2016年 小学生部門 最優秀賞『不思議の国のアリス』
受賞者
田中 愛麗さん(小5)
読んだ本
『不思議の国のアリス』 ルイス・キャロル作 脇明子訳 岩波書店
作品
「ふつう」はいらないワンダーランド
田中 愛麗
「不思議の国のアリス」の作者がオックスフォード大学の数学者であることをごぞんじでしたか。こんな奇想天外な物語をなぜろんり的に考える数学者がかくことができたのでしょう。おどろくことに、この話は一五〇年読みつがれてきました。それは、この話のもつおもしろさに普遍性があるからではないでしょうか。普遍とは、昔に書かれたことが現代でも充分に人を楽しませ、必要とされるということです。そう考えると、数学という普遍的な学問で身をたてていた数学者がこの物語の作者というのもうなずけます。
さて、この話の登場人物をみてみましょう。まずはドードー鳥。私はあまりドード鳥は好きではありません。なんでもしっているかのようにふるまっているところが鼻につくからです。ドードー鳥はアリスにアリスのもっていたゆびぬきをあげました。つまりアリスに持ち物を返したわけです。意味がないと考えてしまいますが、ドードー鳥はいたって真面目。真面目に意味がないことをしているのです。
反対に私が気に入った登場人物は、白ウサギと、とかげのビルです。白ウサギはこの話の案内人のようで、アリスと深くかかわるわけではありませんが不思議と親近感がわきます。それからビル。ビルはちょっと気の毒なとかげです。アリスといるとビルはなにかしらそう動にまきこまれます。えんとつから飛ばされたり、陪審員席からおとされてさかさまにさせられたり、チョークをアリスにとりあげられてなにもかけなかったりと、災なんな目にひんぱんにあっています。間が悪かったりして間ぬけなところがかわいいから、私はビルがおもしろくて好きです。
私は前から「ふつう」という言葉が嫌いです。なぜなら「ふつう」というものはそん在しないからです。人はそれぞれちがうのに、「ふつうはそうだ」などといってしまったら、人はみな同じ考えをもち行動するロボットみたい、ということになり、とてもきもちわるくなってしまいます。アリスの世界ではみなちがいすぎて「じょうしき」などというものは通用しないし、必要ありません。私は不思議の国のアリスをよみ、「ふつう」でなかったとしても、全く問題ないのだとひらきなおることができました。なぜならこの話の登場人物よりは私の方がずっとじょうしき人だからです。でも、だからといってこの話の登場人物にくらべて私がふつうだというわけではありません。もし私がこの話に入っても、まったくおかしくないし、むしろ、もっと話がおもしろくなる可能性だってあるでしょう。
一五〇年もの間読みつがれてきた物語のなかで「ふつうじゃない」「非じょうしきな」登場人物たちは様々な時代の子供たちを楽しませてきました。一人の数学者がこれほどたくさんの個性ある登場人物を思いつき、それを存分に動かし、物語をすすめていく――それはとてもむずかしく、そのい業を成しとげた作者はすばらしくユーモアと想像力があったのだと考えます。そしてこれから一〇〇年でも子供たちを楽しませていくにちがいありません。
(注:作品では第2段落の太字の部分に傍点が振られています。――読書探偵作文コンクール事務局)
受賞のことば
頑張った人の中から選ばれるという事
「ふつう」はいらないワンダーランド。私の工夫はすでに題名から始まっています。この題名を見て興味を持たない人はきっといないはずです。また、この本の「ふつうじゃない」ことがうまく表現できてよかったです。
私は一年生の時から読書探偵に応募してきて、初めて賞をとりました。だから頑張って書いても賞をとれない時の気持ちが分かります。だからこそ頑張った人の中から選ばれて自信が持てました。しかも最優秀賞なので喜びと誇らしさで一杯です。
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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)
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