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心の傷とどう向き合うか「杉森くんを殺すには」

こんにちは、読書子です。
本日、紹介する本はこちら。
「杉森くんを殺すには」

第62回野間児童文芸賞を受賞した作品です。
著者は児童文学作家の長谷川まりるさん。
LGBTを扱った小説「お絵かき禁止の国」や何かを呼びよせる力を持った人たちの短編集「呼人は旅をする」など、数々の作品を生み出しています。

それでは、あらすじを簡単に紹介しましょう。

『「杉森くんを殺すことにしたの」
一大決心した高校一年生のヒロは兄のミトさんへ電話をかけ、上記の言葉を告げた。
一通り話を聞いたミトさんは「①やり残したことがないようにすること②杉森くんを殺したい理由をまとめておくこと」とヒロへアドバイスする。

ミトさんとの電話終了後、早速行動に出たヒロ。
まずは貯金箱に貯めていたお金を全て使って欲しい漫画を買い、読み漁る。
高校でできた友達・良子さんたちと遊園地へ行ってジェットコースターに乗るなど。
やり残したことを着実にこなしていく。

同時に杉森くんを殺したい理由もまとめていった。
杉森くんを殺したい理由その1.杉森くんは意地悪、その2.杉森くんは人でなし、その3・・

ある日、パフェを作って食べようという話になり、良子さんがヒロの家へ遊びに来る。
そこでヒロは杉森くんを殺すことについて話すのだが、良子さんのある言葉がきっかけで軽くパニックを起こしてしまい、彼女を家から追い出してしまう。

物語は「杉森くんを殺すことにしたの」と物騒な言葉から始まる。
なんでも杉森くんはヒロにとてもひどいことをしたらしい。
例えば、小学2年生の図工の時間でヒロが一生懸命作った貯金箱を壊した。
中学生の頃、ヒロが体育苦手だと知っているのにバレー部に誘ってきたなど。
たしかに、杉森くんは自分勝手でわがままなことばかりしている。

でも、読み進めるとどうもヒロの様子がおかしい。
そもそもヒロの話だけで杉森くん本人が物語に登場していない。
その理由は、良子さんがヒロの家へ遊びに来た時に分かりました。

※ここから少しネタバレを含みます

小学生の頃から仲良しだったヒロと杉森くん。
だけど、中学生になって杉森くんはどんどん生きづらくなっていった。
いつも文句や愚痴ばかり。
ヒロはとうとう付き合いきれなくなり、自分の世界から杉森くんを追放します。

その後、杉森くんは自殺してしまう。

ここで自分では止められなかったと思いながらも、ずっと後悔し、悩んでいたヒロの気持ちを初めて知りました。
杉森くんは放っておくと自分を殺すから、私が殺すんだ。」
この文を読んだ時、杉森くんを思うヒロの気持ちを考えると胸が苦しくなりました。

杉森くんの死をきっかけに、ヒロは杉森くんとの関係を見つめ直し、自身と向き合っていきます。
どうすればよかったのかと葛藤し、悩みながらもヒロが杉森くんを失った悲しみと向き合えていけたのは、ミトさんをはじめ、良子さんやクラスメイトの矢口くんといった、多くの人たちとの関わりだと思います。

身近に悩んでいる人がいたら、SOSのサインを見つけて受け止める。
そして、相手の話に耳を傾けてみることが私たち大人の役割だ
とこの本を読んで思いました。

心の傷と向き合い、再生を描く「杉森くんを殺すには」
学生たちにぜひ読んでもらいたい1冊です。




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