対話とはこうすることなんだーミニ読書感想「世界史の考え方」(小川幸司さん・成田龍一さん編)
今春から高校で始まった新科目「歴史総合」への向き合い方をまとめた「世界史の考え方」(岩波新書)が面白かった。難しいけど面白い。歴史研究、歴史授業の専門家である小川幸司さんと成田龍一さんの編著。お二人が各回ゲストを招き語らう対話形式で、「対話というのはこうやってやるんだ」というのを実践して見せてくれる。読む対話だった。
歴史総合は、近代から現代にかけての世界史と日本史を一体的に学ぶ新科目だ。この二つの歴史を架橋することは、言うは易し行うは難し。本書は、そもそも世界史と日本史をつなぐにあたって「歴史認識とは何か」「歴史叙述とは何か」という根本部分を問い掛け、鍛える内容となっている。
たとえば第1章では、大塚久雄氏の「社会科学の方法」という本と、川北稔氏の「砂糖の世界史」という本をテキストに、それぞれの歴史叙述の仕方の違いを味わう。大塚式では西欧発の近代化が各国に波及していくある種の「縦割り型・段階型」なのに対し、川北式では「西欧発の近代化は、そもそも奴隷制など途上国の犠牲を前提としたものだった」という構図を念頭に置く「システム論」的な視点で歴史を捉えていく。
内容自体は非常に難解だけれど、その読み解き方に本書は工夫を加える。それがすなわち対話だ。本書は、軸となくテキストをどう読むか、どう解釈するか、編者の2人が交互にコメントしていく。時には、最初の編者のコメントに対して不足する点や、別の観点からの考察を加えていく。賢人の話し合いを聞くように、読者は「ふむふむ」と理解を深めていける。
さらに、編者は対話の後半で、テキストをさらに批判的に考察するために第三者のゲストを招く。この人選も面白い。
たとえば第1章では、二つの近代化の歴史叙述に対して、中国史の専門家の話をぶつける。すると、西欧が近代化の歩みをスタートした時に東洋はどうだったのか?という新しい視点が加わる。
その後も、アフリカ史や中東イスラエル・パレスチナ史など、西欧中心の世界史認識を揺さぶり、変えていくためのゲストの話が大変興味深い。
このように本書は、二重三重、幾重もの対話の中から読者が発見の連続を繰り返し、「歴史を考えること・語ること」の深みを味わえる設計になっている。
対話は正直、難しい。眠たくなる箇所もある。でも耳を傾け続けると必ず興味深い瞬間がある。対話は対談とは違う。刹那的なエンターテイメントとは違い、学ぶことの楽しさが本書には詰まっている。
歴史総合の「答え」が書かれた本ではない。むしろ、飽くなき問いに向かうための土台を強くする一冊だった。