2020年 小学生部門 最優秀賞『もぐらのバイオリン』
受賞者
棚瀬 準三さん(小3)
読んだ本
『もぐらのバイオリン』 デイビッド・マクフェイル作 野中ともそ訳 ポプラ社
作品
「もぐらがかなでる音色」
キツネやリスが歩く草むらの下には、もぐらの家があった。もぐらは、ひとりきりでくらしていた。
ある夜、テレビから流れるバイオリンの音色に心をゆさぶられたもぐらは、自分でバイオリンをひいてみたくなった。
注文したバイオリンが届いてからの毎日は、ひたすられん習をくり返す日々。どんなにおそろしい音にも、ひっかくようなひどい音にもめげず、もぐらはひき続けた。
すると、だんだん音が出せるようになり、曲がひけるようになっていった。うでがめきめきと上達したころには、何年もの月日が過ぎていた。
それでも、バイオリンがひけるようになったもぐらは、今までにないほど幸せだった。夜にひく曲を口ずさみながら、昼間にトンネルをほるのだった。
ぼくはもぐらが大すきで、もぐらの本をたくさん読んできた。バイオリンも大すきで、三歳から習っている。
だから、この本と出会った時はうれしくて、「わぁ。もぐらがバイオリンをひいている。おもしろい!」と思わず声をあげていた。
もぐらがバイオリンをひきたくなった理由が、ぼくといっしょなのもうれしかった。ぼくも、「バイオリンの音って、きれいだな。ひいてみたいな」と思ったのがきっかけだった。
れん習を繰り返しているところも、ぼくといっしょだった。ぼくも、「かならず毎日れん習するぞ!」とちかってから、どんな日もかかさずに、短い日は三十分、長い日は三時間ほど、バイオリンにふれてきた。そのかいあって、どんどん新しい曲がひけるようになってきた。
ただ、ぼくには先生がついている。けれど、もぐらの先生は自分自身だ。ひとりきりでれん習しなきゃいけないのに、あきらめずにがんばって続けて、どんどん上手になっていて、本当にすごい。
初めて読んだ時、ぼくは、もぐらの世界は地面の下だけで、地面の上で起きている出来事は、もぐらのゆめだと思っていた。
けれど、何回か読むと、もぐらの世界は、上の世界ともつながっているんじゃないかと思うようになった。
十何回か読むと、もぐらの家に根をはる木がだんだん成長していることや、地上の鳥が、バイオリンの音のひどさにびっくりしていること、木の上にいた小鳥たちが戦争でにげてしまったことなんかの、細かいところに気が付いた。
そして、「もぐらのゆうごはんは、からあげかな。こんな生活をして、太っちゃったのかな」「テレビにうつっている、へんな持ち方のバイオリニストはだれかな」と、今まで考えつかなかったことを想像した。
何十回か読むと、イラストの音ぷが何かの曲を表しているような気がしてきた。そこで五線ふを書き起こしてみたら、二十ページからは、ブラームスの交きょう曲第一番。二十六ページからは、ベートーヴェンの交きょう曲第六番『田園』三十ページからは、ベートーヴェンの交きょう曲第九番第四楽章『かんきの歌』がかくれていた!
もぐらのバイオリンの音がひどい最初のころは、五線ふがかい読できないくらいグニャグニャだということにも気付いた。ただのイラストだと思っていた五線ふが、もぐらのバイオリンの上達ぐあいを表していたのだ。
この本は、文章を中心に読むと、バイオリンと出合ったもぐらが幸せになっていく様子がわかる。イラストの五線ふをたどると、バイオリンの音色が美しく変化していく様子がわかる。さらに、イラストを中心に読むと、音楽がかなでる「きせき」がわかる。
バイオリンは、自分で音を作り、歌うようにひくことができる。そのかわり、自分の心が表れやすくもある。もしも、ギコギコした音がでてしまった時には、ひき方の見直しだけじゃなく、自分の心と向き合う必要があるのだ。
もぐらは、バイオリンの技術をみがくだけじゃなく、いつも自分の心と向き合っていた。だから、美しい音色が人々の心に届き、怒りや悲しみをとかすことができたんだ。
よく見ると、もぐらがかなでる音色をききながら、木の根っこまで、だんだんハートがたになっていた。
ぼくは、もぐらに教えてあげたくなった。
「きみは、ばかなんかじゃないよ。きみがかなでた音楽があまりにも美しいから、人間は戦争をやめたんだ。きみと、きみの音色が、世界を変えたんだよ」
「カナヘビのバイオリン」
受賞のことば
前回はゆうしゅう賞でうれしかったけど、今回はもっとすごい最ゆうしゅう賞をもらえて、とてもびっくりしました。本を何回も何回も読んで、読むたびに新しいことがわかったのが面白かったです。ぼくは生き物や音楽が大好きなので、大好きなことを文章で伝えられたのが良かったと思います。これからも楽しい本をたくさん読みたいです。
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(注:応募者の作文は原則としてそのまま掲載していますが、表記ミスと思われるものを一部修正している場合があります。――読書探偵作文コンクール事務局)
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