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酸味量をコントロールする!ペーパーリンスと酸味の関係

毎度ありがとうございます。滋賀県湖南市のDONGREE COFFEEROASTERS 店主&焙煎士のドリーです。

コーヒーをご自身でハンドドリップして楽しまれている方は、それぞれにレシピや淹れ方を調べたり、工夫したりしている人も少なくないと思います。WEBやYoutubeでは、それこそプロフェッショナルな淹れ方を自宅ですぐに試せるような情報もたくさんあります。

でも、実際、1番美味しい淹れ方ってどれだろう?
みんな言ってることが違うけれど、どれが正しいのだろう?

そんな風に悩まれている方も少なくありません。

当店でのコーヒーワークショップにも、そのような思いでいらっしゃるお客様は比較的多いように思います。
そこで、私が行うワークショップでは、そんな沢山の情報に触れる前に、ドリップコーヒーの重要な要素として『5つの計る』、を習慣にして身につけることを推奨しています。

計ることで、お湯を注ぐ以前にコーヒーの味はほぼ決まっていて、それはちゃんと自分で狙えるようになっている。
そんなことを理屈と体験の両方で知ってもらう内容を大切にしています。

計るだけではコントロールしきれない、それがドリップコーヒー。

とはいえ、複雑な香味成分でできているコーヒーという飲み物、『計るだけ』でその全てがコントロールできるわけでもありません。

注ぐお湯のスピード、湯量、注ぎ口の高さ、さらにはお湯の線の太さや細さ。これらはすべて、コーヒーを抽出する人の「クセ」に大きく影響されます。
朝の少し急いでいる時間帯、ゆったりとした休日の午後、どちらも同じ分量・同じ温度のお湯を使っていても、その日の自分のリズムや手の動き、そして心の状態までもが、コーヒーの味わいに滲み出てしまうことがあります。

だからこそ、ハンドドリップには「正解」がありません。そして同時に、そこにこそ面白さがあると思います。

今回はそんな計る以外の変数として、ハンドドリップの作法として取り上げられることの多い、『ペーパーフィルターのリンス(湯通し)』について、考えてみたいと思います。

ペーパーフィルターのリンスとは?

ハンドドリップにおける「ペーパーフィルターのリンス」とは、コーヒーの抽出前に、ドリッパーにセットしたフィルターにお湯を注ぎ、紙を湿らせる工程のことを指します。

一般的に知られているリンスの目的は、大きく分けて

「紙の匂いを取り除くこと」
「温度管理を安定させること」

の二つです。

紙のフィルターには微細な紙の繊維が残っており、そのまま抽出を始めると、微かな紙の匂いや雑味がコーヒーに移ってしまうことがあります。
また、リンスによってペーパーフィルター自体やドリッパー全体が温められます。ドリップコーヒーにおいて抽出温度は非常に重要で、フィルターやドリッパーが冷たいままだと、せっかく適温のお湯を注いでも温度が急激に下がり、十分な成分が抽出されないことがあります。リンスを行うことで、フィルターが温まり、コーヒー粉にお湯が均一に行き渡りやすくなるのです。

しかし一方で、リンスにはデメリットも存在します。
例えば、フィルターに残った余分な水分によって目詰まりが起きて、抽出時間がかかりすぎて雑味の原因になることも考えられます。
「リンスしないほうが、豆本来の持つオイルや風味がより強く感じられる」と主張するバリスタも少なくありません。

こうしてみてもペーパーフィルターのリンスは単なる「下準備」ではなく、コーヒーの味を左右する重要な作法なのです。

そして私自身は、このリンスという工程を「絶対にやるべき」とは考えていません。
その特性を活かして、どのように抽出したいか、で使い分けています。

"ペーパーに吸着する酸味量"がリンスの本当の効果

私はかねてより、一般的なペーパーリンスの効能をあまり実感できていませんでした。
むしろ抽出時間がかかりすぎて過抽出になったり、ドリップの工程が増えて手間に感じるデメリットの方が多いとも思っていました。
しかし、あるときから、リンスによって明確に変わる味わいに気づき、それからは目的に応じて明確に『リンスをするとき、しないとき』を使い分けるようになりました。
その使い分けとは、以下の2パターンです。

酸味を際立たせたいとき→リンスを行う
マイルドさや甘さを引き出したいとき→リンスをしない

香りや、保温効果による抽出効率ばかりが論じられているペーパーリンスですが、実は『ペーパーに酸味を吸着させる効果』が、1番クリティカルな役割だと私は考えています。

なぜ酸味が吸着するのか?

それは以前の記事でも紹介していた、ハンドドリップにおけるコーヒーの味の溶け出す順番が関係しています。

抽出の初期段階では酸味が溶け出すという、コーヒーの特性を考えた時に『乾いたペーパーで酸味を吸い込んでもらえば、コーヒー液の中から酸味量を減らせるのでは?』と仮説しました。
そして、酸味がきついと感じるコーヒーを『リンスせずに』ドリップしたところ、どれもマイルドな口当たりになり、場合によってはフレッシュな甘味を豊富に含んだ、美味しい液体になることが多くなりました。
逆に、苦味や渋みが含まれて、ビターな印象になってしまったコーヒーを、しっかりリンスしてドリップすることで、抽出初期の新鮮な酸味が際立つ爽やかなコーヒーに仕上げることもできました。

1・リンスしない→最初の酸味を含んだ液体がペーパーに吸い取られる
(ペーパーが乾いているから吸収されやすい)

2・リンスする→最初の酸味を含んだ液体はそのまま抽出される
(ペーパーが濡れているので吸収されにくい)

ペーパーのことだけをみていては気づかなかった、『コーヒーの溶け出す味の順番』という概念とあわせることで、リンスのする、しない、という二項対立ではなく、目的に応じた選択肢として活用すればいいことが理解できます。

他にもまだまだ分かっているようで、分かっていない、コーヒーの作法が世の中には沢山あると思います。
ひとつひとつ解き明かして、新たな味に出会うことも、コーヒーならではの楽しみ方ですね。

みなさんのコーヒーライフが、楽しい発見と美味しいひとときになりますように!

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