくらいにして。
キングサーモンと聞いて世の中の人が思い浮かべるのは何でしょうか?私が真っ先に思い浮かべたのは「釣りキチ三平」です。
三平はですね、山奥のオオイワナから大洋のマーリン(カジキのこと)まで様々な大物と対決するわけですが、キングサーモンの回もおもしろかった記憶があります。
たしかアメリカ(カナダ?)のキングサーモン釣りの大会に出場して、たくさんのボートがひしめき合う中で三平も竿を握るわけですが、激闘の末に水面に上がってきたでっぷりと太ったキングサーモンの魚体はたまらなくエキサイティングでしたね〜。
いっそのこと、自分でキングサーモンを釣ってバーガーにしよう!みたいなツアー企画を組んでくれないですかねえ、フレッシュネス。お金があれば参加したいです(注:今はない)。
※もちろん小物釣りや日常的な魚との戯れも釣りの醍醐味です。釣りキチ三平にはタナゴ釣りやハゼ釣り、寒バヤ釣りの回なども豊富にあります。大物釣りだけが釣りではないことは断言しておきます(元釣り人として釣りの豊かさを伝える使命感より)。
さて、キングサーモンバーガー開発担当者の逆井さんの汗と涙の試行錯誤を(間接的とはいえ)‘逆井撫で’ してしまった私は、果たしてフレッシュネスバーガーを出禁にならずに無事にキングサーモンバーガーを味わえるのか・・
乞うご期待。もちろんキングサーモンバーガーの味にも期待。
その後・・
なんだかんだぐちゃぐちゃと書いてきた私ですが、発売後にさっそく食べてきました、キングサーモンバーガー!入店拒否はされなくてよかった・・
さすがフレッシュネスバーガー、そして逆井さん。なかなかのお味でした。印象としては思ったより鮭風味が強く、やや水っぽい感じ。キングサーモンのそもそもの身をよく知らないので、たぶん素材の味を生かした感じに仕上げてるんだろうなと。
おっと、また鮭撫でしてしまうといけないので、ここらへんで。
私はこれからもフレッシュネスバーガーを愛し応援します。
'23/10/24 更新(本文全体)
'23/11/05 最終更新(後日談の追記ほか)