土と生き物のことを考えたら救われたーミニ読書感想『大地の五億年』(藤井一至さん)
土をテーマにする研究者、藤井一至さんの『大地の五億年 せめぎあう土と生き物たち』(ヤマケイ文庫、2022年7月5日初版)に救われました。本書を読んでいたのはさまざまな個人的事情でどん底の時期だったのだけれど、広大ではるかな歴史を含む土のことを考えると、深呼吸がつけたのでした。
タイトルの通り、地球にどうやって土が誕生したのか、そしてその上で、あるいは地下で、生き物たちはどのように土との関係を結んできたのか、悠久の歴史をひもとく。土研究者の著者らしく、世界各地の現場で撮影した写真が散りばめられている。その写真を見ると、遠くの世界が見えるようで、人生の苦しい時にも視界が広がります。
土はしばしば酸性になり、それは動植物が暮らすには大きなハンディキャップになる。そのため、生き物は常に土や酸性化との関わり方を模索してきた。その姿が、深く胸を打ちます。
たとえば、ブロメニアガニ。土を酸性に変える要因の一つは落ち葉から排出される酸性物質。ブロメニアガニは水たまりの中で子育てをする習性があり、水たまりに絶えず落ちる葉っぱとの格闘を繰り広げてきました。
こんな解説と共に、体よりも大きな葉っぱを両手(両方のハサミ)で懸命に持ち、水たまりから出そうとする小さなカニの写真が掲載されている。ああ、こんな小さな生き物が、困難な環境で知恵を絞って生きているんだ。自分の悩みが少し軽くなるような気がしました。
植物の姿にも感銘を受ける。たとえば、過酷な環境でも生えるシダ植物。
そうか、恐竜絶滅で大地は荒れ果てたのか。そして、それでも、その大地を再び緑に変えた存在がいたのか。
やってやれないことはない、という気持ちになります。もちろん生き物も植物も、私を励まそうとしてるわけではないのだけれど。
英国の伝統的羊飼いジェイムズ・リーバンクスさんの『羊飼いの暮らし』(ハヤカワ文庫)という本に、生きる価値は自分より大きな「鎖」の一部になる感覚から見出される、という趣旨の記述がありました。『大地の五億年』を読んで感じ取れる爽快感、悩みがほぐれる感じもこれに近い。
自分より大きい、はるかに大きい存在に思いを馳せる。そうした経験を通して、卑小な私は、また明日からも困難に向き合っていける。どうにかこうにかではあるけれど、向き合っていける。淡い希望を抱かせてくれる本でした。