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声を伴う本ーミニ読書感想『絵本の力』(河合隼雄さん他)

精神科医河合隼雄さんと、絵本編集者松居直さん、ノンフィクションライター柳田邦男さんが絵本を巡って懇談した『絵本の力』(岩波書店、2001年6月18日初版発行)が面白かったです。子の発達障害を診てくれている主治医から薦められた、絵本の読み聞かせ。その意味を深めたいと思って手に取りました。


絵本の最大の特徴は、黙読するものでは(基本的には)ないということ。親が子に、声に出して読み聞かせる想定であること。

河合隼雄さんは、このことに関連して、「絵本には音がある」と語る。

私は絵本の可能性と聞いたときにすぐ思いついたのは、絵本は絵だけれども、絵の中に音も歌もある、そういう可能性です。そういうことをすぐに思いつきました。

『絵本の力』15

絵本には、親が読むセリフがある。そして河合隼雄さんは、子どもが見つめる絵にも、さまざまな音が含まれていると指摘する。

絵は音ではない。絵は音を表しているわけではない。だけど、セリフに呼応し、絵から音が立ち上がってくる。それはまさに、想像の営みである。

われわれ大人は、なんでも知っていると思いすぎるんです。ああ、これは木の林か、冬だな、というぐらいしか思わないのですが、子どもは、お父さん、ここに顔があるで、ここに貴婦人がおる、合唱が聞こえてくる、となるんですね。そういう可能性に満ちている世界、それが子どもの世界であり、その子どもの世界を上手に絵本にしている。

『絵本の力』p17

そうした、本の中の音を読み取ること。自由に絵本からの声を聞き取り、世界を広げること。絵本編集者の松居さんは、こうした音と声を伴う絵本が、黙読に先立つ読書の入り口になると言う。

早くから字を読むということは私はあまり賛成ではないんです。文字というのは大変限られたものでくし、本を読むというのはその言葉の中に一人で入っていくことですが、読んでもらうというのは語る人の聴く人が共にいますから、それで私は人と人が共に居る体験として絵本を読んでやってほしいと思うんです。

『絵本の力』p160

読み聞かせの声は、子どもにとっては読書の伴走者になる。その発想が素敵だと思いました。

私は子どもの主治医から『読み聞かせは感情の学習になる』と教わりました。ASDの子は、他人の感情・働き掛けに呼応するのが苦手。絵本には、さまざまなやり取りや、感情が描かれている。その言葉を読み聞かせ、時には子どもが(意味が分からずとも)おうむ返しすることで、例えば喜びとはなんなのか、悲しみとはなんなのか、少しずつ身体に染み込んでいく。

それは、絵本に内在する音と声が、障害のある子のコミュニケーションの導き手になっていると捉えることも出来そうです。

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